2-23〈黒塗白蛇〉VS『極氷の白蛆』ルリム・シャーイコニス 上
[◆□◇■○●]
「来ま――」
白蛆から言葉とも思えない何かが紡がれた瞬間、空気が凍る。
比喩ではなく、空気そのものが凍ったのだ。
白蛆を中心とした周囲30m程の範囲が氷山のような状態に突如変化し、ライトはそこに囚われた。
王の外套のお蔭で身体の芯まで凍りついて即死ということは無かったが、それでも身体は動かせない。
(ふざ、けるな、ノータイムすぎる…!……ミスティアナさんは……アレ?居ない?)
屈辱が思考に入り浸る中、視界内にミスティアナが居ないことに気付く。
身体は凍っていないが、周囲全てが凍っている為に、首を動かせないが故に確証は得られないが、やはりミスティアナは居なかった。
――氷山が砕け散る。
「マスター、問題ありませんか」
「……はい、大丈夫です」
(いや、どうやってあの凍結を回避して――えっ!?」
上空から降りて来たミスティアナが剥奪槍で、氷を一撃で砕き、ライトの腕を掴んで一気に白蛆から距離を置く。
寒さで体の感覚で優れない、だが次が来ようとしていた。
突如身体が後方へと引かれ、放り投げられる。
それをしたのは、出来ることが可能なミスティアナに決まっていた。
「何をっ!?」
「私は問だ――」
「ミスティアナさんっ!?」
目の前を氷が侵蝕し、ミスティアナを飲み込む。
氷の魔の手が自身へと迫り始めたことを察知し、後ろ髪を引かれながらも全力で雪上を駆け出す。
背後で悪寒のする程の魔力の高まりを、ライトは感じた。
(『何でも凍らす能力』だけでも厄介なのにっ……これはっ!)
記憶にあるルリム・シャーイコニスの能力と戦い方を元に次の攻撃を予測する。
けれども対策は上手く立てられない。迫る氷から意識を離せば、先程と同じように囚われそうだから。
だが、逃げるのが性に合っていないライトは、数秒で痺れを切らし、次の攻撃が来る前に対応する為、回避から破壊へと行動方針をシフトした。
《黒剛彩王-虚の理-悪逆非道-偽詐術策-聡明》
―――上級時空魔法:テレポート
―――超級音魔法:無制限の拡声器
―――天級音魔法:超振動崩壊音波
転移で上空へと逃げ、杖で魔法を増幅し放つ。
キーンと耳に響く音と共に、白蛆の周囲の氷に罅が入っていく。
しかし、攻撃の媒介が音のせいで、上空から放つと効果が薄くなってしまう。
ライトの魔法は、氷を砕くまで行かない。
(安全策で距離を取り過ぎたかっ……――っ!?――おい、マジかよ」
宙に浮いているからこそ、その化け物具合が余計に分かってしまった。
空を埋め尽くす程の無数の"青色の魔法陣"が見えたのだ。
余りに暴力的なその量に一瞬、思考が止まる。
その一瞬の油断が、上位者の戦闘に於いては命取りになる。
左腕の激痛と凍てつくような感覚が、それを即座に理解させた。
「いつの間に――不味っ」
掌に突き刺さっている地から伸びた氷、その傷口から段々と身体から色が抜けるように凍っていくのが目に映る。
少ない対応手段の中から、迷いなくライトは効率的なある方法を選び出す。
―――取出・巳蚓魑
王の外套を操作して杖を身体の近くに保持し、右手でイグニティを握りしめ、
「やるっきゃないっ!」
左腕の二の腕へと振り下ろし、そこから"切断"する。
痛みは他に向けるべきことが多すぎるせいか、そこまで無かった。
「早く腕を戻さないと――いや、魔法が来るっ!?」
落下する最中、腕の治療を蛇王蛇法でしようとするが、それよりも早く魔法陣が輝き出す。
青き妖しき無数の輝きから、人ひとり簡単に潰せそうな程の氷柱が大量に生まれ、ライトへと降り注ぐ。
その質量故に、落ちる速度はとく速く、術の発動は間に合いそうにない。
対応できず、氷柱群がライトを潰す刹那、
《未来予知-槍術:神級-電光石火-絶技-天眼-神風-真愛》
―――超級槍術:千撃の流光風閃
白光が煌めき、障害を次々と粉々に砕き貫いていく。
その状況への驚きを、冷めた思考で隅に追いやり、氷に覆われた地面へと意識を向ける。
イグニティと杖を入れ替え、地面に向けて構えた。
―――増え爆ぜる炎蛇っ!!!
杖先から"黒い炎"が溢れ、一瞬にして視界を埋め尽くす。
黒き炎の蛇たちが氷の大地に接触すると共に爆ぜて、辺り一帯を焦土と化した。
周囲よりも明らかに温度の高くなった、その場所へとライトは降り立つ。
―――癒し治す聖蛇
杖の水晶から現れた小さいがやたらと輝きが強い白い蛇が、切り落とされた左腕の断面に触れる。
その瞬間、光が溢れ、ヨルの服ごと腕が元に戻っていた。
視線を上げると、尚も落ち続ける氷柱を砕いているミスティアナが見えた。
ライトは何をすべきなのかと、思考を巡らす。
「対範囲用の技なんて……ありますね」
―――序章・八岐大蛇
杖から溢れた黒き王気が肥大し、形を成す。
闇のような漆黒の鱗で覆われた八つの頭を持つ大蛇が顕現した。
八岐大蛇の尻尾の上に展開された結界の上に乗り、ライトは一つの空色の魔法陣を形成しながら、八岐大蛇に魔力を流す。
蛇の瞳に光が灯る。
突如、ミスティアナの動きが止まり、落ちてくるのが見えた。
「タイミング良し」
《黒剛彩王-虚の理-悪逆非道-偽詐術策-聡明》
―――超級時空魔法:スナッチアポーツ
魔法陣が霧散すると共に胸と腕の間に納まる様に、ミスティアナが現れる。
無表情だが多分驚いた顔をしているように見えた。
まだまだ残る無数の氷柱が落下してくる。
ライトは、警戒はしているが意地の悪い笑みでそれらを見ていた。
「ありがとうございます、マスター。ですがまだあの氷が」
「問題無いです。対策は既に出来ています」
「そうですか……流石マスターです」
深くは聞いていないのに、安心したように見える彼女に少しの不安を感じる。
だが、それよりも次の策を考え、白蛆を探す――前にもう一度彼女の方を向いて、持つその目が痛くなるほど輝く剝奪槍を見た。
「ミスティアナさん、何でそんなにディグレストーン輝いてるんですか?」
「恐らく、《温度剥奪》を使い続けているせいかと」
<そういうことか>
「何がです?ヨル」
<ミスティが凍らされても生きている理由じゃよ。あの蟲の冷光は、何でも凍らす。通常は抵抗出来ずこの時点で死ぬ>
場に似合わない至って冷静な口調でヨルが話し始める。
ライトは、氷柱が時空魔法によって跳ね返され、他の氷柱を砕いているのを脇目で見ながら、良いヒントを貰えそうなので意識を向けた。
<ライトは王気を纏っているから死ななかったが、正直我は、未来予知で回避した初撃の後、ライトを庇って凍った時にミスティは死んだと思っていた>
「サラっと言ってますけど、かなり危なかったってことですよね?それ」
<そうじゃ、だから、ミスティが再度現れた時は静かに驚いたぞ。じゃが、ディグレストーンの能力と考えれば不思議でもなかったな>
余りにもあっけらかんとしたヨルに少し怒りを抱くが、今は仕方ないと流す。
<ディグレストーンは、力ならば世界の基準値つまりは0まで何でも幾らでも奪い蓄積できる>
「世界の基準値、ですか。ということは今回は」
<マイナスになっていた温度の値を0になるまで奪い続けているという訳じゃ。それは強制的に周囲の温度を上げているのと同じ、まあ氷点までしか上げれぬが、今よりは何倍も温かいじゃろう>
「温度が上がってるから、身体が凍りつかない。だから死なないって訳ですか……」
ライトは、剝奪槍へと目を向け、思考を巡らす。
閃光のように、妙案が現れる。
「今も溜まってるその温度―力って、力なら何にでも変換できるんですよね?」
<そうじゃな>
「なら、あのクソ蟲を殺せそうです」
「マスター?」
酷く歪んだ、悪魔のような笑みを浮かべるライト。
少し、ミスティアナに心配されている。
「休憩は終わりだ。ミスティアナ、蟲狩りの時間と行こうか」
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次の投稿は12/11(日)です。
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◆技解説
魔法技録
超級音魔法:無制限の拡声器 使用者が意識して出した音を増幅する 使用者から離れる程・範囲が広い程効果減衰
天級音魔法:超振動崩壊音波 極めて振動数の多い音波を放ち被弾した対象を徐々に崩壊させる 音波に晒されている時間が長い程崩壊速度上昇 距離が遠いと効果減衰
◆蛇足
語り部「蟲のくせに魔法型とかいうウザい敵との戦闘」
蛇の王「別に蟲でも魔法使っていいじゃろが、蛇も魔法使うんじゃから」
語り部「え~、あんな明らかに知性無さそうなやつに魔法使って欲しくない~」
蛇の王「はぁ、我儘な奴じゃな」




