『壺中哭』
「・・・はぁ〜・・・」
見上げれば、どこまでも続く蒼穹の空。
小鳥が元気に飛んでいく。
周りは鬱蒼とした原生林。
そして、
綺麗に治った腕や脚を見下ろす。
『邪神様』との接続を限界以上まで引き上げた影響か、爆発寸前の臨界の『魔女爆弾』の爆発を空間ごと押さえ込もうとして、全身の至るところが弾け飛び、引き裂かれた。
全身を焼かれながら、絶え間無く力づくで引き千切られ続けるような、あの地獄の痛みを覚えている。
痛みのあまり、発狂してしまいそうだった。
爆発を防いだ後のことなんて、一切、頭に無かった。
いくら魔法少女が死なないとはいえ、限度はあるだろう。
肉体が治ったところで、発狂したり精神的に死んでしまったなら、取り返しはつかなかっただろう。
あの地獄の痛みを越えた私が、元通りの私かなんて、私自身には分からない。
「・・・・ふぅ・・」
思えば遠くへ来たものだ・・。
いや、遠過ぎだけどね・・。
帰ろうと思えば帰れるんだとは思う。
このまま『待つ』だけで良い。
ただ、遥か未来まで、自分の精神が擦り切れてなくなっていない保証は無い・・。
『魔女爆弾』の一斉起動を防ぐためにこうなった、と理解している。
納得もしているし、誇りにも思う。
後悔も、たぶん、していない・・と思う。
ただ、寂しくて堪らないだけだ。
私の中から、何かが失われたのが何となく分かる。
その何かを埋める為のモノが、無い。
この空虚な胸の痛みはどうしたら消えてくれるのだろうか。
掻きむしったところで、何の意味もない。
叫んだところで、声は届かない。
どれだけ腕を伸ばしたって、手も届かない。
私に届く声もないし、触れてくれる手もない。
ただ、ただ、ただ寂しくて堪らないんだ・・・。
あんなにも鬱陶しかったママのお節介も、恋しくて堪らない。
顔を見るのすら嫌だったパパも、今なら抱きつけると思う。
私をギークとバカにしていたクラスメイトも・・いや、何かムカついてきた・・アイツらはいいや・・。
どうするのが最善で合理的か・・。
しかしまぁ、今は思いつかない。
・・・・どうしようか。
・・・・・・・・・そうだ。
一緒に戦った皆を思い出して待つのも良いかもしれない・・。
じゃあ・・誰かな・・・。
まず・・・。
「メアリーかな・・まさかねー・・私以上に厨二な存在だったとはねー・・・」
いや・・・彼女達はそういうんじゃない。
彼女達には幸せになって欲しいと思う・・。
いや・・昇天・・?
アジア風に成仏か・・?
二度と掘り起こされないように願うのが一番だろうか・・?
「グルーピーは・・まぁ、うん・・何とも言えないなぁ・・」
この先、何百回も何百年も考える時間はあるだろうから、その時に思いつくかな・・。
とりあえず・・・『ボク』は痛ぇよ・・。
『Boku name is』ってなんだよ!
自己紹介に見せかけて硬直させる作戦かよっ!?
「アリィは・・・あの術式便利そうだったなぁ・・邪神様の速度上げれたら最強じゃね・・?」
邪神様は私の最強術式だけど、巨大だからか、全身隅々まで動かすのにタイムラグがデカい。
きっと、あの術式は役立つハズなんだよ・・。
まぁ、とりあえず、仲良くなるところからか・・?
アリィがちっさい内に仲良くして懐かせれば・・?
いや・・・そもそも、どこ住んでんのかも分かんねーわー・・。
「次は・・ん〜・・ウンチかな。アイツ・・ほんと、生きてて良かったよ・・」
ティーンエイジャーの典型ってか、ハリウッド映画で必ず死ぬタイプってか、アイツが居るだけで場が明るくなったよな・・。
再会できたら、開口一番、「よっ!ウンチ!」って挨拶してやるか。
んで、「ンッチだ!!ウンチって呼ぶな!!」って突っ込まれるまでがお約束だよなー・・。
「・・ワオは、せっかくエキゾチックな美人なんだからさ・・ちょこーっと笑うだけで男どもなんか釣り放題だろうにな〜・・もったいねぇ・・」
ワオは何て言うか、壁を作るタイプだよね。
やることなすこと、何もかも固いっていうか・・まぁ、聞いたアレがホントなら、まぁ、思い詰めるのも分からなくてもないけど・・。
・・・・・。
事件を防いだらどうなるんだろ・・。
歴史が変わるのか、やっぱり変わらないのか・・・運命に叛逆って、何かこう、ウズウズして来るかも・・。
いつか店に行くからさ、店一番の中華食わせてよ・・。
「玲香少佐は固いからなぁ〜・・とりあえず、アニメでも勧めてみよっかなぁ・・」
信用してもらう為、とか言って、彼女は性的なこと以外なら大体オープンだった。
でも、アレはオープンハウスを見せられてるのと変わらない感じがした。
何でもオープンということは、見せていない何かこそが彼女の本質なんだろうから。
・・・とりあえず、日本のオンセンって所に旅行に誘ってみようか。
旅費は・・・飛んできゃタダだよね。
見つからなきゃ密入国とは言われないだろーし・・。
内面の前に、外面からオープンに・・・いや、ダメだ。
彼女に見せられる身体じゃねぇわ。
「『魔女』も厨二感溢れる生い立ちだったっけ・・」
『魔女』と名乗っていたアイヤナは、白人に対しての敵意を隠そうともしなかった。
まぁ、バリバリのネイティブ・アメリカン現役じゃ、白人は敵か・・。
・・・。
ね、アイヤナ。
私の『いずれ帰る場所』、今なら分かるよ・・きっと、いつかは帰り着いてみせるよ。
「・・・アリソン。まさか、こんなコトになるなんて思わなかったよ・・。感謝してるけど・・素直にありがとうって言えないかもよ・・?」
彼女のおかげでもあるし、彼女のせいでもある。
でも、だからこそ、自分は『成し遂げ』られたのだ。
その代償に遥か太古に飛ばされただけ・・・・・いや、代償、デカくね?
複雑過ぎるわ。
くっそ・・・!
.....So mote it be.
アリソン、日曜礼拝、いつか一緒に行こうね・・。
「キヨ。アンタとは、いつか、決着をつけなきゃならないわ・・!」
キヨは日本人らしいけど、日本人らしくなかった。
いや、『日本人女性』ってイメージをぶち壊してくれた。
お淑やかにしてて『ヤマトナデシコ』ってやつかと思ったら、「ぎゃはははははははっ!!」って笑い出すとか。
あと、決戦前のキャンプで見たランジェリー・・アメリカ人でもアレは躊躇するわ。
ソレを日常使いとか。
正気を疑うわ。
・・・そういえば「プレゼントする」とかぬかしてたっけ?
いらねーよ。
あんなん履けるか!!!
「・・レイラ。私はまだ生きてるからね・・?蘇生させようとしないでよ?メイみたくなるなんて真っ平ごめんだからね?」
ドン引きするコトやらかしてたレイラだったけど、私が死にかけた時に彼女が居なかったら、私はどうなってたか分からない。
いや、きっと、普通に助かってたとは思うけどね?
でも、何か影響は残ってたと思う。
だから、コレは直に伝えたい。
レイラ・・・マジでアレはやめて。
アレを私に使おうとはしないで。
きっと、いつか必ず、アナタに言うわ。
「タリアママ・・アナタにもう会えないなんて、今でも信じたくないわ・・・アナタの冥福を祈り続けるわ・・」
きっと、タリアママがセリィを庇って死ぬ所を見ていなかったなら、いま私はココに居なかったと思う。
アナタの全てを包み込んでしまいそうな包容力は、何よりも素晴らしかったと思うわ・・。
アナタが死んでしまったのに、私は生き延びてココに居る・・。
きっと、アナタに救われたのよ・・。
私だけじゃない・・大勢がアナタに救われたのよ・・。
運命を変えるなんて許されない行為かもしれない・・でも、タリアママを救うことで変わる世界ならきっと、素晴らしい世界だと思うのよ。
「・・・セリィ。」
タリアママを思い浮かべたからかしら。
まるでタリアママとセットみたいで嫌になるわ・・!
複雑な気分だわ・・アナタの軽率な行動がタリアママを死なせた・・アナタを許すことはきっと出来ないわ・・。
でも、タリアママなら、「あらあら、まぁまぁ・・」って言いながら全てを受け入れて許してしまうと思う・・。
だから、アナタに再会できるまでの数千年の間に、アナタを許せるように努力したいわ・・。
ぁぁ・・コンコンは毛皮のマフラーにしてやりたいわ・・。
「・・・ガーリックバター。っざけんな!しんみり思い出に浸りたいのに、アンタの名前は思い浮かべただけで吹き出しちまうわっ!」
ラフィ・ガーリックバター・ロックハートと名乗っていたガキ。
ぜってぇ偽名だろがよっ!?
アイツ・・っ!!
ぜってぇ、正体突き止めてやる!
プライバシー?知るかっ!!
アンタとキヨはいつか泣かす!!
いや、その前にセリィに全魔力込めた握り拳のビンタ喰らわしてからなっ!!
「ジェンマ・・・アイツはいっか・・あんま関わんなかったしな・・」
「シャロ・・・強く生きろ。いつかヴァージンも捨てれるさ・・・・先に私が卒業してやるけどさ」
「・・ルシルは・・関わりたくなぃなぁ・・まさか、あんな、おっそろしいマネするとはなぁ・・いや、まぁ、向こうは私なんか知らない訳だし・・?」
うん、そうだ。
絶対だ。間違いない。
むしろ知られてたら怖いわ。
「エミチーは・・・ぅん・・まぁ・・・ありがとう?」
助けられた気はするけど、タリアママが死んだショックの方がよっぽど『点火』された気がするんよ・・。
「ウーファンとカノ・・・ま、今日はいっか・・なんかごめん」
「・・・・うっわ・・なんでベラドンナなんか思い出しちゃったかな、私・・」
あの『胡散臭さ』の擬人化女を回想するくらいならセリィとハグしてキスする妄想した方がマシ・・・ぃゃ、マジ吐きそう・・。
「つぎ、つぎ・・!えっと・・ぁ、キコーニャ!アイツも特徴的だったっけ・・アイツ、あんなんなのに結果は絶対だすんだから、ホントはすっごい奴なんだろぅなぁ・・」
キコーニャは、何かの術式に魔法少女としてのリソース全振りみたいで、超至近距離の接近戦さえしなきゃ、遠くから砲撃してるだけで確実に勝てる気がする。
ただ、それも何かが間違ってる気がする。
邪神様で殴った際に全身がおぞましい寒気に包まれたのはハッキリ覚えてる。
アイツには何かがある。
ただまぁ、再会出来なきゃ、警戒する意味もないわな、うん・・。
とりあえず、今日はこのくらいかな・・。
「ぁー・・・あと・・・メイプル・・。彼女も強そうだったなぁ・・」
メイプルと名乗っていたあの魔法少女は、たぶんだけど日本人だと思う。
アジア系でも、中国や韓国と日本人はわずかに違うのだ。
ハッキリとコレとは言えないが、確かな違いがあるのだ。
しかし、彼女は容姿よりも、その能力がよく分からなかった。
たぶん、時空間系統の能力だとは思う。
あの『エリア』ってのと『レクイエム』ってのは、空間を直に攻撃する能力だったと思う。
うん、敵じゃなくって良かったわ、うん。
一気に思い出しても良いかもだけど、今の私には果てしない待ち時間がある。
また明日・・・また明日思い出しても・・・
・・・・。
「ぁはは・・・ね、みんな・・私ね・・みんなが生まれるずっとずーーっと昔に来ちゃったみたいよ・・?」
「・・・みんな・・」
目が熱い。
胸の奥が熱い。
■
「っ・・・あ゛っ・・ぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・!」
大粒の涙は止まらず、エレノアは哭き続けた。
そんな『神』の様子を、遠巻きに原住民達が見ていたが、チラホラと女性達や幼子達が寄って来て、エレノアに寄り添う。
『神』に触れるなど畏れ多い。
ただ、よく熟した果実を捧げたり、慰めの言葉を掛けたりして、人の身では計り知れぬであろう、『神』の哀しみが和らぐことを願った。
我を忘れるくらいに泣いていたって、ギリギリ触られないくらいの距離に大勢で囲まれてたら、流石にエレノアは泣き止んだ。
そういう気分とは程遠く感情は波打っていたのだが、『神』として在らねばならない。
初めて原住民達と接した際に、尊大に接したりなんかしなければ良かった、と後悔していたが、今更だ。
しかし、原住民達は察してはいた。
この『神』は、自分達とは違う存在の尊い御方ではあるが、哀しみに泣くこともあるのだ、と。
まるで年若い乙女のように嘆き悲しむこともあるのだ、と。
それから2年が経過した。
望郷の念に駆られることが度々あったからか・・未発達の未開の地故か、親身に接しようとしてくれた者が突発的な死に見舞われるのを度々見たからか・・。
エレノアの精神は擦り切れ、『邪神態』を身に纏ったまま、ここ1年以上は身動きひとつしていない。
体育座りの様な体勢でうずくまったまま身動きひとつしなくなってしまった『神』の周囲に、原住民達が集まっていた。
彼らの崇める『神』は、立ち上がれば身の丈50メートルを超える巨大な姿だ。
座り込んでいても、全高は20メートルを超す。
彼らに近しい姿をとる際は、彼らの女性達とさほど変わらぬ身の丈であったが、言葉は通じない。
なんとなく察することは可能ではあったが、完全な意思の疎通には程遠かった。
その日、エレノアは地平線を眺めていた。
いや、その日どころか1ヶ月くらいは眺めていたが。
鳥が飛んでいる以外に何一つ変わらない景色、それが歪む。
その歪みから、3つの姿が現れた。
「おー・・ようやっと見つけたわ・・。長かったのぅ・・」
「もー!こんちゃん!見つかったんだから良いじゃんっ!」
「・・・」
キツネ耳とキツネ尻尾を生やした絶世の美女と、小学生くらいの黒髪の少女、なぜか車椅子に座ったキモノ?の美少女、そんな3人・・いや、三柱の現人神だった。
■
エレノアは、ほぼ5年振りに出会えた言葉の通じる相手に、我を忘れて語り掛けた。
それはもう凄い勢いで、話し掛けられる三柱の神性存在が唖然としてしまう程に。
ただ、その目から止めどなく溢れ続ける涙を見て、彼女の気が済むまで話し相手を務めた。
そんなエレノアを見て、原住民達は、安心していた。
哀しみに泣いていたかと思えば、本来の巨体に戻ったまま座り込み、身動きひとつせずに1年以上経過していたのだから。
その間に産まれた者も居れば、その間に死んだ者も居た。
キツネ耳とキツネ尻尾を生やした女性が自分をジッと見ているのに気付いたエレノアは、恥ずかしくなる。
同性から見ても美しく目を奪われてしまうほどの美貌を持つ相手だ。
そんな相手から見つめられたりしたら、気まずくて堪らない。
「・・・私の顔より、鏡を見た方が良いものが見れると思うけど?」
「主は面白いことを言うのぅ」
心底楽しそうに笑う相手に、エレノアは何と返したものか困る。
「・・・」
「すまぬな。いやな・・まさか、主とこうして話せる日が来るとは思っておらなんでな・・」
「・・?」
今の言い方は何か気になった。
「・・・初対面だよね・・?」
「主にとってはのぅ」
「・・どこで私を見たの?」
「ん?・・余の住まいじゃなぁ」
「・・アメリカに住んでないよね」
「まぁのぉ。日本に住んでおるわ」
「・・・キョウトシティのフォックス・テンプルでしょ」
「ぉゃ・・主こそ、余を知っておるのか」
「・・・有名だよ。世界に少ない本物の神様、いや女神様、か」
「まぁ、女狐じゃがなぁ」
「・・・・私、フォックス・テンプルどころか日本にすら行ったこと無いんだけど・・」
「ふむ。余の住まいの、陽当たりの良い部屋で、70年以上は寝ておるのぅ」
「・・・私、まだ20過ぎなんだけど・・。・・・」
口にして、自分が太古の世界に飛ばされてから経った年月を思って涙が滲んだ。
この時代に弾き出された時にはまだ10代、高校生だった。
気付けば20を超えている。
時間の流れは残酷だった。
好きな男子だって居たのだ。
きっと、自分が1人で泣いている内に誰かと付き合って、もしかしたら結婚したりしているかもしれない。
自分には、恋の駆け引きすら許されない内に、だ。
「・・安心せい。余達は、主を迎えに来たのじゃからな。ほっとけば、遺骨として発掘されるまで待つ羽目になっていたかもしれぬが、もうそれは無い」
涙で滲む目を向ける。
「歴史を変える訳にもゆかぬからのぅ。主には、現代の主が時空の果てに消えるまでは出て来てもらう訳にはゆかぬがな」
「・・・もしかして・・」
「うむ。そうじゃ。・・主が余の前に現れたのは、第二次世界大戦の最中じゃった。すでに時空間凍結術式がかかっておったがのぅ。それから70年余り、主は眠り姫じゃ」
「・・・」
「安心せい。主がいつ、この太古に飛ばされたのか、まだ分からん・・じゃが、その直後に限りなく近い時間に、主を帰す。約束しよう。余はこれでも『神』じゃからな・・必ず、約束は果たされる」
「っ・・・!」
嬉しさに溢れた涙は、とても温かかった。
「さぁ、『神』の出立じゃ」
キツネ耳の女性の呼び掛けに、エレノアが力強く頷く。
原住民達が集まる前で、彼ら彼女らから献上されて身につけていた衣に手をかけ、日本のキモノに似た作りのソレを、勢いよく脱ぎ捨てる。
脱ぎ捨てられた衣が風に乗ってはためき、光の粒子になって消えてゆく。
実際は、本物は空間収納に納めているけれど、演出だ。
演出の為とはいえ、老若男女合わせて100人以上は居る前で自ら裸体を晒すなんて、叫び出したいくらいに恥ずかしい。
しかし、自信に溢れた不敵な笑みを浮かべ、両腕を広げ仁王立ちする。
恥ずかし過ぎて発狂してしまいそうだ。
「ふっ・・」
これは演出だ。
地に降り立った『神』が天に還る、その帰還の姿を見せる為の演出だ。
奮い立たせろ!
20過ぎて、もはや忘れかけの厨二スピリッツの残り滓を出し尽くせ!
自分がこの地に降り立った日から5年弱。
きっと、彼ら彼女ら原住民達と接することが無ければ自分の精神は擦り減って、擦り切れて、絶望のうちに死を選んでいたかもしれない。
ここ1年以上は身動きひとつしていなかった。
彼ら彼女らとも一切関わりは持てていなかった。
だが、彼ら彼女らは自身を気遣ってくれていた。
それは分かっていた。
ただ、ただただ、感謝しかない。
だから、去るのなら、彼ら彼女らの望む『神』として去るのだ。
「ふはははははははっ!あはははははははっ!!」
全身から魔力を放ち、『邪神態』をフルパワーで解放する。
きっと彼ら彼女らの目には、自分達と変わらぬ背丈であった少女が見上げる巨体に変じた様に見えることだろう。
邪神態になった自分の横に、同じくらいの巨体の光り輝く巨大狐が現れる。
そして、そんな自分達の周りを廻る様に現れたのは、漆黒の巨大な蛇。
その太さだけでなく、全長は何㎞あるのかも分からないくらいだ。
さらに、邪神態の足下でボワッ!!!と溢れた火球が勢いを増し、巨大な燃え盛る鳥の姿になる。
前もって打ち合わせた時に聞いた『ホウオウ』というのは分からなかったが、フェニックスの類なのだろう。
全身から闇を溢れさせるタコ頭の巨大な邪神、
光り輝く、神々しい巨大な狐、
闇よりも暗き黒を凝縮させたかの如き巨大な蛇、
天高く世界を照らす太陽の如き輝きの巨大な鳳、
それらが身を浮かせ、空高く上がってゆく。
原住民達は理解した。
地に降り立った神は、同族達と共に、本来在るべき世界へと帰ってしまうのだ、と。
祈りの言葉が溢れた。
たとえ言葉として理解出来ずとも、伝わるものはある。
エレノアは、彼ら彼女らが健やかな生涯を送れるように願い、治癒術式を展開し、発動させた。
昔の自分の魔力量であれば大したことは出来なかっただろう。
しかし、アリソンの『繭』から再誕した自分の力であれば・・。
「・・・私はオプタートゥム・リリィ。『願い事』を統べる魔法少女・・」
空高く浮く邪神態が腕を広げ、その全身から魔力を振り撒く。
「あなた達と会うことはもう無いでしょう・・でも、あなた達の遥か未来の子孫達と再会できる日を待っています・・」
彼女が落ちたことによって地に穿たれた巨大なクレーターは、彼女が身を置いていたことにより、魔力に満たされた盆地になった。
その魔力に惹かれて集まって来た微精霊達が整えたことによって、活力と生命力に溢れた森となり、わずか数年とは信じられぬほどに鬱蒼とした植生となった。
その豊かな森に集まり定住した原住民達は、『落ちてきた神』を崇めた。
天に帰れぬからか深く嘆く『神』に寄り添い、同胞の迎えによって天に帰る『神』を送った。
最後に『神』が振り撒いた慈愛の光により、『神』の地は満たされた。
その地は、何十年経とうと、何百年経とうと、癒やしの聖地として在った。
聖地の原初の頃より居住していた原住民の子孫達は、生涯、活力を漲らせ、聖地を護ることに尽力した。
そして聖地もまた、彼ら彼女らを護り続けた。
例え、「自分達が見つけた」と我が物顔で不法侵入してきた白い肌の侵略者達であろうと、
『神』の御加護に対しては無力だった。
原住民を殺そうとした白肌の者は、全身を腐らせ苦しみ悶えながら発狂して身を溶かし地の染みとなり果てていった。
原住民を騙そうとした白肌の者は、数日の内に知能を退化させていって、赤子よりも無力で厄介な状態へと堕ちていった。
原住民達を不当に追い出す法律を制定しようとした政治屋達は、愛する妻が身をただれさせ愛子や愛する者が血反吐を吐き苦しみながら死んでゆく事態となり、政治活動どころではなくなっていった。
程なくして、『聖地』と原住民達に害なす者や内側から崩そうとする者達は居なくなっていった。
そして聖地は、触れてはならないアンタッチャブルとして認知されていった。
聖地『Octopus pot』の中心地には、祭壇がある。
この地に落ち、同胞と共に帰っていった、『神』を模った神像が祀られた祭壇だ。
全米各地が戦乱に巻き込まれていった『魔女爆弾』事件の最中、
聖地に住まう原住民達の子孫は、TV中継でソレを目にした。
自分達が先祖代々、何百年、何千年と崇め信仰してきた『神』の、口伝により伝わる御姿と瓜二つの姿の巨体を。
そして、全てを護る為に自身を犠牲に、裂けた空間の狭間へと、世界を焼き尽くす絶望の業火の顕現とともに消えた挺身を目にした。
業火に全身を焼き裂かれ、聞いて耐えられないほどの悲痛な叫びを、
その姿を消す間際の、その最期の叫びを、聞いたのだ。
『私はオプタートゥム・リリィ!!『願い事』を統べる魔法少女!!みんなを!全てを!私が!護るっ!!』
御姿だけでなく、最後に『神』が思念を伝えられたという『言葉』も口伝で伝えられていた。
自分達とは違う言葉なのはハッキリしていたが、白肌の侵略者達の言語の中に、近しい発音の響きを見つけた。
自分達の聖地を奪い取ろうとする侵略者達と、聖地を生み出した『神』の言葉が近しいという事態は受け入れ難かったが、近い発音を充てて導き出された『言葉』に、原住民の子孫達は複雑な心境を隠せなかった。
しかし、全世界生中継で観た挺身の最期。
もし、その挺身の後に、世界の果てのさらに外、時空の理すら越えた先、太古の時代の世界に飛ばされていたのなら?
そして、神が帰っていったという先は?
理解した。
神は地におわした。
この時代におられた。
この時代から来られたのだ。
『魔女爆弾』事件の終息後、『現人神』だというキツネ神が日本から来日して、眠れる少女を連れて現れた。
その様子は全米中継されていた。
眠る姿に涙ながら駆け寄る、『魔女爆弾』事件の戦友の魔法少女達の姿は、中継を観る者達を感動させた。
中継を見て、聖地の住人達は旅立ちの支度を始めた。
「行こう。我らが『神』にご挨拶に」
涙は止まったのか、
哀しみは晴れたのか、
絶望の壺の底でなく、友に囲まれた幸福の壺の中で、
『神』の御顔を見させて頂きたい・・そう願いながら。
読みは『壺中哭』。
『壺中天』という言葉がありますが、そちら寄りに。
投稿前の仮タイトルが『タコツボの只中で慟哭す』だったんですけど、微妙だったので短縮。
今回出てきた魔法少女達のほとんどは『4th』。
一部は『1st』から出ています。
1人は『5th』か・・・。
時系列的には作中の紀元前の遥か昔なので、まぁ・・。




