2-18 後悔To不安To優しさTo
慣れた動作でいつもの扉を開ける。
ライトに続けて、ミスティアナが室内へと入った。
「失礼します」
「昨日ぶりだね、ライくん。元気かな?」
「お陰様で、朝は最悪でしたよ」
「ライくんが自分で無茶したんだから、私のせいにしないでよ」
此処は、ギルドマスターの執務室。
ライト達は、昨日の試験の結果を聞きに来たのだ。
待っていたのは、当然ソヨなのだが、その身体には傷一つなくニヤニヤとした良い笑みを浮かべていた。
その笑みに少し苛立ち覚えながら、ライトは口を開く。
「ハァ、今回の件、僕が気付いてないとでも思ってるんですか?僕は許してません」
「何を言ってるのか分からない、私は隠してなんかいないよ?」
純真無垢そうに見える、真っ直ぐな瞳をソヨは向ける。
ライトは、その瞬間許されるならばきっと顔面に拳を叩き込んでいただろう。
しかし、この精神力の怪物はそれを抑え付け、拳を握るに止まった。
「よくそんな顔出来ますねっ!!」
ガンッ!!とライトは執務机の上に飛び移り、典型的な不良のような感じにソヨに詰め寄る。
訂正、全然精神力の怪物では無かった、本能で動いてるわ。
ソヨは驚いていないが、後ろにいたミスティアナはほんの少しだが表情が動いていた。
「積極的だねぇライくん。これは好感度上がったかな?」
「意味の分からないことを言わないでください。僕が言ってるのは、昨日『敢えて負けたことに関して』ですよ」
「へぇ~、気付いてたんだ」
「当然です。こうハッキリ言うのは悔しいですが、僕ではソヨさんには勝てませんでした」
明らかに悔しさを滲ませた顔でライトは言う。
ソヨはそんな彼を嬉しそうに眺めている。
「最後の結界、自分で解除しましたよね?……僕としては助かりました、結果で言えば僕の勝ちと言えるんですから……でも、納得は出来ません」
「正確には少し強度を下げただけだけど、まあライくん的には変わらないか……」
契約的には、ソヨの手抜きで確かにライトは助かったのだ。
現時点では絶対に勝てない相手に勝てたのだから。しかしながら、過程も結果も納得とは程遠かった。
ライトは戦闘が好きだ、そして強い相手も好きである。
だからこそ、自分の意思で戦う相手とは真剣に戦った上で勝ちたかった。
どうしても、今回のことは認められなかった。
ライトの契約は負けられない……のかもしれない。少なくともライトはそう思っている。
まあ、本当のところは分からないが……。
そう思うから、勝てたという結果への安堵と納得できなという不満が渦巻いていて、気持ちが悪いと感じてしまう。
他にも、大きな不安と思うことがあった。
「戦闘の結果も納得できません、けどもう一つ納得出来ないことがあります。……何で、あの一撃、避けなかったんですか……僕は、もしソヨさんが死んでいたらと……振り返れば凄く不安になりました」
「…………」
「確かに、僕はソヨさんを殺す気で行きました。そうでなければ勝てないと思ったから。でもそれが出来たのは、心のどこかで殺せないと分かっていたから、ソヨさんは大丈夫分かっていたからだと思っています。実際に、こうして話せている訳ですから、その予想は当たっていました」
「…………」
「でもこの後悔も不安もソヨさんが生きているから出来るものです。もしの話ですが、全てが後の祭りでも可笑しくなかったんですよ……」
暗く沈んだ顔でライトは語る。
ライトの交友関係は、広い様でかなり狭い。交友人物の分野が広いだけで人数は少ない。
丁度両の手で足りない、より少し多いくらいだ。
そもそも他人不信でもあるからか、深い関係を築く相手となると更に少なくなる。
ライトの中での判定で言えば、ヨル、ミスティアナ、シア、ナイア、トア、そしてソヨあたりだけだ。
他も別に悪いという訳ではないが、深いまでは行かない、親しいという感じである。
そして深い関係を築いた相手には、完全に心を許しており、信頼している。
居なくなってほしくない、大切な存在、それがライトの中でのソヨなのだ。
そんな相手を自身の手で殺していたかもしれないという事実が、堪らなく嫌で恐ろしかった。
「……ライくん」
「僕は嫌です。ソヨさんが居なくなってしまうの。生きてれば会えますけど、死んでいたら会えません。だから、今後は止めて下さい……もう僕はソヨさんとは戦いません」
溢れたのは、心情であり涙。
ライトは歳に比べれば異常な程にしっかりした青年だ。よく頭も回り、ある程度強くもあり、度胸もあり、無茶もする。
だが、彼はまだ17であり、不安定なところがあっても全く可笑しくないのだ。
環境がそれを許さなかっただけで、精神はまだ完全に成長し切っていない。
故に、ヨルにズルズルと押されたり引かれたりすることがあったりもする。
ソヨの方へと降り、身体を近付ける。
欠片も背けず、彼女の宝石のような黄色の瞳を見つめ、言葉を紡ぐ。
「一緒に過ごしたのは短いですし、会ったのも数ヶ月前ですけど、僕はソヨさんのこと、大好きです。トアさんとのこともあります。だから、嫌ですよ」
「…………」
(……トアから聞いてたし、ヨルちゃんのこともある。『黒剛の王』だし、かなり強いけど……この子はまだ、精神的には少し幼いのかもしれない。ステータスで見たけど、17歳。人間で考えても成人じゃないし、白魔―黒魔だけど種族で考えれば、全く成熟していない歳)
見つめられたソヨは、目の前のライトを注意深く見返しながら考える。
彼が、何故こんな風になっているかは、完全には知り得ないが、予測は出来た。
(トアがチョロっとだけ書いてたけど……もっと私はこの子に真摯に接するべき、いや深くちゃんと接するべきだったのかもしれない。はぁ、初めてだよこんなこと考えるの……私もまだまだなのかも、下が出来て気を抜いてたってのを思い知らされたよ)
「……ソヨさん?」
(出来上がったものに納得して、ただ眺めるだけじゃ駄目だったみたい……この計画を初めて聞いた時は、こんな風になるなんて思ってもみなかったよ。……トアがこの子を普段以上に気にするのも、この子のこういう処に惹かれてかな?)
「あれ?ソヨさん?」
集中しているソヨにライトの言葉は今届いていない。
思考に一区切りをつけ、ソヨは柔らかい笑みを浮かべてしっかりと、不思議そう自身を見る彼の黒い瞳を見返した。
(全く、ライくんは本当に規格外だよ。私にこんなこと考えさせるなんて)
「ライくん」
「はい」
「ライくんはさ、確かに強いけど私から正直に言えばまだまだ。でも、それ以上にいいとこがいっぱい。こうして、私を心配してることだって、君の良いところ。そんな良いとこいっぱいの君、私も大好きだよ。私はライくんの事情を完全に理解し得る訳じゃないけど、私ももっと君に向き合おうと思う」
「――……」
ぐっとライトの身体が引き寄せられ、ソヨと身体が密着する。
抱きしめられた。普段なら、恐らく驚いて恥ずかしがるのだが、ライトは今、不思議と安心していた。
今、彼女が纏う雰囲気のせいだろうか?
「君がどんな運命の下に生まれて君がどんなものを求められてるのかなんて、当然私には分からないけど、今はどんな柵だって忘れて良いよ、私が許してあげる」
「そよ、さん……」
「偶には、吐き出したって良いんだよ、君はまだまだ成長の途中で、子供なんだから」
「――ぁ……」
静か、されど思いの詰まった涙が溢れる。
未だに言われたことの無かった言葉が、ライトの心の壁を崩した。
そんないつもと違う主を、複雑な顔でミスティアナは見ていた。
◆投稿
次の投稿は12/1(木)です。
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◆蛇足
語り部「ライトの過去編っていつ来ると思う?」
蛇の王「当分来ない」
語り部「淀みの一切ない言い切り、まあ僕も同意見なんだがな」
蛇の王「それか作者のテンションが絶好調の時じゃな。確実に暗い展開が続くからのう、常時には書けぬ」
語り部「だから急にメタくなるなよ」




