2-14 特別Na試験
冷めた空気で満たされた空間で二人が相対する。
全身黄緑系で統一された服のソヨと全身白色で統一されたミスティアナが、拳と槍を交わらせている。
爆発のような金属音と空間を揺らす振動が静寂を埋め尽くしている。
それを一人と一匹、ライトとヨルだけが観覧席から見ていた。
「ヨル的に、ミスティアナさんはどれくらい善戦すると思います?」
誰も居ない観客席に座り、小声でそう呟く。別に声を出す必要はないが、周囲に他人が居ないのならその方が楽なので。
<む?ミスティが勝つとは思っておらんのか?お主ならば、愚直に仲間の勝利を信じているかと思ったのじゃが>
「戦うのがヨルなら、勝利を確信していたでしょうけどね。僕は現実主義ですから。ミスティアナさんが弱いというより、ソヨさんが強すぎるので、恐らくミスティアナさんは勝てないと思ってるんですよ」
<そうか…まあ我も同じ考えじゃな。あの神獣娘は、隔絶した強さじゃからなぁ……我の時代でも通用しそうじゃしのう>
「全く、どれだけ強いんですかソヨさん。化け物過ぎますよ……」
最強且つ古代生物の覇王、ヨルに高評価されるソヨにライトは呆れ果てた。
自身の記憶している限りでは、現代の者でソヨ程明確に強いと言われてる者が居なかったのも、まだ見ぬ強さを際立たせる。
<ミスティは才能はあるがまだまだ経験が足らん、神獣娘の実力の二割を引き出せたら良いというとこかのう>
「そうですか……あれ?これもしかして、この後戦う僕ってソヨさんに勝たなくちゃいけませんか?」
<そうじゃな。ライト、気付いておらんかったのか?>
「……え、あ、はい……」
<我も始めて聞いた時に、無茶なことをするなと思ったぞ?>
「……不味い、不味い不味い不味いっ!?」
<ミスティに現を抜かし過ぎたな>
よりにもよって、誇示の契約について綺麗に頭から抜けていたライト。
自身の状況のヤバさに今気づく。
負けられない戦いの相手が、"あの"ソヨ・ラビットニアだということに。
ライトはフーリン、ヒュープやソヨ本人からも彼女の強さを聞いていた。
曰く、その拳は山すら容易く砕き、その脚は海すら叩き割る。
曰く、歴代最強のギルドマスターであり、その強さに並び立つ者はない。
曰く、あの『八彩鉱王』も一目置き、敬意を払う。
曰く、世界で十人もいない、独力で王の座についた怪物である。
故に、彼女はこう呼ばれているらしい―――【不動の地神】
「はぁ、何とか引き分け……中止まで持ち込みましょうか。どうしましょう……」
<考えるならば、戦いを見ながらにしておくのじゃ。多少は道筋が見えるかもしれんぞ>
「そうですね……」
少し気分を墜としなら、思考を巡らしてライトはぶつかり合う二人へと目を向けた。
◆◇◆
繰り出される拳に向けて、最速で突きを放つ。
魔力は纏っているにしても、生身とは思えない程の反動に何度目か分からない驚きが走る。
(ヨル様が強いと言っていましたけど、ここまでとは……全ての攻撃をいなされてます)
「筋は良いんだけどね。まだ私には全然届かないよ?」
「そうみたいですね……では、届くまで――」
《未来予知-槍術:◆級-電光石火-絶技-天眼-神風》
―――◆級槍術:千撃の流光風閃
「――攻めさせて頂きます」
「不味ッ――」
剥奪槍が煌めき、穂先が見えなくなるほどの速度で突きが放たれる。
その突きは千に及び、常人には最早避けることすら不可能だ。
ソヨは、そんな攻撃顔を苦渋に染めながらも、両の手で全てを捌く。
遂には突きが尽き、ミスティアナが大きく地面を蹴って距離を取る。
「捌きますか」
「危ないねぇ、ミスティアナちゃん一気にギア上げたでしょ。一回くらい受けちゃいそうだったよ」
「受けてくれたら助かったんですが……」
会話しながら、再度剥奪槍を握り直し、構える。
余りにも自身には少なすぎる戦闘の経験から、次の手を考え出す。
思い出しているのは、主の婚約者であり師であるヨルの言葉。
(道は、必ず常識の外側にしかない。常道で超えられる壁は、無いに等しく、逸れなければ超えることは出来ない。……私の常道の外側へ、一歩踏み出す。マスターの見ている前で、不甲斐ない結果を晒すことは許されないっ!)
《最適解答-未来予知-変幻適応-絶技-神風》
ミスティアナの心に呼応し、剥奪槍の穂先が鈍く光る。
刹那、空気が重くなる。
ソヨの顔に、驚きが浮かぶ。
「その槍、まさか神器?ライくんもとんでもないことするね。信頼に当たると言っても、自分の奴隷に神器を渡すなんて……ま、それがライくんか。頭のネジが軽く外れてるくらいだし」
「ソヨ様、一撃くらいは受けて頂きます――」
「簡単に――くっ!?」
駆け出したミスティアナは、槍ではなく蹴りをソヨに放つ。
攻撃=武器で行うものという枠をそのままに、全身が武器であると常識の塗り替えを行う。
ソヨは、不意を突かれたもの異常な速度では無かった為に、腕で受け止めた。
瞬間、ミスティアナが剥奪槍を振り下ろす。
「無茶なっ!?」
「これも防ぎますか」
「普通の武器なら今ので折れちゃう使い方だよ。これは不味ったかもミスティアナちゃんのネジぶっ壊しちゃったかも……」
「《速度剥奪》」
「これっ」
空気が鉛のように重くなったようにソヨは感じた。
動きが思考に付いて行かず、全てが遅れる。まるで、辺りから"速度が失われた"ように思える。
ミスティアナは姿勢を低くし、剥奪槍を両の手で握りしめて構える。
白亜の瞳に、金光が宿る。
「『我、万象を貫く神々の矛』」
《奪力の転換式》+《未来予知-槍術:神級-電光石火-絶技-天眼-神風-真愛》
―――神級槍術:獅子王の雷槍
その一撃は光すら置き去りにした。剥奪槍が、ソヨを貫いた――筈だった。
理外の領域の王には、光を超えた程度はまだまだ遅すぎた。
速度が奪われていようとも、その隔絶した差は埋められない。
《不動之王-空烈神腕-体術:神級-神速-不倶戴天-魔浸透拳-隔絶-絶波》
―――神級体術・変異:不壊の御手・不動の正拳
黄緑色のオーラを纏う双拳が剝奪槍を跳ね飛ばし、ミスティアナの腹を抉る。
弾丸のようにミスティアナの身体が吹き飛ばされ、床を数回跳ねた後に訓練場の舞台の壁へ激突した。
「――ヤバいっ!?やっちゃった!?」
我に返ったソヨは、即座に思考が焦燥と後悔で埋め尽くされる。
ミスティアナの下へと、全力で駆け寄る。だが、そこには先客が居た。
「ソヨさん……」
「――ライくんっ、ゴメンッ!」
ミスティアナを崩れた訓練場の壁から抱え出したライトが、ソヨに半目を向ける。
そんなソヨ、即座に床に頭を打ち付けて土下座である。
「そ、それで、ミスティアナちゃんは大丈夫っ?」
「ミスティアナさんは……」
「ミスティアナちゃんは?」
「何故か、"無傷"なんですよね」
「は?どっどういうこと?」
「自分の目で見て下さい」
ライトの言っていることが信じられないソヨは、戦闘と変わらない速度で起き上がり、ミスティアナの容態を確認しに近付く。
確かに、見た限りでは傷は一つもなかった。念には念を入れて。抱えられている彼女に触れ、その身体をしっかりと確認する。
その確認の結果、ミスティアナには本当に怪我の一つも無かった。
「どういうこと?仮にも完全な本気じゃ無かったにしても、私の一撃を諸に受けて無傷なんて可笑しい……。ライくんは何もしてないんだよね?」
「はい、何もしてません。ソヨさんがぶん殴ったのに反応して転移してきた時には、既にその状態でした」
「うっ、でも本当にどうしてなんだろ……今は気を失ってるみたいだし、見た目に出て無いだけで被害はあるかもしれない。調べるのは、ミスティアナちゃんが起きてからにしようか」
「そうですね、では少し休憩するとしましょうか」
ミスティアナを抱えたまま、ライトはソヨと共に観客席へと歩き出した。
◆投稿
次の投稿は11/23(水)です。
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◆技解説
スキル技録
超級槍術:千撃の流光風閃 技の最中のみ加速する突きを千回前後放つ 回数調整可能
神級槍術:獅子王の雷槍 使用者の現在の身体能力の限界値まで自信を加速させ前方へと突きを放つ 麻痺・貫通効果あり
神級体術・変異:不壊の御手・不動の正拳 闘気を纏わせる防御の術の改変版、防御を全て捨てて攻撃力に転換する 現力貫通効果あり
◆蛇足
語り部「不壊の御手って武術のじゃなかったっけ?」
蛇の王「いや不壊の御手は、元々スキル-体術の技じゃな。スキル-武術が全ての技術系スキルの統合スキルであるから、スキル-体術のを使えるだけじゃ」
語り部「あ~そんなこと前に言ってたな。そういうことね」
蛇の王「スキルは奥が深いのじゃぞ!」
語り部「成程、でさ……この服本当に蛇王の匂い塗れなんだが、本当にしたの?■■■■」
蛇の王「そうじゃな、本当に気持ちが良かったのう。また今度やらせてくれ」
語り部「…………本当に偶になら、だぞ」




