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僕と会長とちまき。
三人で並んで帰る通学路は、もうすっかり薄暗くなっていた。
毎日毎日、生徒会室でバカ話をしてから帰るせいで、こんなふうに遅くなることも多い。
ちまきは生徒会室に顔を出さない日もあるから、毎日三人で帰っているというわけではないのだけど。
こうやってふたりと一緒に帰るのは、僕にとってごく日常的な行動となっているようにも感じられた。
会長は方向が違うため途中で別れることになるから、ちまきがいない日は、そこから先は僕ひとりでの帰り道となる。
そうなると、突然しーんと静まり返ってしまう。
もちろん、車が走る音だとかカラスの鳴き声だとか、様々な雑音は聞こえてくる。
ただ、誰も僕のことを知らない世界の中にポツンと取り残されたような寂しさを感じてしまうのも、また事実だった。
そんなとき、うるさいという思いはあるものの、会長やちまきが僕にとってとても大きな存在になっているのだと、改めて感じたりするのだけど……。
「会長さん。次はどんなイベントをしましょうか?」
「そうだな……。七月には七夕があるな。夏の定番、花火大会もしたいところだが、八月は夏休みだしな」
「だったら、花火大会も七月で!」
「うむ。それがよかろう」
「祇園祭りも七月じゃなかったでしたっけ?」
「おお、そうだな。ここは京都ではないが、東京は東の京都。やっておくべきだな!」
「土用の丑の日もありますよ?」
「それはいいな。ウナギ祭りも決定だ!」
「飲めや歌えの大騒ぎですね!」
「うむ!」
……祭りのたびになにかしらの被害をこうむる僕にとっては、地獄のごとき計画が、どうやら実行に移されようとしているみたいだった。
こんな帰り道なら、静かなほうがマシかもしれない。
と、不意に。
ガサッ……。
背後から、なにか物音が……。
「だ……誰っ!?」
ちまきが振り返って叫ぶ。
でも、耳を澄ましてみても、しーんと静まり返るのみ。
「……菱餅先輩……ではないですよね」
「ああ。あいつならば、気づかれたとわかった時点で飛び出してきて、『お姉様~♪』などと言いつつ私に抱きついてくるだろう」
「……確かにそうですね」
会長が『お姉様~♪』と言いながら腰をくねくね揺らす仕草がなんだかとっても新鮮だったけど、今はそんなことにツッコミを入れている場合でもない。
「そういえば以前、会長に逆らったら知り合いの死神に頼んで消してもらうとかって言ってましたよね? もしかして、その死神……だったりするんですか?」
言っておきながら、なにをバカなことを、というような否定が飛んでくるのを期待していた。
だけど会長の答えは、僕の期待をあっさりと裏切る。
「さあ、どうだろうな」
「……え? どういうことですか?」
冷たい風が吹き過ぎていく。
そう感じたのは、背筋の寒気のせいだろうか?
ちまきもぐっと息を呑み、僕の腕にそっと身を寄せながら、黙って会長の言葉に耳を傾けている。
「昔からなんだがな。私の帰り道に待ち構える不埒なやから……まぁ、小学校の頃から学級委員長や生徒会長をやっていたから、いちゃもんを吹っかけてくるやつらも多かったのだが、そんなとき、知らないうちに排除されていることがあってな」
「排除って……」
「うむ、まるでなにか人ではないものが私の敵を代わりに倒してくれたかのように、そういったやからが道ばたに倒れていたのだ。私は救急車を呼んでやったのだが、待っているあいだに話を聞いてみると、急に具合が悪くなって倒れたといった感じでな。私に逆らうと死神が呪い殺しに来る、なんて噂が立ったこともあったくらいだ」
「怖いですよ……」
こんな話を聞いたからか、今もどこからか視線を感じるような気がして、僕は自分の意思とは関係なく小刻みに震え始める。
……ちまきが思いっきり強く腕をつかんでいるから、血の巡りが鈍くなってきているのも、その原因のひとつだったりするのだけど。
ともかく、会長の話が事実だとすると……。
「ちまき、よく今まで生きてたね」
「え?」
「だって、最近は打ち解けてるけど、最初の頃は毎日のように言い争いしてたよね?」
「…………」
僕の腕を握るちまきの手に、さらなる力がこもる。
これ以上強く握られると、腕がもぎ取られかねない。
そんなちまきを安心させようという意図があったのかどうかは定かではないけど、会長が解説を加えてくれた。
「ちまきは仮にも女だからな」
「仮にもってなんですか……」
文句を言いながらも、ちまきの声にいつものような勢いはなかった。
「女は呪い殺されないらしい」
きっぱりとそう言いきる会長。
その言葉で、僕の腕をつかむちまきの力が緩まって、僕としても少しはほっとしたのだけど。
それにしても、男性だけを呪い殺す死神……?
いや、ちょっと待てよ。
「……っていうか、男性にだって死者は出てないんですよね?」
死者が出ていたらもっと大きな問題になっていただろう。念のために確認してみる。
「考えてみたら、そうだな」
小さい頃からずっと、自分の周りでそんなことが起こっていたのに、なんて無頓着な……。
とは思ったものの、この会長だったらそんなもんか、と妙に納得できてしまう。
「生徒会室に出たのぞきも、死神だったのかな……?」
腕に絡みつく力こそ緩まったものの、ちまきは相変わらずガタガタと震えている。
死神なのか、単なるのぞきなのか、それとも菱餅先輩の差し金なのか、はたまたもっと別の超常的ななにかなのか。
それはわからなかったけど、これは僕の身に降りかかってくる不思議な出来事の、ほんの序章にしかすぎなかった。




