2-20 二人No散歩
人通りの多くもない通りを目的地も無くフラフラと歩く。
「……ふぅむ、何処に行きましょうか」
「マスターのお好きな場所へ」
「ミスティアナさんは、行きたい場所とかありません?」
「マスターの隣です」
「好きな場所はどうですか?」
「マスターの隣です」
ぐぬぬ…とライトは唸ると共に、少し恥ずかしくなる。
考えることなく行きたい場所は貴方の隣、好きな場所は貴方の隣と言われるのは流石にストレート過ぎて堪えてしまう。
そんなライトの内情を全く知らない、無表情なミスティアナは尚も可愛い。
(さっきはああ聞いてしまいましたが、そもそもミスティアナさん外出していませんし、無理を言ってしまったかもしれません……いやでも恥ずかしい……///)
「どうしたのですか?マスター」
「何でもありませんよ」
「そうですか、何かありましたら何でも言って下さい。私はマスターの所有物ですので」
「はぁ、所有物じゃありません。大切な仲間ですよ、形式上は主と奴隷ですけど僕はそう思っていないと、いつも言ってるじゃないですか」
依然としてライトの物であるというスタンスを崩さないミスティアナにライトは少し呆れる。
彼女を奴隷だが掛け替えの無い仲間と思っているライトは、何とかその意識を崩したいと思っている。
しかし、彼女自身がライトの物としてあることに価値を感じていて、自分を思ってくれていることにも気付いており、最近迷いが生じ始めていた。
「――いえ、私はマスターの"物"です。身も心も、マスターの自由にして良いんですよ?」
「――っ!?」
(あの駄王めがっ!!また要らないこと吹き込みましたねっ!?)
いつもとは違う、深く抑揚のある甘い声で囁いてくるミスティアナに、どこぞの蛇の王の顔がチラつき、喜びや怒りなど色々な感情が綯い交ぜになったしまう。
「もうっ!ミスティアナさんはヨル言うこと真に受けすぎです!そういうことは言っちゃ駄目ですっ」
「どうしてですか?マスターは嬉しそうですが」
「別に、嬉しくなんか無いんですからね!」
「ですが、心臓の鼓動がいつもより早く強くなっています。これは――」
「――違いますからっ!?」
自分で分かることのできない情報から、今一番知られたくない相手に内情が駄々洩れなことを会話から察知したライトは、その相手から顔を背ける。
実際、心臓の音が五月蠅く真面に彼女を見れないライトは、一瞬の隙を使って思考を冷やす。
そんな主の気持ちも知らない奴隷の手が背中に当てられ、大きく心臓が跳ねた。
「やはり心臓の鼓動が強いです。マスター嘘はいけません」
「ああもうっ!!ヨルめっ!!」
道端でごちゃごちゃとやっているのだが、特にこちらに目線が飛んでくることは無い。
だが別に完全に気配を消している訳でも無い。ただ認識を阻害、まあ分かり易く言うと影を薄くしているのだ。
何故かやたらと引っ付いて来るミスティアナを離すか離さないか思考を揺らしながら、ライトは彼女を落ち着かせることにした。
「――で、話は戻るんですけど、何処行きましょうか?」
「ではマスター、ギルドで依頼を――」
「――却下です。今日は休暇にしているんですから」
ミスティアナの提案を即座にライトは落とす。若干彼女がムスッとしたような気がする。
ライト達が何故現在、道端でフラフラしているのか、それをまだ話していなかったので、今話します。
無事試験を終えた二人は、早速依頼を受けたりダンジョンに潜ろうとしていた。
しかし、あの蛇王が一日身体を休めるか、気分転換をしてからの方が良いと言ったのと、偶々次の日が光の日だったのもあり休むことにしたのである。
空気を読んでか今日一日はヨル無しで散策が出来ることになった。
だから、ミスティアナのギルドに行くという提案は却下されたのだ。
「むぅ、マスターは意地悪です」
「どれだけ仕込まれてるんですか……それに意地悪じゃありません」
「ムゥーー」
「頬を膨らませても駄目です。もう、仕方ありませんね」
リスのように頬を膨らませて抗議をするミスティアナを頭を撫でて誤魔化す。
前よりも表情が豊かになったことを嬉しく思う反面、絶対に要らないものも仕込まれていそうなことがライトは心配でしょうがない。
「……それよりも何処に行きましょうか本当に」
「では、薬を扱っているお店に行きたいです、マスター」
「良いいですけど、何故そこへ?」
「ヨル様から教わった戦術用に、毒を準備したいのです」
「そうですか……僕も気になるので、今日はそこに行くとしましょう。確か東通りに薬物を専門店があるとフーリンさんが言っていましたから、そこを目指しましょう」
「了解です、マスター」
目的地の決定が済み、二人は歩き出す。
そこでふとライトは、隣を歩くミスティアナの服装に目を向け、そっと溜息を吐く。
「ミスティアナさん、やっぱり"その服"で生活するんですか?」
「はい、マスターと一緒ですので」
「はぁ、性能も良いし一番安全な、それに僕もそうなので文句が言えないのが辛いんですよね……あの服たち、どうしましょうか……」
彼女が今来ているのは、前は修行など戦闘のある日だけ着ていたヨル製の服、ライトと一緒のデザインだがベースが白色のやつ。
ライトが寝る時以外、それしか着ていないせいで「マスターと一緒が良い」と彼女もこれしか着なくなってしまった。
それ自体に問題は無いのだが、ライトが言うあの服たち、服屋で買った大量にある白系統の服が巳蚓魑で死蔵されてしまう状況になってしまったのだ。
(考えるのは後に回しましょうか、別に巳蚓魑に収容限界ないらしいので)
「で、その"髪"はどうしたんですか?ヨルが教えたんでしょうけど、似合ってますね」
「そうですか、マスターのお気に召したのでしたら、私は嬉しいです」
(返答として少しズレてるとも思いませんが、良いとしましょう)
現在のミスティアナはいつものように、髪を下ろしているのではなく、後ろで一つの三つ編みにしている。
その手の知識が当然彼女にないことを知っているライトは、口調とは裏腹に内心ヨルに礼を言っておく。
何故なら、かなり似合っていた上に、とてもライト好みだったからだ。
「さて、しっかり進むとしましょうか。このままだと日が暮れてしまいそうなので」
「はいマスター」
歩くこと数十分。
「そろそろ着く――ん?」
「マスター何か問題でも?」
「問題と言えば問題かもしれません……どうしたんでしょうかね?」
「何がですか?」
「あの、シスターっぽい服装の女性の方ですよ」
ライトが指をさした先に居たのは、何となく装飾が多く煌びやかな気がする修道服に身を包んだ、金髪の女性。
かなり目立つ恰好で、何処か迷って困っているように見えるのに『誰も目を向けていない』ことが特にライトは気になった。
「ミスティアナさん、あの人のとこ、行ってもいいですか?困ってそうなので」
「問題ありませんマスター」
「じゃ、行きましょうか」
ゆっくりと人を避けながら女性へと近づく。
女性は、相当焦っているのか、ライト達に気付いていない。
「――何か、お困りですか?」
「――っ!?あ、え、はいっ!困ってます!!」
「そうでしたか、僕が出来る範囲でしたら、協力しますよ」
見た目よりも元気そうな言葉が返って来てすこし驚いたが、ライトは考えていたことを口にする。
因みに今回は女性だから助けたが、男だった場合は多分助けていない。
「友人と集合する予定だったんです。けど、此処が何処か分かんなくなっちゃって……どうしようかと困っていたところなんです」
「成程、集合場所はどちらで?」
「西の門の前です」
「西の門ですか、ならあっちの方に真っ直ぐですよ」
「本当ですか?ありがとうございます!」
ライトが方向を告げた瞬間駆け出したとした女性は、直ぐに止まり二人の方を振り返る。
「忘れてました。私、テレサって言うんです!また会ったら、今度は大きなお返しをします!」
そう大きな声で言った後、また駆け出し、あっという間に人混みの中へ消えて行った。
軽くその方向に手を振った後、ライトはミスティアナへと向き直る。
「何というか、見た目よりも子供っぽい方でしたけど、良い人そうでしたね」
「はい、あの人からは慈愛の気配と僅かに神聖な気配がしました」
「神聖な、ですか……まああの格好ですしね」
珍しく他人に関して反応したミスティアナに驚きながらも、そんなこともあるかと流す。
そしてゆっくりと彼女の手を握り、引き寄せる。
「さて、問題も解決したことですし、行きましょうか、目的の店へ」
「はい、マスター」
再度二人は足を進め始めた。
「――あれ?そう言えば、あのお二人、何故私のことが見えていたんでしょうか?」
◆投稿
次の投稿は12/5(月)です。
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◆蛇足
語り部「蛇王が教える戦術とか、碌な気がしない」
蛇の王「何を言うか、効率良く相手を弱らせる戦術じゃぞ!」
語り部「ほら言った通りじゃねぇか、何だその外道しかやらなそうな戦術は」
蛇の王「ミスティアナの槍と相性が良いのじゃよ」
語り部「だがなぁ……」
蛇の王「というかこの作品タグに卑怯上等ついとるからもう何でもありじゃろ」
語り部「おい、そういうことを言うな」
蛇の王「ライトだって今後もっと極悪な戦法を取る――」
語り部「――未来の話をするんじゃない」




