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2-17 身体Ga怠い



 借りた館のある一室にて。



「ヨルー、動きたくないです。でも、行かなきゃ駄目なんですよ、助けてくださーい」



 ベットの上で動けないでいる少年に確実に見える青年がいた。

 懇願するように声を出す彼は、当然ライトである。



「大丈夫ですか?マスター」

「はぁ、あんな無茶するからじゃろうに」



 彼の言葉に返すのは二人。

 真剣に心配するミスティアナと心底呆れているヨルだ。

 本を読んでいたミスティアナは、それを途中で止めてベットに居るライトに近付いて手を握る。

 ヨルは、ライトの寝ているベットに腰掛けた。



「身体的損傷…無し。マスター、何故動きたくないのですか?負傷はしていない筈ですが……」

「確かにライトに怪我はない、我が治したのだから当然じゃがな。じゃが、ライトは昨日、魔力(マナ)と王気(レクス)を限界以上に酷使したせいで身体が怠いんじゃよ」

「魔力と王気を酷使すると身体が怠くなるのですか?」



 コテンと首を傾げて、ミスティアナがヨルに聞く。

 そうしながらも、ライトを心配している様で掴んだ手を離さない。



「魔力は、生命力のようなもの、使い過ぎれば身体が修復不可能になり死ぬ。王気は、精神力のようなもの、こちらも使い過ぎれば魂が消滅して死ぬ。ライトは酷使で留まったが、後一回ほど大技を使っていたら死んでいたな」

「そんな危ない状態に……」

「……――ミスティアナさん、痛いです。滅茶苦茶痛いです、折れちゃいます僕の手が」



 主の危険を知ってか、不甲斐なくなってしまったミスティアナの手に力が籠る。

 握り潰されそうな程の力に、ライトは即座に音を上げた。

 バッと音がしそうな程の挙動で、手が離れほぼ無表情なので正確には判断できないが、泣きそうな顔をしている気が……する。



「申し訳ありません、マスター……」

「全然問題無しですよ、ミスティアナさん。心配してくれたんですよね?」

「はい、マスターが危ない状態なのに、私は……申し訳ありません」

「仕方ないことょ……にゃんえふかホル」



 不意に頬が引っ張られ、言葉が変になると同時に鈍い痛みが走る。

 ライトは、首だけを動かしヨルへと抗議の目を向けた。



「ホルではない、ヨルじゃ。我を除け者にするでない」

「へふにのへものにはしてまへん」

「五月蠅い、我に口答えするな」

「いはい!いはいへふホルッ!!」

「だからホルではないっ!!」

「い"ぁ"――!!」



 頬を引く力が強まり、ライトが叫ぶ。

 抵抗をしたいのだが、身体が重く腕すら上げることが出来ず。

 いつの間にかベットに突っ伏して項垂れているミスティアナは、主を助けてくれはしない。


 数分、ライトはそのまま頬を引っ張られ続けることになった。



「仕方ない、これくらいにしてやるとするかのう」

「うぅ、頬が痛いです。この馬鹿力が……」

「何か言ったかのぉ?」

「いえ、何でもありません」

「無駄口は叩かぬ方が良いぞ、治療を止めてしまうかもしれんからな」

「治療?何のですか?」



 赤く頬を腫らしたライトが、笑みを浮かべているヨルに問う。

 痛い目にあった後速攻で、悪態を吐ける精神力と手の平を返す速度は称賛に値する。



「その身体の怠さ、魔力と王気の過剰使用の反動の治療じゃよ」

「治せるんですか?流石最強ですね」

「そう、我は最強じゃ!分かっておるのうライト。よし、治療してやろう」

(いや、チョロ過ぎでは?……まあ、口ではやらないと言いながら元々治療する気だったんでしょうけど……)



 言葉を一転させるヨルを見て、その心の内を読む。

 ライトは、これまでの経験上で分かっていた。ヨルが絶対にやることに対しては、第一に反行動的な言動を取るということを。

 だからこそ、きっかけさえ口にすれば直ぐにやってくれる。意外と優しいところもあるのだ。


 ヨルが何処からか取り出したガラスのような刃を持つ短剣を右手に持つ。



「ソウルイーターで何をするんですか?」

「これは唯の刃物として出しただけじゃ、物自体に深い意味は無い。唯のナイフじゃ」

「神器を唯のナイフって……」



 余りにも格の違い過ぎる価値観に呆れる。


 ライトの視線を無視して、ヨルは魂喰剣の刃を自身の左手の人差し指に沿わせて、軽く切った。

 白い指に小さな赤線が生じ、そこから微量の紅い血が流れ出る。

 その指をヨルは、ライトの口元へと運ぶ。



「"舐めろ"ライト」

「何を、ですか?」

「我の指じゃ、正確には我の指から出ている『血』じゃがな」



 向けるられた真剣な瞳に、ライトは言っていることが冗談ではないことを悟る。

 なら仕方ない、と行動はしようと思うのだが、如何せん首が動かない。

 然も微妙に下を伸ばしても届かない。



「グダグダするでない」

「――んぐっ!?」



 動けないライトの内情を読んでか知らないが、強引に口内に指がねじ込まれた。

 初めて感じた血の味は――



(――何ですかコレッ!?"甘ッ"!?)

 


 砂糖のような直接的な甘さではなく、柔らかいキツくない『甘み』であった。

 明らかに異常なその味に驚きながらも、動けないが故に口から離せないし、ライト自身離したくもない。

 血を飲むたびに、何かが満たされる感覚が襲い、甘い快感が脳を痺れさせる。


 二分ほど状況が継続し、治療が終わったのかヨルの指が引き抜かれる。



「あぁ、もっとくらひゃい」

「少し量が多かったか、目がとろんとしてしまっておる。我は、このままやっても良いのじゃが……流石に怒られそうじゃな……戻すか」



 少々危ない状態になってしまったライトは、元に戻されることになったようだ。



「ライト、我の指を見よ」

「はいぃ……」



 焦点の定まっていない目が、ヨルの人差し指に向けられる。

 その瞬間、ヨルはパチンっと指を鳴らす。妙にその音は室内に響いた。



「――ハッ!?僕は何を……」

「治療終了じゃ」



 瞳に光が灯り、驚いているがライトは正常な状態に戻った。

 記憶が曖昧なのか、何が起きたていたのか首を捻る。だが、答えは出ることが無い。

 混乱するライトをヨルは笑顔で見ていた。



「ヨル、僕に何かしました?」

「何にもしておらんよ」

「はい、嘘ですね。口の端が上がってますし、そもそも僕動けないでいたんですから、動けるようになってる時点で何かをされたのは確定してるんです」

「では、一体我は何をしたのだろうな?」

「はぁ、別に良いですよ。特に異常があるわけでも無いですから、今回は目を瞑ってあげます」

「くくっ、それはありがたいのう」



 終始笑顔のヨルに疑いの目を向けながらも、情報が手に入ることを理解しているが故にライトは、それ以上は何もしない。

 怠さがサッパリと消え去った身体を大きく動かし、自由を体感する。

 思考を切り替え、昨日に続く今日の予定を思い浮かべ、外出の準備をしようと立ち上がろうとした。



「さて、準備をしましょう。ミスティアナさんも、ギルドに行くので準備を……ミスティアナさん?」

「ミスティ、どうしたのじゃ?」

「…………」



 ベッドに突っ伏したままのミスティアナに声を掛けるが、返答はおろか反応すら返って来ない。

 不審に思い、彼女へと顔を近付けると、



「スゥ……スゥ……」

「寝てますね」

「寝てるのう」



 規則正しい寝息が聞こえて来た。

 ミスティアナ、主が危ない(意味深)状態になっている時に爆睡をかましていたのである。

 というか、何時から寝ていたのか皆目見当もつかない。

 

 ライトとヨルは、どうしようかと顔を見合わせる。



「ライトよ、ギルドに行くのは朝でなければいけぬのか?」

「必ず今日来て欲しいとは言われましたけど、別に時間指定はされてません」

「ならば、少し休んでからでも良いのではないかのう?」

「そうですね、起こすのも悪いですし」



 方向は決まったので、二人はゆっくりすることにした。



「流石にこのまま寝かせるのはアレですし、ベッドに移動させてあげましょう」

「このベッドで良いと思うぞ。ミスティは確実に喜ぶ筈じゃ、色々な意味で」

「非常に色々なという部分が気になりますが、長く移動させると起こしてしまいそうなので、そうすることにします」



 そっとベッドから立ち上がり、ヨルと共にミスティアナを慎重に持ち上げてベッドへと寝かせる。



「ミスティアナさん、軽すぎません?心配になるんですけど」

「女に体重の話は禁句じゃ。止めて置け」

「了解です。もうしません」



 割としっかり注意されたのでライトは、素直に止めた。

 

 ベッドに身体を預け、規則正しい寝息を立てながら寝る彼女は、何処からどう見ても普通の少女。

 しかしながら、深い過去と多くの背負うものがあるのであろうことはライトも知っていた。

 一目惚れで買った彼女だが、この結果が彼女にとって本当に良かったのか、彼は絶対を付けて言い切れない。

 けれども、彼女自身に貴方で良かった。そう言われるように頑張って行こう、と密かに心に決めて笑みを浮かべる。



「ライト、何ミスティを見てニヤニヤしておるのじゃ、気持ち悪いぞ」

「誰が、気持ち悪いですか。今いいとこだったのに」

「何がいいとこじゃ、この変態めが、どうせいやらし気な妄想でもしておったのじゃろう?」

「ヨルに言われたくないんですけど、ソレ」



 そんなやり取りの最中、寝ているミスティアナの口元が、僅かに上がっている気がした。



◆投稿

次の投稿は11/29(火)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

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その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

語り部「蛇王の血は甘いのか?毒とか無いのか?」

蛇の王「我は毒蛇では無いからのう、毒は無いぞ」

語り部「いっつも毒吐いてるのに毒蛇じゃないんだな。意外だわ」

蛇の王「誰が毒を吐いとるってぇ?死にたいようじゃなぁ?」

語り部「おっと、喰われそうだぜ」

蛇の王「そうじゃな。我は、何でも喰らうからのう。今宵は馬鹿でも食うとするか」

語り部「……ふぅ……」

蛇の王「何じゃ、怖気づいたか?」

語り部「何を言ってるんだ、んな訳ねぇだろ。やることは決まってんだよ」

蛇の王「ほう?それは何じゃ?」

語り部「当然――これだ」


そこには、淀みの無い動作で土下座をする語り部の姿が……。



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