15 野草のソース
「こいつでなにか作ってもらえないか?」
と言うのはマルファウトだ。
まばらに生えた髭も剃らないまま、いつもの冒険者風の格好をしている。
長旅のせいかすこし頬がこけ、疲れが目の下に黒い。
彼が懐から取り出したのは、強く香る大きな葉だ。
「草ニンニクかー。いいもの持ってきたねー」
「ああ。帰りに見つけたんだが、そのまま食べてもつまらないだろう」
食べるとニンニクの香りがする草は、そのまま煮てもそれなりにおいしい。
ただ、マルファウトは自分で料理するより、もっといい方法を知っていた。
「厨房に聞いてみるけどー、期待はしないでねー」
一掴みほどの束を預かったワールは、にこにこ笑ってキッチンへ足を向ける。
「期待して待っているよ」
手を振って見送りながら、マルファウトはよく冷えた紅茶を喉に流した。
お腹をすかせた彼にとって数十分は、それほど短くなかった。
「運が良かったねー。新鮮なお肉が入ったばかりでさー」
刺激的に香ばしく漂う匂いは、お腹と背中をさらにくっつける。
ワールが運んだ皿の上に、広げた手のひらほどもあるステーキが乗っていた。
とろみのある茶色いソースには、照りが入っている。
「そいつは都合がいい。それで草ニンニクは……このタレか?」
「細かくしたのをバターで焼いたんだよー。冷めない内にどーぞ」
マルファウトの目の前に置かれた皿を、両隣の席に座る客が見ていた。
甘い香りが漂う店内を、暴力的に支配する火が入ったニンニクの香りは凶悪だ。
食べる前から喉を鳴らして、ナイフで大きく切り分けて噛み付くように頬張る。
「うまい。うまいが、酒が欲しい。ここに酒の一杯でもあれば……っ」
新鮮な肉の食感と、噛むたびに弾けるニンニクと焼けたバターの香りが口いっぱいに広がる。
もしエールがジョッキ一杯でもあったら、この一切れで飲み干していただろう。
「あの、これ、まだ頼めますか?」
たまらず、となりの席の客が喉を鳴らしてワールに聞いた。
あたまを掻いて思い出しても、脳裏に食料庫の詳細は刻まれていない。
「えーと、お肉はあるんだけど草ニンニクはどうだったかなー?」
確かめてきますねー、と厨房へ入るワールを、祈るように彼は見送った。
それを脇目に、マルファウトはどうにかしてこれを持ち帰って酒を飲めないかと考えていた。
食べるも地獄、食べぬも地獄。




