表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/44

25 テノリバ・ダンジョン

 テノリバの城下町のダンジョンへ入ろうと並ぶものは、後を絶たない。

 その多くは冒険者でもない平民で、老若男女問わずだ。

 彼らの表情は、まるでこれから芝居や劇を見に行くように見える。


「俺はこの前、一階を半分も進んだんだぜ」

「勝ったね。俺は三分の二だ」

「まちがえた。俺は半分とさらに半分だったか」

「言ってろ」


 親しい友人と見える若い男がふたり、競うように胸を張り合う。

 彼らは皮の鎧さえ身に着けていないし、棒きれ一つ持っていない。

 ダンジョンへ潜ろうというのに、あまりにも不用心だった。

 列が進んで、彼らの番がやってきた。


「ようこそ、安全ダンジョンへ。はじめての冒険ですか?」

「いいや、三回目だ。カードもあるぜ」

「俺もだ。説明はいらない」

「ありがとうございます。それでは装備を身に着けたあと、指示に従ってお進みください」


 ふたりは、我先にと競うように更衣室で装備を身に着けた。

 ほとんど強度もないような、鞣しただけの皮の鎧と木の剣を手にしている。


「生きて帰ってくるまでが冒険だ。死ぬなよ」


 軽い説明のあと、冒険者風の男にそう言われて、彼らは送り出された。

 ニッと笑みを浮かべて、ふたりは力こぶを見せつけて自分に酔う。


「わかってらぁ」

「おうともよ」


 彼らは、自分の物語の世界にどっぷり、あたまの天辺まで浸かった。


 テノリバの安全ダンジョンは、かんたんに言えば非致死性の迷宮だ。

 ほとんど怪我しないようなトラップと、係員が扮装したモンスターを倒しながら進む、アミューズメントパークのようなものだった。

 それでいて本物のダンジョンマスターが作っているのだから、人を嘲るような悪質さは遜色ない。

 すこしの勇気といくらかの知恵を絞り出して進む、スリルのあるゲーム。

 娯楽に飢えていた平民は、心を奪われるようにこのダンジョンへ通った。

 この熱狂は、ダンジョンへの恐怖と忌避を忘れさせるくらいには燃え盛った。


「惜しかったな。しかし、次で二階に進んで見せるぜ」

「ああ。あのトラップさえなけりゃなあ……」


 二人組が、体中を泥だらけにしてダンジョンから出てきた。

 汚れて、疲れて、悔しそうに顔を歪めているのに、楽しげだった。


 テノリバ安全ダンジョンは、人に愛されている。

 悪辣なダンジョンマスターが育っているという自覚もなく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ