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独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
第七話 神龍学園死神物語
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-1-

「てるてる坊主祭りでは、ほんと散々でしたよ」


 僕は今日も今日とて、ほぼ丸一日、生徒会室の中で過ごした。

 エアコムで見るだけの授業も終わり、時刻は放課後となっている。


「私は楽しかったがな」

「あたしも~!」


 授業と掃除が終わると、ちまきも合流することが多い。

 テスト期間中はほとんど来なくなっていたけど、テストが終わったあとは毎日とまではいかないまでも、結構顔を出している気がする。


「堪能できたな」

「うんうん!」

「なに意気投合してるんですか!」


 仲がいいのはべつに悪いことではないけど、僕をネタに悪人のような笑みを浮かべるふたりを見れば、反射的にツッコミを入れてしまうのも当然というものだろう。


「はっ、そうだった! 柏葉ちまき、お前は私の敵だった! というか、自然と生徒会室に紛れ込むな!」


 あ……いつもの会長に戻った。

 最初の頃からこんなふうにちまきを怒鳴りつけるのが普通だったし、こっちほうが、なんとなく落ち着く気がする。

 でも、ちまきのほうも扱いに慣れてきているのか、


「まぁまぁ、固いことは言いっこなしですよ! これからもふたりで、除夜ちゃんをおもちゃにして楽しみましょう!」

「ふむ。それはそれでいいか」


 と、会長は簡単に丸め込まれてしまった。


「よくないです!」


 ふたりのおもちゃにされかけている僕は、果たして今後、どうなってしまうのだろう。

 先行き不安だ。逃げ出したい……。


「逃げても地獄の底まで追いかけるぞ」

「うんうん! 骨までしゃぶり尽くすんだから!」

「怖っ!」

「はっはっは、冗談に決まっているだろう!」

「そうそう! やっぱり除夜ちゃんをからかうのって楽しいわ!」

「うむ。からかいがいのある反応だった」

「……そ、そうですよね、冗談ですよね、あははは……」


 まったく冗談とは思えなかったのだけど、とりあえず形だけでも笑顔を返しておく僕だった。

 と、そのとき。


 ガタッ……。

 生徒会室の入り口のドア付近で、なにか物音が響く。


「む?」

「誰!?」


 ちまきが素早くドアに駆け寄り、一気に開け放つ。

 ドアの向こうには、誰もいない。


「なんの音だったの?」

「……曲がり角のほうに、一瞬だけど黒っぽい人影みたいなのが見えたような気がする」

「黒っぽいということは、男子生徒か」


 僕と会長もドアから廊下に顔を出して様子を探ってみたものの、すでに人影らしきものは見当たらなかった。

 学園の制服は、女子生徒は淡い紫色、男子生徒は濃い灰色を基調としたブレザーになっている。

 黒っぽく見えたということは、人影が生徒だったのであれば、男子生徒の可能性が高い。


「やだ、のぞき!?」

「こんな場所をのぞいたって、意味ないんじゃ……」


 胸の前で両手を交差し、怯える仕草をするちまきに、僕は率直な意見を述べる。


「あたしがいるじゃん! こんな可愛い女の子がいるんだから、恥ずかしがり屋の男子生徒が我慢できずにのぞいちゃったとしてもおかしくないわ!」

「可愛い女の子~?」


 ドガッ。顔面に激痛。


「……除夜ちゃん、殴るわよ?」

「もう殴ってる……。しかも顔面グーパンチはやめて……」

「じゃあ、チョキで目を……」

「それはもっとやめて……」


 こんな凶暴女のくせに、どの口で可愛い女の子だなんて言うかな。

 といった言葉は、とりあえず飲み込んでおくとして。


「でも、のぞきだとしたら、目当てはどっちかというと会長じゃないかな~?」

「ど……どうしてよ~?」

「だって、スタイルが……」


 一瞬でムッとなるちまき。

 いやまぁ、それ以前から怒りの形相だったのは確かなのだけど。


「どうせあたしはスタイル悪いわよ!」

「……主におなかの肉が? ……って、黙ってチョキを準備するのはやめて!」


 口は災いのもと。どうも僕って、余計なことを言ってしまう性質があるみたいだ。

 自分でわかっていても、口に戸は立てられないのだけど。


「なぜ私などを見るのだ? 見ても楽しくなかろう?」


 会長本人は首をかしげていたけど。


「会長さん、胸大きいですもんね~、悔しいけど。ちょっとは分けてほしいわ……」


 ちまきがため息まじりに、少々恨みのこもった言葉を漏らす。

 彼女の言うとおり、会長は胸が大きい。そりゃあもう、黙っていても、ドン! と強烈に自己主張しているくらいに。

 両手に腰を当てて胸を張るポーズを取ることが多いというのも、その豊満さを強調する要因になっていると思うけど。


「胸か……。しかし、べつにこんなもの邪魔なだけだがな。重くて肩も凝るし」

「お……大きい人はみんなそう言うのよ!」

「あんたはまだいいじゃんか!」


 突如、新たな声――耳に悪そうな甲高い声が響く。

 無理矢理反らしてもなお膨らみが微塵も感じられない、ストンと切り立った崖のような残念な胸の子供っぽい女の子が、僕たちの目の前で涙目になっている。


「……菱餅先輩、なぜここにいるんです?」

「スパイ……じゃなくって! たまたま通りかかっただけだじょ!」


 うわ。バレバレ。

 ……スパイって……なにを企んでるんだろう、この人?

 さっきの男子生徒らしき人影も、この人の差し金だったのかな……?


「ひ……ひーちゃんは忙しいのだ! さらばなのだ!」


 僕たち三人にじーっと見つめられ、菱餅先輩は逃げるように去っていった。


「……ま、私たちも帰るか」

「そうですね」


 菱餅先輩がおかしいのはいつものことだし、今さら驚くこともない。

 僕たちはとくに気にせず、そのまま家路に就くのだった。


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