奇跡のアイデア 2
つぎの日は金曜日で、サッカーの練習はやすみだった。
「それじゃあ、会議をはじめようか」
翔真は教卓に手をつき、放課後の教室をぐるりとみまわした。
中浦FCのチームメイトは全員、中浦小学校の生徒だ。
なので、会議はいつも学校の教室でおこなっている。
「ショウちゃん。まだ、ヨウちゃんがきてないよ」
おでぶゴールキーパーの八雲が、陽介のせきをあごでさした。
6年A組の生徒にもかかわらず、副キャプテンの陽介は教室にいなかった。
「ヨウちゃん、どこ行っちゃったんだろ?」
「だいじょうぶ。あいつなら、あとでちゃんと顔をだすよ」
そういって、翔真はちらりと教室のうしろにある掃除用具いれに目をむけた。
「それじゃあ、みんなにたのしい思い出づくりのアイデアを発表してもらうぞ」
それから5分後――。
「映画鑑賞、ケーキバイキング、バーベキュー、カラオケパーティー、遊園地めぐりにボウリング大会か。うん、どれもたのしそうだな」
黒板に書かれたたくさんのアイデアをみて、翔真がつぶやいた。
「つぎはおれの番だな。おれが考えたアイデアは歌舞伎サッカーだ」
「歌舞伎サッカー?」
聞きなれない、というより聞いたことのない言葉に、みんながきょとんとする。
「翔真さん。歌舞伎サッカーとは、どういったものなのですか?」
書記がかりをつとめていた、6年生の白鳥天音がたずねた。
「歌舞伎メイク――つまり隈取をして、サッカーの試合にでるんだよ。こんなふうにね!」
翔真がいきおいよく手をたたく。
すると、掃除用具いれのとびらがハデにひらき、
「あっ、これぞ、歌舞伎さっかぁ~」
なかからユニフォームを着て、顔に隈取をした陽介があらわれた。
* * * * *
バッとあらわれた陽介に、みんながアッとおどろき、そしてワッとわらいだした。
「あはは。なに、その顔」
「おれも最初にこのアイデアを聞いたときは、ヘディングのしすぎで翔真の頭がおかしくなったと思ったぜ」
陽介がわらうと、絵の具で描いた赤いすじが、いきもののようにうごいた。
「でもさ、こんなバカげたアイデアだからこそ、全力でやれば、たのしい思い出になると思わないか?」
「思う、思う」
陽介の言葉に、5年男子がうなずく。
そんななか、
「でも、相手チームから抗議があるかもしれないよ」
葦切正晴という男の子だけが、まゆをひそめた。
「隈取をして試合するなんて、中浦FCはサッカーをナメてる、なんていう人がいるかも」
「たしかにそういう人もいるだろうな。そのときはアイデアをだしたおれが責任をとって、あやまるよ」
翔真がいった。
「みんなに、むりやり歌舞伎サッカーをさせるつもりはない。いやなやつは隈取をせずに試合にでてもいい。歌舞伎サッカーは、やりたいやつだけがやればいいんだ」
「おれと翔真はもちろんやるつもりだぜ。ってなわけで、歌舞伎サッカーをやりたいやつは手をあげてくれ」
陽介が天井にむかって手をあげる。
すると、それをおうように、
「わたくしも歌舞伎サッカーをやりたいです!」
こうふんぎみに天音が手をあげた。
これには翔真もおどろいた。
――まさか天音ちゃんがさんせいしてくれるなんて。
しばらくのあいだ、翔真は自分が口をあけたまま、天音をみていることに気がつかなかった。
「ですが、翔真さんひとりに責任をおしつけるのは反対です。歌舞伎サッカーの責任は、わたくしをふくめ、やる人みんなでとるべきだと思います」
「ぼくもそう思う」
まるい顔をひきしめて、八雲がいった。
「サッカーってチームでおこなうスポーツだもんね。こういうときこそ、みんなでたすけあわなくちゃ」
「では八雲さんも――」
「バーベキューやケーキバイキングもいいけど、ひとつぐらいサッカーのたのしい思い出もほしいもんね。だから、ぼくも歌舞伎サッカーにさんせい」
八雲が手をあげると、ほかの5年生も手をあげる。
そんななか、正晴だけはまよっているようだったが、
「たしかに、こんな思い出があってもいいもんね」
最後は、わらって手をあげた。
「きまりですわね、翔真さん」
天音が黒板に、
『みんな、歌舞伎サッカーにさんせい!』
と、書きたした。
* * * * *
そのあとは、いつ歌舞伎サッカーをするのかについて、みんなで話しあった。
話しあいの結果、歌舞伎サッカーは来月おこなわれる『ふれあいカップ』でしようということになった。
『ふれあいカップ』は公式の大会ではなく、風吹ふれあいまつりというおまつりのなかでひらかれる、ちいさな大会だ。
なので参加するチームの数もすくない。
「ちいさな大会なんだし、隈取をして試合にでても問題ないだろ」
というのが、この大会をえらんだ理由だった。
「きょうの会議はここまで。歌舞伎サッカーについては、あしたの練習のあと、もう一度みんなで話しあおう」
会議がおわると、こどもたちはすぐに教室からでていった。
あと教室にのこっているのは、かたづけをする翔真と天音だけだ。
ふたりで黒板けしをしているとき、
「天音ちゃん、ありがとう」
ありふれた感謝の言葉なのに、それを口にしたとたん、翔真は顔があつくなるのをかんじた。
「ありがとう、ですか?」
「うん。天音ちゃん、歌舞伎サッカーの責任はおれだけじゃなくて、自分たちもとるべきだっていってくれたよね。おれ、それがすごくうれしかったんだ。だからさ、その……ありがとう」
翔真はめんとむかって、天音に頭をさげた。
「そんな! わ、わたくしはとうぜんのことをしたまでです」
天音が、あわてて手をふった。
彼女のほほが赤く色づいてみえたのは、けっしてまどからさしこむ西日のためだけではなかっただろう。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




