2-16 黒剛No王VS不動No王 下
「――まーだ足りないよ」
「チィッ!!」
王気を纏う刃は、人差し指と中指の間に挟まれるようにして止められた。
挟む力はあり得ない程に強く、イグニティを引き抜くことが出来ない。
加速する思考で対応を編み出し、加速した身体を駆動させる。
《黒剛彩王-虚の理-偽詐術策-聡明》
―――超級毒魔法:激毒の泥沼
周囲の床が濁った紫へと変色し、プスプスと音を立て始める。
イグニティから手を離し、後方へと跳ぶ。
(方向を変えたけど、効きますかね)
「ごめんねライくん。私、毒効かないんだよね」
「だよなぁ……ま、時間稼ぎが目的だし」
―――中級時空魔法:テレポート
「問題は無い」
杖の下へと転移し、すぐさま拾い上げて構えた。
その瞬間には、ソヨは眼前に迫っており――
《不動之王-空烈神腕-体術:神級-房中術:神級-神速-不倶戴天-魔浸透拳-密接-絶波》
―――上級体術・変異:浸壊波
「間にっ――グガッ」
胸に当てられた掌から、じわりと何かが身体へと入り込む感覚の後に、内側から爆発したかのような衝撃と痛みが走る。
口から血が溢れ、地面へと這い蹲り、意識を何とか保つ。
恐らく、すぐ傍で立っているソヨから声が降って来た。
「正中線を打ち抜いたから、多分もう立てないよ。これで終了、頑張ったと思うよ、ライくん」
「終わ、り?」
「そう、試験は終――ッ!?」
ライトの身体から、濃密な黒が溢れ出す。
終了の二文字が、身体を止まらせること、諦めさせることを許さない。
壊れた蛇口のように、尚も黒は溢れ続ける。
異変を感じたソヨは、即座に跳び上がり距離を取った。
「こりゃマズったかも、弁がぶっ壊れてるね」
「ハァァ……」
訓練場の床の半分以上が、黒に染まる頃、ライトはゆっくりと立ち上がる。
瞳に映るのは、理性とほんの少しの狂気の色。
「よく立ち上がれるねライくん。本当に規格外、だよ…あれ、意識あるのかな」
「ありますよ、ソヨさん。頭がガンガンして、今にもぶっ倒れそうですがね」
「やっぱその口調が、ライくんには合ってる」
「そりゃあ、ありがとうございます。けど、まだ試験は終わりじゃありません。そんなもの、僕が許さない」
「仕方ないなぁ、特別に続行してあげる。その代わり、私の期待を裏切らないでね?」
深い笑みがライトの顔に刻まれる。それに合わせて黒が蠢動すした。
テンション爆上げだ。
対照的に、ソヨは少し引き攣り気味の笑みを浮かべていた。
(上手く、防がないと……今のライくんはヤバい。『魂の力そのもの』である王気をあんな垂れ流せる化け物、私見たこと無いし。潜在能力は恐らく、いや確実に『覇王』クラスだ。気を抜いたら、私でも"喰われる"可能性大だよ)
明らかな変化を起こしているライトを、ソヨは十二分に警戒している。
それは、何が故であろうか?
良く分からないが、理由は『黒が危険』だからに他ならないだろう。
「トバして行くぜっ!!」
「速いっ」
《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-回避錬術-怪力》
―――蛇剣舞:炎蛇の鱗牢
「――ちょそれっ!?」
唸る炎を纏う"杖"を連続で振う。
されど、イグニティで行う時と比べて速度も取り回しも、全てが段違いだった。
ライトの蛇剣舞を知っているからこそ、ソヨ――そしてヨルも驚いてしまった。
驚嘆から反応が遅れ、ソヨはそれを真面に受けてしまう。
「ぐっ、これ王気も纏って――離、れろ!!」
《不動之王-空烈神腕-体術:神級-神速-不倶戴天-魔浸透拳-隔絶-王波》
―――超級体術・変異:破天翔拳・空絶顎
眩い拳が振るわれ、即座に杖で受ける。
だが、前回と同じように衝撃は殺し切れず、押し飛ばされた。
それさえ予測していたかのようにライトは、叩きつけるように床に両足を着けて無理やり体を止め、杖を大きく振り上げる。
時同じく、追撃の黄色の魔力塊が迫って来た。
「ぶった切れろ!!!」
―――蛇剣舞:嵐蛇激甚斬
黒混じりの薄緑色の斬撃が、声と共に振り下ろされた杖の軌跡から生じ、魔力塊へと突き進む。
超高速の域に到達したその斬撃は、容易く障害を切り伏せ、ソヨへと迫る。
しかし、斬撃は突如隆起した床にぶつかり、黒き刃の嵐へと変わってしまう。
「チッ、地魔法か。にしても、相当威力上がってるな、気を付けないと自滅も――」
「――これ以上の攻撃は、もう許してあげない」
《不動之王-空烈神腕-地魔法:神級-不倶戴天-魔浸透拳-隔絶-獄道》
―――神級地魔法・変異:幽冥地獄の封鎖牢
ライトの周囲の地面から赤黒い牙のような結晶が現れて、全身を包み込む。
急速に身体の力が抜けていく。
脳が危険だと信号を発する。視界がチカチカと眩み、意識が朦朧としてきた。
纏う王気が結晶に吸われるように、霧散している。
苦しい中、思考を纏める為に、口を開く。
「不味い、な。どう、する?」
何度もどうするか思考するが、解決策は出ない。
脳裏から『諦め』と『敗北』という言葉が、泥のようにこびりつき、離れない。
許せないそれをぶち壊せと心が、内に居るもう一人の俺が猛る。
「まだ、まだまだ負けられねぇからなぁ!!ぶっ壊す、それ以外にない!!!」
意地と意志が魂を震わせ、黒を深く、暗くする。
口から滲む血を噛み締めた刹那、何処からともなくイメージが流れて来た。
ヨルに与えられたものとは全く異なるそれは、余りにも荒々しく粗暴と言わざるを得ない。
けれども嫌いにはなれない、寧ろ好きと言える。
自分と何処か似ている、白い誰かさんが使っていた気がする、その技を強くイメージし現実にしようと強く願う。
牢獄内に残り少ない王気を外套までも全て、杖へと集束させる。
蛇の噛む六角水晶が黒々と輝き出す。
王の笑みは状況に似合わず、深々と。
《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-回避錬術-怪力》
―――八彩王法:我は確たる終幕を語る
万力を籠めて、杖を振う。
現れたのは、斬撃とは最早呼べぬ、黒き波動。
水晶に一瞬にして罅が入り砕け散り、外へ波動が溢れ侵蝕していく。
技の収まりと共に、牢から出て辺りを見回す。
「マ、ジで?何で出て来れるのライくん……」
「そんなに驚くことか?簡単に壊れたが?」
「今の魔法、全ての能力を十分の一にして、三十秒以内に出られなかったら死ぬのに」
(そんな凶悪な魔法だったんですか。だとしたら、後数秒で死んでた……というかマジでソヨさん殺しに来てる……)
何故か、巨大な台のような岩の上に立っていたソヨが、驚愕の表情でライトを見る。
その口から語られた魔法の簡易的な内容が余りにも殺意に溢れており、ライトは肝を冷やした。
舞台は既に完全に黒く染まっており、ライトの王気に溢れていた。
周囲の王気へと意識を向けると、それらが蠢き身体へと纏わり付いて来る。
黒き王気はまた外套と化し、全身に力を漲らせていく。
「勝手に元に戻ったな。ありがたい」
「成程、床の奴も操作可能と……よし、準備完了」
「準備だと?」
不穏な言葉と共に、ソヨの魔力の高まりを感じ取る。
そこでやっと初めて、ライトは気付いた。訓練場が"広くなっている"ことに。
舞台の端は遥か先にあり、とても室内とは思えない。
意識が薄くなっていたのか、幻術でも掛けられていたのか、周囲を見回した筈なのに今の今まで気づかなかった。
「神獣に掛かれば、未来予知も空間操作もお手の物だよ。本当になるとは思って無かったから驚きはしたけど、ライくんが魔法を破るのは分かってた。だから、その時用に準備くらいはしてたってこと」
「で、それが今終わったと……」
背筋に嫌な汗が流れる。
放たれる圧は、普段からは信じられない程に重く、疲労も相まってか微かに膝が笑い出す。
「そゆことね~。んじゃ、これ以上は結構私も危なくなるからさ、面倒なんだよね。ということで手っ取り早く―――死んで?」
《不動之王-空烈神腕-地魔法:神級-神速-不倶戴天-魔浸透拳-隔絶-密接-絶波-獄道》
―――神級地魔法・変異:天地崩壊の翡翠星
「……何だ、アレ」
急に訓練場全体が暗くなる。当然ライトは、上を見た。
見えたのは異常な程に高くなった天井から落ちてくる、翡翠色に輝く彗星。
「アレは……止められないな」
一目で分かり、感じ取れる。あの彗星が馬鹿げた魔力の塊であることが。
そもそもの容量、絶対値が桁違いであり、現時点では覆せない絶対的な差が、そこにはあった。
例として、ライトが100だとすると、あの彗星は軽く100万以上はある。
正直に言わなくても、無理ゲー。
ライトは、勝てるのであろうか……。
「自分は結界を張って高みの見物か、ま俺なら同じことするし当然か。……どうすればいい」
ソヨは岩の上に何気なく座って、ライトを笑みを浮かべながら、優しい目で見ている。
それが、途轍もなく腹立たしい。
立場の差を見せつけられている様で、昔の嫌な記憶が蘇る。
「絶対に勝つ……勝利以外は見る必要が無いんだよ、俺は。来い、イグニティ!!」
床一面に広がっていた王気が脈動し、いつの間にか床に刺さっていたイグニティをライトの下へと跳ね飛ばす。
左手でイグニティをしっかりと握りしめる。
同時に、黒い王気が全てライトの下へと集まり、巨大な球体と化す。
「上を狙うのは、馬鹿のすること――狙うは術者、一点集中!」
口にしながらも、それが難しいことはライトが一番理解していた。
何故ならソヨの周囲に張られている結界は、頭上の彗星と同じくらいの魔力が籠められており、更にはまた別の力も込められていることが、研ぎ澄まされた感覚で分かっていたからである。
だが、それでも負けられないのは変わらない。
「正攻法じゃ、勝てない。なら、俺も常道の外側へ、一いや百でも踏み出さないといけない」
刻々と迫る彗星と時間の中、全力で思考と頭のネジを回す。
ギリギリとネジ穴が潰れそうになるまで回した瞬間、閃きが走る。
(多分、今ある王気を全てを杖で増幅しても結界を破壊するのが関の山。それはあの結界をぶち抜ける破壊力を作り出すのに王気が使われるから……てことは、先に破壊力を準備しておけば行ける、かもしれない)
それは、戦闘の経験とイカれた思考が編み出した結論。
ライトは、イグニティを杖の先端に合わせる。
《黒剛彩王-虚の理-悪逆非道-偽詐術策-聡明》
―――上級重力魔法:結合固定重力螺旋
不可視の力が二つの武器をライトが合わせた状態に固定する。
杖を振っても、イグニティは先端にそのままで、離れることは無い。
見た目は穂先がデカ過ぎる槍というかグレイブという感じだ。
次に、黒球が杖に吸収される。
水晶が漆黒と化し、溢れ出た常闇が銀河の刃を深く侵す。
―――纏い穿つ滅蛇
刃に紅い筋が走り、銀河に変革が起こり、紫色に染まる。
残り少ない魔力を全身に巡らせ、杖を頭上へと持ち上げる。
彗星は、もうすぐそこまで来ていた。
《黒剛彩王-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-回避錬術-怪力-会心》
―――超級杖術:貫撃飛翔
腕力の全てを乗せて、イグニティと杖をソヨへとぶん投げる。
腕から何かが切れる様な音が鳴り、激痛が走りだらりと降ろす。
杖は確かにソヨへと向かっているが、重量のあまり、速度を落とし始める。
「ここだっ!!!」
《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-悪逆非道-偽詐術策-聡明-会心》
―――超級重力魔法:圧縮反重力爆発
杖とイグニティの間に極小だが、空間を捻じ曲げる爆発が巻き起こり、二つが分裂する。
イグニティのみが音速を超え、ソヨへと向かう。
それと共に、ライトは鈍痛に耐えながら、駆け進み落ちた杖を回収する。
「多分一撃じゃ殺し切れない、もう一撃必要だ」
空間にガラスの割れたような音が響く。
結界が破られたようだ。しかし、ライトの場所からはソヨが見えない。
何故か分からないが、イグニティが当たっている自信はあった。だからこそ、希望を捨てずに駆け直す。
<よせライト!!これ以上は、身体が壊れ――>
「――黙ってろ!!目の前の勝ちは逃さない。身体が壊れてももぎ取ってみせる!!」
戦闘から初めて声を掛けて来たヨルの静止を無視し、身体を動かす。
ソヨが居るであろう岩の下に着く。
上の状況など考えもせず、脚に全力を籠め、王気を内から捻り出す。
口から塊のような血が溢れることも厭わず、岩を駆け上がる。
「――ハッ!!――終いだっ!!」
大きく跳びあがって見えたのは、胸に大きな痕を残してイグニティを引き抜いた後のソヨ。
声を出したせいか、顔は此方を向いていた。
瞳に映るのは、大きな驚きと僅かな恐れ。
《黒剛彩王-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-回避錬術-怪力-会心》
―――天級杖術・変異:天喰ラウ禍ツ蛇ノ絶牙
黒き王気を纏い蛇と化す。
顎を大きく開き、黒蛇はソヨを喰らう。
それと、彗星が落ち、辺り全てが爆ぜたのは同時だった。
◆読者の皆様へ
少し投稿時間が最近ズレていますが、来週から早朝に戻ります。
◆投稿
次の投稿は11/27(日)です。
◆作者の願い
『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。
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◆技解説
蛇王蛇法技録
纏い穿つ滅蛇 指定した武器・身体に触れた対象の耐久値を低下させる能力を付与する 貫通力上昇効果あり
魔法技録
上級重力魔法:結合固定重力螺旋 指定した二つの対象を包み込むような重力で結合させる 魔力が続く限りまでその状態を保持する 任意分離可能
超級重力魔法:圧縮反重力爆発 二つの物体の間に分離を促す重力の爆発を起こす 通常籠めた魔力の分爆発が大きくなるが、どれだけ魔力を込めても一定の規模の爆発が起こる代わりに力が圧縮され爆発の威力だけが上がる
神級地魔法・変異:幽冥地獄の封鎖牢 包んだ対象の全ての能力を十分の一にし、○秒かけて対象の生命力を吸収する 吸収した生命力は硬度へと変換 スキルにより能力低下効果は減衰あり ○の部分は使用者の指定可能 ○の値が小さい程消費魔力上昇
神級地魔法・変異:天地崩壊の翡翠星 『秘匿』
スキル技録
上級体術・変異:浸壊波 拳を当てた対象の内部に内部に魔力と闘気を送り込み内側から破壊する
超級杖術:貫撃飛翔 魔力を纏わせ目標へと真っすぐ杖を投げる 貫通効果あり
八彩王法技録
我は確たる終幕を語る 王気を武器へと籠め、振るった軌跡から急速に拡大する斬撃を放つ 魔法破壊・耐性貫通効果あり
◆蛇足
語り部「ふむ?ソヨが負けるようには思えなかったんだがな」
蛇の王「だから物語的に負けないと言ったではないか」
語り部「でも不自然なんだよなぁ……次話で解説するの?」
蛇の王「まあ、軽く触れるのではないか?本格的なのは次々話な気がするぞ」
語り部「何故そんな正確に分かる?」
蛇の王「我、未来視出来るからのう」
語り部(何で今回はメタい方向にもってかねぇんだよ)




