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『『お友達』の願いは呼び水により芽吹き、播種し大輪の華を咲かせる』


初めて『お友達』が()えたのは、いつだったか。


思い出そうとしてもハッキリと思い出せず、声は知らず、姿はボヤけていて、

果たしてそんな相手を『お友達』と呼んで良いものか、とてもとても疑問だ。

でも『お友達』なのは確かだ。


そんな『お友達』のことを、彼女が思い出させてくれた。



私は加茂鴨(かもがも)遥斗(はると)


クラスメイトからは『加茂鴨(かもがも)ちゃん』と呼ばれる。

一応『男子』だけど、『くん』と呼ばれるよりは『ちゃん』と呼ばれる方が何となく安心する。


男子からも、最近は女子と同じ様に接してもらえることが増えた気がする。

幼稚園の頃や小学校入学したばかりの頃は、「なよなよしやがってよー」とか「女子か!」とか「女の腐った奴」とかヒドいこともいっぱい言われた。

けど、学年が上がるにつれ、周りの反応が変わっていった。

男子にイジメられて泣いていると、女子達が来て庇ってくれたり守ってくれたりするようになった。

私をイジメる男子が逆にイジメられるようになったのを恐る恐る庇ったら、その男子が私を守ってくれるようになったコトもあった。


分かってる。

私の見た目とかが原因なんだって。

でも、それだけが原因じゃないのも、分かってる。


私は物心がつく頃にはもう、「可愛い女の子ですねー」とか言われていた気がする。

幼稚園に入ってからも、小学校に入学してからも、まず女子に間違われた。

でもイヤだと思ったことは無い。

男子扱いされてイヤでイヤで堪らない思いをしたコトは数え切れないくらいにあったけれど、女子に間違われてイヤだと思ったことは無いのだ。

むしろ安心すらした。


男子の服を着せられると不快感がひどく、女子の服を着るとホッとした。

だから、今は学校に行く日は男子の服をガマンして着るけれど、家から出ない日や遠出する時は、女子の服しか着ない。

外から中まで全部、女子の服だ。

それがとても落ち着くし、とても安心して過ごせる。



幼稚園の頃や小学校入学した頃、両親に連れられて何人ものお医者さんと話した。

「いつか治る」とか「教育の問題ですな」とかお薬とかを渡されたりもした。

でも私は変わらなかった。

私が私を『私』と言うのだって、『僕』とか『俺』とか言うように直す様に言われた。

私が寝た後に、パパとママが私のコトでケンカしているのも聞こえていた。

2人がスゴく苦しんでいるのも分かっていた。

私にはニコニコしてくれていても、ホントは苦しんでいるのが分かっていた。

私のコトでケンカして怒鳴り合っている所に行って、「私なんか産まれてこなければ良かったんだ!」「私なんか居なくなれば良いんだ!」と叫んで家を飛び出した。


半年くらいか、家に帰らずに過ごした。

神社とかお寺とかの下の隙間に入って寝たり、コンビニの横のゴミ箱を開ければ食べられるモノを見つけることも出来た。

このまま生きて、いつか限界が来たら死ぬんだろうな、と思って過ごしていた。


明るい時間は見つからない様に、暗い場所に隠れた。

知らない学校にこっそり入って隠れて過ごした時もあった。

見つからない様に注意はしたけど、見つかりそうでも見つからなかった。


それは『お友達』のおかげだ。


物心がつく頃から私には見えていて、周りの人達には見えない、そんな『お友達』。

話すことは出来なかったけれど、触ることも出来なかったけれど、私に色々と教えてくれた『お友達』。

子犬くらいの大きさの、ほんとに子犬みたいな形の、『お友達』。


その『お友達』が「ここ」と前脚でパシパシする所から出入り出来たり、見つからない場所だったり、食べられるモノがあったり、可愛い女の子の服を持ってきてくれたこともあった。


そんな『お友達』と過ごした半年は、とてもとても寒い日に終わりを迎えた。

寒くて寒くて、とても寒かったのを覚えている。

すごく眠たくなって、『お友達』に「おやすみ」と言うことも出来ず、寝てしまっていた。



《どうして、こんなになるまで何もせなんだ》

《申し訳ありません。  様》

《・・・よい。間におうて幸いじゃったな》

《申し訳ありません》

《・・(ぬし)らハグレにとって、こういう視える稚児(ちご)が貴重なのは分かっておる》

《・・・》

《しかし、見目(みめ)の良いおなごじゃな》

《  様。この子は一応、男児です。・・産まれは》

《ふむ。  か。なるほどの》

《・・お助け頂けますか》

《当然じゃ。(わらべ)は宝。可能性の芽であり、未来とは彼ら彼女らが作るものよ。見捨てよと言われたとて助けるわ》

《ありがとうございます》

《ただ・・死を受け入れておるのぅ・・。生命力の泉が枯れ果てておる》

《ボクを使ってください、  様》

《なるほど、それなら枯れ果てた泉の源泉にはなろう。しかし、生命力の泉を再び湧かせるのだ。代償として(ぬし)は消えてなくなることになるぞ》

《かまいません》

《そこまで思い入れておるのか》

《・・ぃぃぇ、それは少し違うのです、  様。・・ボクは彼女のお友達・・ただ、友達を救いたい、それだけなのです》

《・・・ふむ。あい分かった。(ぬし)らの絆が幾久(いくひさ)しくあらんことを》


遥斗(はると)、お別れだ。でもボクは、キミとずっと一緒だよ》



起きたのは病院だった。

顔は涙で濡れていた。


それからは、色んなコトが変わっていった。

パパとママはスゴく仲良くなったし、私が女の子の服を好んでも何も言われなくなった。

ただ、パパとママが伏見稲荷によく参拝に行く様に変わり、あちこちにある稲荷神社でお参りするように変わった。


女の子の服で過ごせる時間が増える様になっていったのも、この頃からだった。

住んでいた京都府から静岡県に引っ越し、転校した学校でも友達に恵まれた。



初めてソレが視えたのはいつだったか。


改めて強く意識したのは久しぶりだった。

前に住んでいた京都の街中では物凄く沢山見たし、引っ越した先でもチラホラとは見掛けていた。

しかし、今年の春先からか、ソレをよく見るようになった。


ソレと関係しているのは、同じクラスの宇津馬(うづめ)さんだ。


彼女は普通の女の子だった。

なのに、ある日突然、変わっていた。

登校して来たら、全身から何かが立ち昇っていた。

何と言ったら良いか分からないけど、『オーラ』とでも呼ぶのが一番近い気がした。


その日から、彼女が授業中に何かをしているのが分かった。

何故分かったかというと、私の斜め前の席が彼女の席だからだ。

斜め前の席の人からオーラが出続けていたり、電気みたくバチバチした何かが出ていたりしたら、気にならない方がおかしいと思う。

極め付けが、授業中に彼女の席に突然、仔猫の様な何かが現れていた。

なのに、彼女と私以外の誰にも、ソレは見えていないようだった。


その何かは、私が京都に住んでいた頃の『お友達』と似た何かだと分かった。

と同時に、ニュースなどで魔法少女と共に居るのを見る『精霊』という存在だと分かった。

それで、彼女から立ち昇る何かは『魔力』というモノで、彼女が『魔法少女』になっているんだと分かった。

ただ、普通の『魔法少女』とはだいぶ違うというコトも何となく分かった。


前に住んでいた京都に、有名な魔法少女が居た。

お年寄りの人達は『お狐様』とか『伏見稲荷様』とか呼んでいたけど、

若い人達は『イナリちゃん』とか『のじゃロリ魔法少女』とか色々な呼び方をしていた。

明るくてよく笑い、楽しそうだった。

でも、しっかりしたヒトだったんだろうなと思う。

キツネみたいな耳と尻尾があるヒトを『(ひと)』と呼べるのかは分からないけれど。

ただ、お年寄りの人達が歩き始めたくらい小さい頃にはもう、当たり前みたいに有名だったらしい。


そんな魔法少女と比べてしまうのは申し訳ない気もしなくはないけれど・・。

何というか、宇津馬(うづめ)さんは・・彼女はだいぶ・・いや、かなり?迂闊(うかつ)なんだと思う。


私みたく『()える』者が見れば、普通の人達との違いはハッキリと分かったし、むしろ「見えてません」ってフリをするのが大変だった。

今のところ、誰も彼女のことで騒いだりはしていない。

たぶん、うちの学校で『視える』のが私だけなのだろう。



習い事の帰り道、夜空を見上げて見るモノといえば、星空と飛ぶ魔法少女だろう。

何故か、魔法少女というのは、昼間よりも夜の方が多く目撃するものなのだ。


時折、夜闇に溶け込む様な黒いドレスみたいのを来た魔法少女は遠目に見かけた。

しかし最近は、そのドレスの魔法少女を近所で見ることが増えた。

その魔法少女の肩に乗る子猫が、あの日授業中に見た子猫だと気付いたのはいつだったか。



運動会の日、大変だったのを覚えている。

ほんとうに、ほんとうに大変だったのだ。

宇津馬(うづめ)さんを思いっ切りビンタしたかった。


グラウンドを走る彼女を中心に、花火大会で大きな花火が爆発している時の様な感覚を何倍にもした様な、そんな感覚を耐え続けなければならなかった。


それと、ひとつ気付いた。

グラウンドからの魔力の爆発に耐えかねて顔を背けた先に、宇津馬(うづめ)さんの親戚だと言う幼い少女が居た。

その少女は、幼い顔でグラウンドの宇津馬(うづめ)さんを見据えていた。

そして、グラウンドで魔力の爆発が起きる度に彼女の前に、光の壁のような何かが爆発を防いでいるのが見えた。

それを見て察した。

彼女も魔法少女なんだ、と。



運動会の終わり近い時間、空に向けて小さく手を振る宇津馬(うづめ)さんの視線の先に、ついさっきまでクラスの応援席に居た小さい少女らしい姿が飛んでゆく姿が見えた。


やっぱり魔法少女だったか・・とだけ普通に思った。




「・・・お母さん」

(はる)?どうしたの?」


(はる)』とは、私が半年間の『死ぬまでのつもりだった家出』から両親と再会した後に呼ばれるようになった呼ばれ方だ。

『男の子』と分かる遥斗(はると)より女の子みたく聞こえるから、らしい。


「・・・お腹いたい・・」


運動会の日から、私の体の何かがおかしくなっていた。

体のどことは分からないけれど、体の奥底という言葉が近い気がする。

その奥底がトクントクンと脈打つ感覚がして、そこから熱さが広がるのだ。

そして体のあちこちが熱くなり、でもその熱さは決して不快とかじゃなくって・・むしろ・・。


・・・。

運動会の日に何かあったか、いくら想像してみても、

宇津馬(うづめ)さんの魔力を大量に浴びました」くらいしか思い当たらない。

けど、『不調で思い当たること』として誰かに言う訳にはいかない。

彼女が魔法少女だとバラしてしまうことになる。



今日、授業中からお腹・・いや、下腹部?その辺りがキリキリ?と痛んだ。

原因は分からなかった。

上着を羽織って厚着してみても、ただ暑くなっただけで、腹痛は一向に収まらなかった。



(はる)・・それ・・っ」


お母さんが驚いた顔で見る先、自分の足下を見た時の衝撃は、たぶん、生涯忘れられないだろう。

膝丈のスカートから出た足を伝い床を濡らす血を。



後に世界と魔法少女界と精霊界を震撼させる大事件『魔女(ウィッチ)爆弾(ボム)事件』の解決に一役買うことになる論文を公表した日本在住の女性、

加茂鴨(かもがも)(はるか)の小学生時代の話だ。

彼女(彼)の活躍は本編のかなり先の方(予定)なので、目立った登場もかなり先(の予定)でしたが、本編でひょっこり顔出ししてしまったので、『本編の裏側・伏線・小ネタ』担当の『短編集』に急遽登板となりました。


ちなみに、運動会の日、『幼女化した夏樹』と『彼女』だけが裕子の魔力噴出に影響を受けていたのは、『視れること』『識れること』『認識できてしまうこと』で影響を受けてしまうからです。

例えば、隣人が凄腕の暗殺者だったり伝説の運び屋だったりしても、知らなければ、巻き込まれも口封じに始末されもしない。みたいな。



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