2-29〈黒塗白蛇〉+αVS『無窮戦陣』U.U.U. 上
未踏破ダンジョン『大迷宮』ドライ 5層。
「あれ?瘴気が薄いですね」
「ですが薄いだけでまだ濃いかと」
階段を下りた先、5層は4層よりも霧が薄く視界が開けていた。だが、周囲の植物の状態には差が無かった。
それがまた不気味で、逆にライトの警戒心を引き上げる。
「ライト君、アレじゃないですか?」
「確かに、アレ、でしょうけど……変じゃありませんか?だって……」
フーリンの指さした方向へと視線を動かすと、そこには確かに居た。
紫色の巨大な霧の塊のような、生物かも分からないナニカ――特別指定災害生物"無窮戦陣"『Unlimited Undead Unknown』が。
しかし、そのナニカは通常の状態ではないように思えた。
「僕の目には『鎖のようなものに縛られている』ように見えるんですけど」
「マスター、私もです」
「私にも見えますね」
「私の目にも、見える」
金属製ではなく何かしらの現力製であることが伺える、淡く光る『黒い鎖』に霧の塊が地面へと繋ぎ留められている。
明らかに、意図的にされているだろう拘束を前に動揺が走る。
意図的だというならば、誰かがラビルを消す為に、何らかの方法でU.U.U.を此処に仕組んだということになるからだ。
「そもそもU.U.U.は、転移能力で僕達が近付いて来た時点で逃げる筈、それが目の前に逃げずに残っている。それが既に異常です。誰が何の目的でどんな方法でやったのか知りませんが、こっちからしたら迷惑極まりない」
「いえ、恐らくその迷惑を掛ける。U.U.U.を利用してラビルを消すのが目的でしょうね」
「でもそんなの、誰に得?」
「該当が多く、回答できません」
ライト達は、その状況が故に気を少しだけ抜き、会話を行った。
それが、良くなかったのである。
「あり得――」
[グルルァァ!!!!]
「――ぐっ!?」
「マスターッ!」
咆哮と共に、身体が吹き飛ばされる。
痛みはそれ程ではないが、衝撃が凄まじく身体の内に響いた。
それを無理矢理に抑え、飛び起きて杖を構える。
攻撃が来た方向を見上げると、そこに居たのは黒い竜。
翼を躍動させ、鋭い眼光でこちらを見下ろしている。
遠くだからか小さく見えるが、かなりの大きさだ。
「ブラック……いやあの感じ、ストームドラゴンかもしれませんね。でもこの層で出てくる魔――フーリンさんっ避けてっ!!」
「アースイーター、5層に出る魔物じゃありません、ねっ!」
電柱程の太さと大きさの茶色の大蛇をフーリンが魔力を纏わせた手で、空中に跳ね上げる。
「さーすがフーリンさん、跳ね上げっ――」
[グルァ!!]
「――危ない、けど風魔法ですか。やはり、ストームドラゴンのようですね」
視線を逸らしている内に、飛んできた風の刃を杖で砕く。
敵について確証を得ると同時に周囲の状況を再度を確認した。
新しい魔物の気配が、次々と現れるのを感じ取る。
「可笑しい、ダンジョン機能としての魔物の発生にしては間隔が短すぎる上に……種類がバラバラ、そしてこの層に出てこない筈の魔物も現れてます」
「ほっ――確かに、バインドスパイダー。この層に出ない奴」
「何でそんなにぐちゃぐちゃにするんですか、汚れますよ?」
「でも――」
飛び掛かって来た車サイズの蜘蛛を跳躍の動作の内に細切れにするリルカ。
その執念な攻撃に苦言を呈すが、ライトは気付いていない。
「こうしないと、復活しちゃう」
「え?……しまった。本体があの状態だから忘れてましたよ」
「マスター、魔物が増え続けています」
現れている魔物達全てが、既にU.U.U.の影響下であるという事実に。
与えられた不死性により、原形を留めないほどに殺さなければ魔物達は無限に再生し続けてしまう。
だが、疑問も残る。嵐竜の風魔法とその他諸々の魔物達を避けながら思考を巡らす。
(どうやって、魔物達は此処に来ている?……U.U.U.が原因としか思えないけど、そんな能力……いや、そういうことか)
既に持つ情報から的確に答えを導き出した。
引っ掛かりを覚えたのは、U.U.U.の三つ目の能力、あらゆる阻害をすり抜ける転移能力だ。
これは、被害側の状況から考えた推測の能力だと思われる。何故なら、U.U.U.は名前の通り今まで真面に観察・研究されていないのだから。
(U.U.U.には、超高度な"空間操作能力"がある。それならば、今の状況も元々言われている能力も説明がつく!)
「ライト君、一人で納得した風にならないで下さい!攻撃してくださいよ!」
「すみませんっ!!」
(でもこのままじゃ、不味いかもしれないんですよ――ねっ!!」
《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-回避錬術-怪力》
―――蛇剣舞:嵐蛇激甚斬
杖から生じた黒混じりの薄緑色の斬撃が、蜥蜴、蛇、雲、蟲などの魔物を切り伏せ吹き飛ばし、終点から発生した嵐がそれらを更に粉々に切り刻む。
ライトの推測では、U.U.U.の空間操作能力で広域から魔物を強制的に転移させ、支配と不死性の付与を行っているという結論に至った。
その考えに至った理由は、このドライ5層に存在しない魔物が急、且つ大量に現れたからだ。
別の場所から連れてこられているとしたら、魔物の多さも種類がバラバラの理由も全て合点がいく。
のだが、この推測が当たっているとした場合、かなり危険な状況になる可能性がある。
それは、
(『他の特災』が連れて来られる可能性がある……)
今の戦況を大きく動かす怪物が不死、更には集団で襲い掛かって来るというものだ。
直近で一番ヤバいのは、このダンジョンに唯一確認されている特災であるルリム・シャーイコニスである。
あの白蛆が、不死になるそれだけは考えたくもない最悪だった。
もっと最悪な情報があるとすれば、ルリム・シャーイコニスは、同時に"複数体"存在するということだ。
雪原の層である21~30層の内、階層主との戦闘がある30層を除く九つの層に一匹ずつルリム・シャーイコニスは存在しているのだ。
ライト達は知り得ないが一度倒せば、リポップに一週間を要するので現在『大迷宮』には八匹存在しているということになる。
「こういうのは、考えると来ちゃいますよね」
そう、こういう時は考えると来てしまうのだ。
そして、このまま順調に進んでU.U.U.が倒せる訳がない!障害が無いと面白くならん!
ありがちな展開なので……はい、最悪なことが起こります!
「なら来る前に片付け――っ!?」
ライトは、一瞬にして"気温が下がった"のを感じた。
それがどういうことかを知っているからこそ、杖を握る力が強くなる。
冷や汗が流れる、しかしまだそれは凍らない。
「マスター、この感じは」
「寒くなった、あと強い奴が来る」
「然も複数ですね……ライト君、長期戦は不味いですよ」
「……八体居ますね。本当に、最悪です。あの気配からしてU.U.U.に支配もされてますし、不死性付与もされてます」
もしかしたら自分のせいかもという、そんなこと無い筈の運命的な責任感がライトに圧し掛かる。
だが、それが押しつぶす前に跳ね上げ、勝利への道筋を作り出す。
「ミスティアナ、"八体全部引き付けろ"それ以外は良い、出来るよな?」
「ライト君ッ!?それは無茶じゃ!」
「マスターの仰せのままに」
「ミスティアナさんっ!?本当に大丈夫なんですか?私は流石に無茶だと――」
「――マスターが言うならば、問題はありません。私はただ遂行するだけです」
「そう、ですか」
「フーリンとリルカは、ミスティアナの邪魔になる魔物達の排除を頼む」
「分かった。けど、ライトは?」
「俺は――本命を叩く」
ミスティアナに無茶な命令をし、フーリンとリルカに頼みをして、ライトは全てを注ぐことにしてU.U.U.の方へと駆ける。
無茶なことを言った自覚はあるが、理由や勝算なしで言った訳ではない。
前回白蛆と戦った時、ライトは自分が居なければミスティアナは全て攻撃を回避出来ていただろうと考えている。何故ならミスティアナには、未来予知とそれを最大限活用出来る速度があるから。
剥奪槍で凍結対策が可能な状態で邪魔さえ入らなければ、時間稼ぎは余裕だと予測している。
彼女自身で何とか出来ない邪魔の排除は、頼んだので恐らく少しは確実に時間が出来る。
その内に、ライトはさっさとU.U.U.を殺す気なのだ。
上手くいくかは分からない、だがそうするに他無いと判断した。
「無茶言ったんだから、失敗する訳にはいかないっ!」
―――墜ち爆ぜる雷蛇
雷光が、U.U.U.へと連続で降り注ぎ、大きな爆発を巻き起こす。
けれども、その全てに意味は無く霧が揺らぐだけであった。
「ちっ、蛇王蛇法が効かない。なら、物理で行ってみるか――あっちも始まったみたいだ」
更に一段周囲の気温が下がると同時に、何かが切断される音と何かが砕かれるような音が耳に入って来た。
そちらを向かずとも行動が始まったことが分かる。それ即ち、終わりが分からないタイマーが動き出したということだ。
U.U.U.と、かなり距離を詰めたライトは脚に魔力を流し、全力で飛び上がる。
《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-回避錬術-怪力》
―――上級杖術・変異:閃突魔牙・黒鋏
王気で造られた顎を持つ杖を、眼下のU.U.U.へと振り下ろす。
「なんっ!?うわっ――」
紫色の霧の塊であるU.U.U.の端、表面と接触した瞬間、水を叩いたかのような重い感触が返る。
が、直ぐにそれは消え、杖ごと身体が通り抜け、U.U.U.の内部に突っ込んでしまう。
瘴気の塊である筈なのに、苦しくなく妙な温かみを感じた。
身体が、地面へとぶつかる。幸い王の外套のお蔭で衝撃だけで済んだ。
視界は紫色で目を閉じているのと最早同じだった。
「見えない……けど恐らく此処はU.U.U.の内部だけど、これもう空気と変わらないので攻撃しても意味が無さそうです。でも、ならさっきの感触は何だったんだ?」
今の状態を鑑みるに最初の接触に違和感を感じた。
「でも、今は先に出る方が先だ――」
再度大きく跳躍するライト、先程感触があった位置まで直ぐに跳び、軽く視界が晴れて出たかと思うと、
「――あっがっ!?んだこれっ!」
嫌な金属音と共に、身体中に『黒い鎖』が巻き付いていた。
◆投稿
次の投稿は12/23(金)です。
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◆蛇足
蛇の王「もう直ぐクリスマスじゃっ!のう語り部!お主、予定はあるか?」
語り部「ああ、あるぞ。お前とな」
蛇の王「……そうじゃったわ。ちっ、ボッチと弄ってやるのが出来なくなったのじゃ」
語り部「何か複雑だな、こう一緒に居てくれる嬉しさとその企みがあった残念感。どうしてこう、良い方向だけに振れないのか」
蛇の王「それはそうと、プレゼントくらい準備したんじゃろうな?」
語り部「ああ、準備してるぞ」
蛇の王「くっ、そういう意識の欠ける男と弄れないのじゃ」
語り部「だからお前なぁ……」
悔しがる蛇の王を語り部は若干冷めつつも温かい目で見ていた。




