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【3話】開幕、歌舞伎サッカー 1

 

 ――きめなくちゃ。


 観客(かんきゃく)声援(せいえん)


 (なか)()のまなざし。


 ()(あい)ののこり()(かん)


 すべてがプレッシャーとなって、翔真(しょうま)(むね)をしめつける。


翔真(しょうま)、これが(さい)()のチャンスだ。ぜったいにきめろ」


 ベンチから大鳳(おおとり)監督かんとく(こえ)()こえた。


 ――ぜったい、きめなくちゃ。


 ――じゃないと、また(とう)さんに(おこ)られる。


 (あい)()選手(せんしゅ)をぬきさり、しかとゴールをみすえる。


 (あい)()キーパーと翔真(しょうま)()があった。


 とめてみせる!


 キーパーの()(はく)に、おもわず(あし)がすくみそうになる。


 ――きめなくちゃ。(とう)さんの()(たい)にこたえなくちゃ。


 翔真(しょうま)渾身(こんしん)(ちから)でシュートをうった。


 しかし……。


 ボールはゴールポストにあたり、フィールドの(うち)(がわ)へはねかえった。


 その(しゅん)(かん)、ホイッスルがなり、市沢(いちざわ)フレスベルグの()けがきまった。


 (あたま)のなかがまっしろになる。


 (からだ)から(ちから)がぬけて、翔真(しょうま)はその()にうずくまった。




 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。




 (なん)()、その(こと)()をくりかえしたのかわからない。


 とつぜん、まわりがくらくなり、()のまえに大鳳(おおとり)監督かんとくがあらわれた。


 そして、翔真(しょうま)をみくだして、こういった。


「おまえのせいで()けたんだ!」




(とう)さん!」


 さけびながら、翔真(しょうま)()をさました。


 あせをかいた(からだ)がふるえている。


 (あたま)がいたい。


 (むね)がくるしい。


 (いき)ができない。


 ――おちつけ、あれは(ゆめ)だ。


 (ひっ)()()(ぶん)にいいきかせる。


 ――あれは(ゆめ)なんだ。もうおわったことなんだ。


 (なん)()(なん)()もいいきかせる。


 ――おれはもうフレスベルグの選手(せんしゅ)じゃないんだ。


「おれは中浦(なかうら)FC(エフシー)選手(せんしゅ)だ」


 チームメイトみんなの(かお)(おも)いうかべる。


 そして、ながい()(かん)をかけて、ゆっくり(いき)をはきだした。


 (むね)(あたま)のいたみがやわらぐ。


 (いき)ぐるしさもすこしずつ回復(かいふく)してきた。


 ――また、あの(ゆめ)をみたのか。


 翔真(しょうま)はあせまみれのひたいに()をあて、(かみ)をかきあげた。




 4年生(ねんせい)のとき、翔真(しょうま)はおおきな(たい)(かい)(けっ)(しょう)(せん)で、プレッシャーに()けてシュートをはずしてしまったことがある。


 そのときのトラウマが原因(げんいん)で、翔真(しょうま)(こころ)(びょう)()にかかり、シュートをうつことができなくなってしまったのだ。


 (れん)(しゅう)であれ、()(あい)であれ、シュートのことを(かんが)えるとトラウマがよみがえり、(きょう)()(いき)ぐるしさで()をうしないそうになる。


 中浦(なかうら)FC(エフシー)()(あい)()てない()(ゆう)のひとつがこれだった。




 (あく)()はいつも大鳳(おおとり)監督かんとくの、


「おまえのせいで()けたんだ!」


 という(こと)()でおわる。


 ()(あい)のあと、翔真(しょうま)はパニックで(あたま)がまっしろになっていたので、じっさいにそういわれたのかはおぼえていない。


 だが、じつの(ちち)(おや)である大鳳(おおとり)監督かんとくから、たくさんのきびしい(こと)()をうけて、翔真(しょうま)(こころ)にふかいキズをおっていたのは()(じつ)だ。


 (こころ)のキズ。


 そして(こころ)(びょう)()


 そのふたつが(げん)(いん)で、翔真(しょうま)はプロのサッカー選手(せんしゅ)になる(ゆめ)をあきらめ、(りょう)(しん)()(こん)してしまった。


 時計(とけい)をみると、まだ5()30(ぷん)だった。


 きょうは()(よう)()


 (がっ)(こう)はやすみだが、サッカーの(れん)(しゅう)がある。


 (れん)(しゅう)まで()(かん)があるので、翔真(しょうま)はランニングにでかけることにした。

「おばあちゃん、()ってくるよ」


 にわの(そう)()をしていたおばあちゃんにひとこえかけ、翔真(しょうま)(あく)()をふきとばすために(あさ)(まち)へはしりだした。



 *   *   *   *   *



 市沢(いちざわ)フレスベルグは選手(せんしゅ)のレベルごとに3つのチームにわかれている。


 (てい)(がく)(ねん)(しょ)(しん)(しゃ)(せん)(しゅ)基礎(きそ)をおしえる(シー)チーム。


 (ちゅう)(がく)(ねん)高学年(こうがくねん)選手(せんしゅ)をきたえる(ビー)チーム。


 そして、トップレベルの実力(じつりょく)をもったエリート(せん)(しゅ)だけをあつめた(エー)チーム。


 そんな(エー)チームのキャプテンをつとめるのが6年生(ねんせい)(わし)(ざき)(はる)()だ。


()をつけて()けよ」


 (はる)()(じゅん)()(たい)(そう)をしていると、叔父(おじ)さんがまどから(かお)をだした。


「しかし、毎週(まいしゅう)たいへんだな。ここから市沢(いちざわ)(ちょう)まで15キロもあるのに、はしって(れん)(しゅう)(じょう)まで()くんだろ? おれにはとてもできないな」


 (きん)(よう)()市沢(いちざわ)(ちょう)から中浦(なかうら)(ちょう)まではしり、叔父(おじ)さんの(いえ)(いっ)(ぱく)


 そして()(よう)()にサッカーの(れん)(しゅう)のために、また(いち)(ざわ)(ちょう)へはしってもどる。


 それが(はる)()(しゅう)(かん)だった。


「たしかにたいへんだよ。でも()(ぶん)ではじめたことだから、とちゅうでなげだすわけにはいかないんだ」


「そっか。さすが(ほん)()でプロをめざしてるやつは根性(こんじょう)がちがうな」


 叔父(おじ)さんはズボンのポケットから500(えん)(だま)をとりだして、(はる)()になげた。


「あさめし(だい)だよ。こんなことしかできないけど(おう)(えん)してるからな」


「ありがとう」


 うで時計(どけい)()(かん)確認(かくにん)する。

 5()55(ふん)


 出発(しゅっぱつ)()(かん)だ。


「じゃあ、()ってくるよ」


 (ちから)づよく()(めん)をけって、(はる)()(ゆめ)にむかってはしりだした。




 それから20(ぷん)()


 ()(せん)(しき)をはしっていると、むこうから(はる)()とおなじとしごろの(しょう)(ねん)がはしってきた。


 それはかつてのチームメイトである大鳳(おおとり)翔真(しょうま)、いや(たか)(みね)翔真(しょうま)だった。


 こちらにきづいた翔真(しょうま)がスピードをおとす。


 (はる)()もスピードをおとして、ゆっくり翔真(しょうま)にちかづいた。


「おはよう」


 すれちがいざまに翔真(しょうま)(こえ)をかけた。


「もどらないのか?」


 (はる)()(こと)()に、翔真(しょうま)(あし)がとまる。


「もどらないのか? フレスベルグに」


「もどれない。いや、もどりたくない」


大鳳(おおとり)監督かんとくはかわった。いまでも、きつい(こと)()はいうけど、まえみたいに感情(かんじょう)にまかせて(おこ)ることはしなくなった。いいプレーをした(せん)(しゅ)はほめるし、(せん)(しゅ)()(けん)()(ぶん)から()くようにしている。だから――」


「もどりたくないんだ」


 翔真(しょうま)のつよい意志(いし)が、(はる)()のせなかにつきささる。


 (はる)()はなにもいわずに、(した)くちびるをかみしめた。


「おれはもうフレスベルグの(せん)(しゅ)じゃない。中浦(なかうら)FC(エフシー)(せん)(しゅ)だ」


「よわいチームにいてもプロにはなれない。おまえはこんなところでおわるやつじゃないだろ」


 そういいのこして、(はる)()はその()をたちさろうとした。


(はる)()、おまえ、サッカー()きか?」


 翔真(しょうま)(こと)()に、(こん)()(はる)()(あし)がとまる。


 サッカーは()きだ。


 だからこそ、(ほん)()でプロのサッカー(せん)(しゅ)をめざしている。


 でも、そのためにする()(りょく)が、つらいとかんじるときもある。


 そのつらさが、()きという(こと)()をのどのおくでつまらせた。


(シー)チームにいたときに、おまえ、いったよな? 『サッカーをたのしむだけじゃ、プロにはなれない。つらくても()(りょく)しないと(ゆめ)はかなわないんだ』って」


「ああ」


「おまえが、がんばってるのはわかってる。でも、つらい()()ちのまま、がんばりつづけたら、いつか――」


()きだからプロをめざしているんだ。サッカーがきらいなわけないだろ」


 あわててそうこたえると、(はる)()はひつよう()(じょう)(ちから)(あし)にこめて、ふたたびはしりはじめた。



 *   *   *   *   *



 にげるようにして、その()をたちさった(はる)()のせなかに、


「いつか、おまえ、サッカーをきらいになっちゃうよ」


 翔真(しょうま)はちいさな(こえ)で、そっとつぶやくのだった。



(つづく)



更新は毎日おこなう予定です。

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