24話 オーダー!庶民の料理が入りました
イザークは冷蔵庫を開けてご機嫌になった。
前開けた時は瓶の中身が分からなかったのが、今は瓶に書かれている名前が分かる。
「オイスターソース発見!これはラードかぁ。瓶に名前が彫り込まれてる?これはラベルいらないね」
「刻印魔法です。木でも瓶でも刻印できますよ」
「へー、便利。明日たくさん取得しよう」
問題は肉の塊たちだが、鑑定を使えば解決だ。
カレーの顆粒ルーなども見つけた。甘口辛口激辛と、種類も多い。
「ダリル、グレートブルーブルって美味しいの?」
「公爵家の冷蔵庫に不味いものいれるか?」
「だよね、ゴメン」
アレクシスがいることで、座って作業していた使用人たちが直立不動になってしまった。
良いから気にすンな、と言われても、あっさりそうですかとはならないらしい。
思えば国王と宰相がいきなりきたり、専門機関がうろついたりと使用人からすると心臓に悪い日々だ。
「すみません、すぐに作って去りますから」
「イザークには、専用のキッチンを作ろう」
使用人に謝りながら魔玉ねぎを切っていると、ハイドロイドの声がした。魔玉ねぎ、かなりのビックサイズだが透明感が高い。
ヒューも連れて、興味深かげな顔で地下に続く階段から覗き込んでいる。
「ハイドロイド様、そんなわざわざ作らなくても」
「いいや、作りたい時にその都度降りてきたら使用人も休憩しにくいだろう――部屋には余裕がある。キッチンを増設するくらいなんとでもなるさ。イザークなら余裕で支払えるから、プレゼントじゃなきゃ気軽に使えるだろう」
支給の三千万ドルエンは、かなり高額とみた――だが、ハイドロイドは専門機関にスマホの相談に行ったはずだ。恐らく相当の高値になったのだろう。
鍋に砂糖、醤油やみりんなどを入れている間に、ダリルが塩コショウした魔物肉をスライスしていく。
「何を作っているんだい?」
「リクエストの牛丼です」
アレクシスを見たハイドロイドが礼をしようとして、またもアレクシスが止める。
アレクシスの申告を聞いてないハイドロイドからしたら、まだ専門機関のメンバーだと思っているのだろう。
肉と玉ねぎを煮込みながら、イザークはもう一品作りたくてそわそわした。普段ならひと品煮てる間に、他の作業をするので手が空いているのに慣れない。
別の冷蔵庫には紅しょうががあった。なんでもありすぎる。
「アレクは紅しょうが乗せる人?」
「よくわからねーが乗せる」
「苦手だったら避けてくださいね」
魔道炊飯器で米をよそい、エプロン姿のスーシェフから箸を貰う。
さすがに丼はなかったので、底の深い平皿だ。カレーなども入れても良さそうな皿である。
アレクシスの前にやや平らになってしまった牛丼を出すと、イザークのお腹が鳴った。
(うわ、恥ずかしい……さっきベーコンエッグ食べたのに?!)
「魔力欠乏症だな」
アレクシスがいただきますをしてから、左手で箸を握る。そして、そのまま右手をイザークに当てた。
体がそよそよとした風のような波で温かくなる。
「でん――私が」
「ンや、もう終わる」
ハイドロイドが前に出たが、アレクシスがそれを遮った。
イザークの、謎の空腹が止まる。
「ありがとうございました……でも魔力ポーションを飲めば良かったのでは」
せっかく知識として覚えたのだ。それとも魔力ポーションの方が高いのか。
「魔力ポーションは使った魔力を回復させるんだ、お前のはそもそもが足りてねーから魔力ポーション飲んでも大して意味ねェな――うまっ」
いいお肉を使ったかいがある。イザークにも味は未知でも、鍋にでる肉汁の量と調理した時の弾力が美味しいであろうことは分かる。
「それにしてもイザークは味見しねぇな、日本の流行りか?」
「あっ……これは私の悪い癖で!つい目分量で作ってしまうんです。計量するものは日本にもあるんですけど。作り慣れてないものは味見しますよ」
「なるほどな」
アレクシスが一切れの肉をイザークの口に押し込んだ。
ほとんど噛まなくても口で溶ける肉、そこから溢れる良質な脂。じゅわりとタレの味が染み込んでいて、程よいくたり具合の玉ねぎと肉が甘い。
「ビックブルくらいの肉ならもうちょい噛みごたえがある。ま、ステーキにすんならトッティーモエランディールレベルだともっとレベル高い肉使うんだろうがな」
「勉強します……」
「紅しょうがも良かったぜ。肉が甘いから口の中がさっぱりする」
(夜の肉じゃがには違う肉にしよう……)
そして、もっと肉の勉強をしなければ。
「あと、魔素の高いもん食えるようになったみてーだな」
「ちょっ、アレク!!未確認で食べさせたの?!」
暴挙に、思わず敬語が消えた。
だが鑑定をすんなり出来たり、魔力欠乏症などが起きていることを考えれば、アレクシスとしては確認するまでもなかったのだろう。




