【20話】おわりとはじまり 1
後半戦がはじまった。
いきおいにのったフレスベルグの攻撃はすさまじく、中浦FCはゴールをまもることに必死で、テンシュモノガタリはおろか攻撃をしかけることさえできない。
そして2―0のまま、後半19分をむかえた。
「遥飛、パス」
遥飛からパスをうけたフォワードの隼里は、ドリブルでフィールドの中央突破をはかった。
隼里がゴールにせまる。
そのとき、ゴールキーパーの八雲がまえにとびだした。
「させるもんか!」
八雲がうでをおおきくひろげて、隼里に突進する。
ふたりの身長差は5センチぐらいしかない。
だが、血走った目と、かみなりのようにとどろくおたけびが、隼里の目に八雲を巨人のようにおおきくみせた。
八雲のプレッシャーに負けて、隼里があわててシュートをうった。
それを八雲が顔面ではねかえす!
顔面セーブではねかえされたボールが、フィールドの外へでようとする。
ボールがラインをこえる直前、
「おねがい、まにあって」
美羽が足をのばして、ボールをフィールドのなかにとどめた。
そして、大声で、
「テンシュモノガタリー」
反撃の合図をさけんだ。
「陽介、まえにはしって」
「よっしゃ、まかせろ」
美羽が手をあげるのと同時に陽介がまえにむかってはしりだした。
それをみたフレスベルグのディフェンダーが、いそいで陽介をおう。
「ちがう。陽介くんはおとりだ」
雉原監督があわててさけぶ。
「テンシュモノガタリは妖怪のおひめさまの話だ。ゴールにむかうのは陽介くんじゃない。天音ちゃんだ」
ハッとして、うしろをふりかえるディフェンダーの選手。
ノーマーク状態の天音は、すでにフィールドの中央にむかってはしりだしていた。
「フレスベルグのみんなー、ウソついてごめんねー」
美羽はぺろりと舌をだすと、天音にパスをだした。
* * * * *
天音がはしるスピードをあげる。
だが、それ以上のはやさでボールにむかう選手がいる。
遥飛だ。
遥飛は美羽のパスと同時に、ボールにむかってはしりだしていた。
さきにボールをキープしたのは天音だった。
だが、遥飛は彼女のすぐうしろにせまっている。
試合時間は、のこりわずかしかない。
ここでボールをうばわれたら、中浦FCにシュートをうつチャンスはもうないだろう。
そのとき、天音が、だれもいない場所にむかってボールをけった。
「遥飛さんがくることはわかっていました」
天音は顔をまえにむけたまま、うしろの遥飛にいった。
「テンシュモノガタリはたしかにおひめさまのお話です。ですが、物語のカギとなるのは鷹をあやつる鷹匠です」
「鷹……まさか」
だれもいない場所にけられたボール。
それはいま、ある選手のドリブルによって、ゴールへはこばれていた。
「行ってください、翔真さん」
ボールをドリブルしていたのは鷹峰翔真だった。
テンシュモノガタリは相手選手の注意を天音にひきつけ、そのあいだにノーマーク状態の翔真がパスをもらい、そのままドリブルでせめて、シュートをうつ戦術だったのだ。
遥飛はすぐに翔真をおった。
ほかの選手は、まだ中浦のゴールちかくにいる。
いま、翔真をとめられるのは遥飛だけだ。
遥飛は翔真にショルダーチャージをしかけた。
全力で何度も肩をぶつける。
翔真も全力で遥飛をおしかえし、ゴールにつきすすむ。
それは時間にして、3秒ほどだった。
だが、ふたりにはその時間が永遠にも、ながくかんじられた。
――たのしい。
気がつけば、遥飛の心はサッカーをたのしむ気持ちでいっぱいだった。
全力ではしり、全力でぶつかり、そして全力で戦う。
いま、この瞬間。
遥飛は心から中浦FCとの試合をたのしんでいた。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




