第086話 極振りヒーラー、神射七式ついに完成
バルトがユニーク装備を手に入れた頃、ティアはクエスト「神射七式」の続きを進めていた。
シルフィードの声が頭の中に響く。
『《六の矢》と《七の矢》の試練場を見つけた。準備ができたら来なさい』
ティアは小さく頷き、メッセージを閉じる。
そして、指定された座標へと足を踏み出した。風を切る足取りは軽く、次の試練への期待が胸を満たしていた。
森の奥に隠された試練場、《連撃の試練場》。
シルフィードが腕を組み、涼やかに待ち構えていた。
シルフィードが試練場を指し示す。広大な空間の中に、十個の的が不規則な軌道で浮かび、絶えず動き回っていた。
「《六の矢 旋》は、放った矢が対象間を跳弾する技だ。一度の射撃で、複数の敵を射抜け」
「……跳弾」
「そうだ。試練はシンプル。一本の矢で、あの的を全て貫く」
ティアが弓を構え、矢を番える。最初の的を狙って放つ――命中。
しかし、矢はそのまま地面に落ち、跳弾しなかった。
「矢に意志を込めろ。次の獲物を狙う意志を、最後まで絶やすな」
シルフィードが静かに告げる。
ティアは深呼吸し、目を閉じる。十個の的の位置、矢が辿る軌跡――全てを頭の中で描く。
意志を一点に集中させ、弓を引き絞った。
放たれた矢は、一つ目の的に突き刺さる。跳弾して二つ目へ――ピシリ、と鋭い音。
三つ目、四つ目――矢は空気を切り裂き、加速しながら的を次々に貫いていく。
五つ目、六つ目――尾を追う軌跡が光の筋となり、視界を駆け抜ける。跳弾の衝撃で風が渦を巻く。
七つ目、八つ目――呼吸を忘れ、視線は矢と的の軌跡だけに集中する。
矢の意志が、ティアの意志と完全に一つになった瞬間だった。
九つ目――矢が的を貫き、弓弦を伝う振動が手に跳ね返る。
そして――最後の十個目。矢は跳弾の軌跡を描き、的を貫いた瞬間、光と衝撃が試練場を満たした。
【スキル習得!《六の矢 旋》】
ティアは小さく息を吐き、弓を下ろす。
「……見事だ」
シルフィードが静かに頷いた。
シルフィードがティアを案内したのは、断崖絶壁の上だった。
強烈な風が吹き荒れ、足元には底知れぬ深い谷が広がっている。遠方の空中には、巨大な的が浮かんでいた。
「……遠い」
ティアが目を細める。通常の射程をはるかに超えた距離だ。
シルフィードが真剣な表情で言った。
「《七の矢 神降》は、神射七式の極致だ。全霊を込めた一射必殺の大技」
「……」
「だが、発動中は移動できない。外せば、それだけの隙を晒すことになる。実戦では死を意味すると思え」
ティアが力強く頷く。
「あの的を、一撃で射抜け。ただし、風を読み、全ての力を矢に込めなければ届かんぞ」
弓を引き絞り、遥か彼方の的を狙って矢を放つ。
しかし、矢は強風に流され、手前で失速し、谷底へと落ちていった。
「力が足りない。全霊を込めろ」
シルフィードの声が耳に響く。
ティアは再び弓を構え、さらに全力で引き絞る。
矢は届いた――しかし風に押され、的のわずか横を通過する。
「風を読め。風と一つになれ」
ティアは弓を下ろし、目を閉じた。
耳を澄ます。風のざわめき、うねる流れ。
複雑で不規則に思えるが、注意深く聞けば――一瞬だけ、静かになる間がある。その隙間に矢を乗せる。
一度、落ち着いて深呼吸をする。
雑念を払い、全身の意識を矢と的だけに集中させる。
距離も、風も、全て計算の中に収める。
目を開き、弓を構える。全身の魔力を矢に注ぎ込む。矢が淡く光り始めた。
限界まで引き絞る――さらに引く。
風が、一瞬止んだ。
「今だ!《七の矢 神降》!」
放たれた矢は光の筋となり、空を裂き、風を切り裂いて一直線に飛ぶ。
遥か彼方の的の中心に突き刺さった瞬間、的が爆裂し、光の粒が四方に散った。
【スキル習得!《七の矢 神降》】
ティアは力尽き、膝から崩れ落ちる。
全身の力が抜け、しゃがみ込むしかなかった。
シルフィードが歩み寄り、静かに微笑む。
「見事だ、ティア。神射七式、完成した」
「……ありがとうございます」
ティアは小さく答え、震える手で弓を握り直した。
「お前は、もう一人前の神射手だ」
シルフィードが片手を掲げると、空中に淡い光の魔法陣が浮かび上がった。紋様が脈動し、光が降り注ぐ――まるで天からの祝福のように。
その光の中心から、ひと張りの弓がゆっくりと姿を現した。
「これは……《天弓・神降》。神射七式を完成させた者だけが手にすることを許される弓だ」
空気が震えるような神々しい輝きを放つ弓。ティアの手に届くと、自然と腕が伸び、そっと手を添える。
【ユニーク武器:天弓・神降】
・神射七式の威力+30%、消費MP-50%
・【DEX+40】【AGI+20】【STR+15】
・特殊効果《神降の極致》:《七の矢 神降》使用時、威力2倍
ティアが弓を手に取る。
軽い――しかし確かな重みが手に伝わる。弓を引いてみると、驚くほど滑らかに、まるで自分の意志のままに弓が弾くようだった。
「……完璧です」
ティアの瞳が輝き、思わず微笑む。
シルフィードも満足そうに頷いた。
「ふふ、良い顔だな。これでお前は、真の神射手として戦える」
光の中、ティアは新たな力を手に入れた実感を、全身で噛みしめていた。
試練場を抜けた先、開けた空中庭園。
風が柔らかく吹き、光が水面のように反射している。
帰路につく前、ティアはどうしても新しい力を試したくなった。
空を見上げると、《ウィンドホーク》の群れが四体、鋭い影を落としながら急降下してくる。
「……ちょうどいい」
ティアが《天弓・神降》を構える。弓から淡い光が漏れ、空気がわずかに震えた。
「《一の矢 速》」
光のような速射が一体目に直撃し、鷹は消えた。残り三体が散開する。
「《六の矢 旋》」
一本の矢が放たれ、一体に命中した瞬間、矢は跳ね返り、二体目、三体目へ――連鎖するように消えた。
「……威力が上がっている」
神射七式の威力三割増しの効果が、はっきりと実感できた。
だが、次の敵はさらに手強い。
《エリートウィンドゴーレム》が三体、地面を割るように現れる。硬い外皮をまとった強敵だ。
「《五の矢 貫》」
貫通射撃が一直線に飛び、三体全てを貫く。外皮の硬さなど、矢にとっては何の障害にもならなかった。
最後の一体が残り、突進してくる。
ティアは一歩も動かない。目を閉じ、全身の魔力を矢に注ぎ込む。
「《七の矢 神降》」
矢が白く光り、空気を切り裂いて飛ぶ――
放たれた瞬間、光の奔流がゴーレムを包み込む。《神降の極致》が発動し、威力は二倍に跳ね上がった。
ゴーレムは一瞬で光の粒となり、消滅する。
庭園に静寂が戻る。
ティアは息を整え、弓をゆっくりと下ろす。
《天弓・神降》を見つめ、わずかに微笑む。
「……これなら、あの人たちと並べる」
小さく呟き、来た道を戻り始めた。風に髪を揺らされながら、確かな自信と共に。
次は4/3 21時投稿予定
お楽しみに!




