13 冬のある朝
まだ冬のまっただなか。
人肌よりもすこし温かいコロンに包まれて、ミズクがほっと息を吐く。
温度調節機能を使ったスライムの体は、ぽかぽかとお湯に浮いてる気分になる。
外の汚れを落とすのと冷えた体を温めて貰うのは、彼女の楽しみの一つだ。
ベッドを出るのもつらい季節、これがあるからミズクは家のドアを開けられる。
「ありがとうございます、コロンさん。生き返る気分、です」
「ぷにー、ぷににー」
うっすら色づいた頬は赤く染まって、むず痒いぐらいに温まっている。
コロンの中を出て制服に袖を通す内に、彼女の身も身が引き締められた。
「おはようござい、ます」
「おはようミズク。ミルクが温まってるけど、いる?」
「ありがとう、ございます。いただ、きます」
テーブルを整えているコッツが厨房へ言うと、「もけー」と帰ってくる。
キッチンで作業をしていたトリギュラが、トレイで器用にホットミルクを持ってくる。
チーズを作るためのものだけど、カップ一杯ぐらいは大差ない。
「もけー、もけもー」
「はい。冷ましてから……ふー、ふー……」
注意するようなトリギュラに、頷いてからカップをもらう。
白いカップを両手で持つと、じんわりと熱が伝わってくる。
波打つ表面をすこしだけ啜れば、染み込むようなやわらかな甘みが中から温めてくれた。
「おいしい……」
こくこくとカップを傾けながら、ミズクは板ガラスから外を眺めた。
白んできたとはいえ外は風が吹いて寒々しく、木々の寂しさが拍車をかける。
ふるふると身を震わせて、彼女は枝を伸ばして元気そうに作業しているティレントに目をやった。
幹はつやつやと色良く、葉も夏のように青く茂っている。
「ティレントさんは、冬も枯れたり、しないん、ですね」
ミズクは以前、別種のトレントを見たことがある。
それは秋の頃だったけれど、周囲の木々と同じように葉を赤々と燃やしていた。
だからこそ、季節にそぐわないのが不思議に思えた。
「ちゃの? ちゃのー。ちゃののっ」
「周囲に溶け込まないでもいいから、やらないみたいです」
ジェスチュアで伝えてくれようとしていたのを引き継いで、コッツが言葉に変える。
それを聞いて、ミズクは理由がわかった。
トレントの自然に溶け込む技術は、生きるために必要だから身についている。
けれど、ここで暮らすティレントはやらないでも安泰にしていられる。
「そういうもの、なんですね」
「ちゃのー」
幸せそうに、若枝が揺れた。




