開幕、歌舞伎サッカー! 2
月曜日。
歌舞伎サッカー実現のために、翔真たちにはしなければいけないことが山ほどあった。
まずは鳩山監督に歌舞伎サッカーのことを話さなければならない。
ここで監督を納得させなければ、すべてが企画だおれだ。
けど、これは副キャプテンの陽介のウソなき演技で、あっさりクリア。
「わかったよ。けど、やるのは1回だけだよ。いいね」
最後には、監督もこういわざるをえなかった。
つぎにしたのは試合用の隈取につかう絵の具えらびだった。
これはクロマクリルという肌につけても安全なアクリル絵の具をつかうことにした。
クロマクリルは安全なだけでなく、水にもつよいので、あせをかいても隈がながれおちることがない。
それも、この絵の具をえらんだ理由だった。
おまつりの委員会に、隈取をして試合にでることも報告しなければいけなかった。
試合のてつづきは監督がすることになっている。
なので、翔真たちは鳩山監督からの報告をまつことにした。
そして木曜日。
「きのう、委員会の人から電話がきてね。歌舞伎の幕をイメージしたユニフォームを着るのも、フィールドにはいるときに拍子木をうつ音をながすのもだいじょうぶだってさ」
「隈取は?」
陽介がたずねる。
「隈取のことは、なんていってました?」
「そのことだけどね。じつは今朝、委員長から電話がかかってきたんだ」
「委員長って、ふれあいまつりの実行委員長?」
「うん。最初は怒られると思ったんだけど――」
鳩山監督が、コホンとわざとらしくせきをする。
「『ぜひやってください。ふれあいまつりも年々、人がへってきて、なにかインパクトのあることをやろうと思っていたんですよ』だってさ。ノリノリで許可をもらっちゃったよ」
それを聞いて、こどもたちはたがいに顔をみあわせた。
まさか委員長から、おねがいされることになるとは……。
だが、これですべての準備はととのった。
あとは大会にむけて練習をするだけだ。
* * * * *
大会まで、あと5日。
有名おもちゃ企業のむすめであり、中浦FCのチームメイトでもある白鳥天音は塾がえりの車のなかで、クラシック音楽を聴きながら車外の景色をながめていた。
とあるマンションのまえにきたとき、
「あら?」
マンションのとなりにある公園から体操服をきた鵜飼八雲と、おなじく中浦FCのチームメイト、雀嫁美羽があらわれた。
「すみません。車をとめてください」
運転手に車を安全な場所にとめさせて、天音はふたりに駆けよった。
「八雲さん、美羽ちゃん」
名前をよばれたふたりが、その場にたちどまる。
「あ、あ、天音ちゃん、こんばんは」
口のはしをむりにあげて、美羽がわらった。
美羽は背こそひくいが、スピードならだれにも負けない5年生の女の子だ。
「もう9時をすぎていますわよ。こんな時間に公園でなにをなさっているのですか?」
「ええと、それはね……」
美羽が体をソワソワさせながら、あとずさりする。
「ダイエットだよ。ぼくらダイエットしてたんだ」
八雲があわててこたえた。
「ぼく、最近、ダイエットをはじめたんだ。でも、ひとりで運動するのがつらくて、おなじマンションにすんでいる美羽ちゃんにつきあってもらってたんだ」
はやくちで説明しながら、八雲がうでをうごかす。
「そうそう。ダイエット、ダイエット」
美羽もぎこちない笑顔で、あしぶみする。
「天音ちゃん、みんなにはダイエットのこと内緒にしといてね。約束だよ」
そういうと八雲は美羽をつれて、マンションのほうへはしっていった。
土によごれたふたりのせなかが闇のなかにきえてゆくのを、天音はみおくることしかできなかった。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。
※この物語はフィクションです。クロマクリルは実際にボディペイントやフェイスペイントに使用される絵の具ですが、現実に顔にペイントをして試合にのぞむことはお控えください。




