2-13 続・王No力
数刻が過ぎた。
「――説明は此処までにして、実践へと移る。んじゃが、『王気』が発現していないミスティは、この修行が出来ぬ故、別の修行を準備しておる。ミスティに修行内容を伝えるから、ライトは少し待っとるのじゃ」
「了解です」
「では、ミスティよ」
「行ってきます、マスター」
「また後でです」
ミスティアナを立たせて、一緒に歩いて行くヨルを脇目に、ライトは立ちあがり身体を解す。
ずっと座っていたせいか、軽くポキポキと骨が鳴る。
一通り、解し終わってから二人の方へと目を向けた。
「もう少し掛かりそうですね。意識して王気が出せるか、先ず試しますか」
深く息を吐いて、自分自身へとライトは意識を集中させる。
胸の内から感じるのは大きな魔力……と、それに紛れるように微かに存在するナニカ。
冷たくも熱くもあるような、よく分からない力だった。
「これを…そうですね。無難に手から出してみましょうか」
左手を前に出して空に向け、力を意識して流す。
ドロドロとしたスライムのような、蜂蜜のようなものが体を流れているように錯覚する。
現力は、総じてそのままでは形を持たない、ただライトがそう感じているだけなのだ。
不思議な感覚の後に、手の平から黒い靄が漏れ出す。
「これが王気ですか……本当に真っ黒ですね。少し複雑です」
自身から黒いナニカが出ているという状況に、ライトは微妙になる。
ライトにちって黒は好ましい色なのだが、内側まで黒くなってほしくは無いというのが率直な感想だ。
行動で言えば、黒寄りが多めのくせに欲張りである。
今度は王気に意識を集中させ、操作してみる。
「う~む、意外と操作しずらいですね。想像より少しズレが出ます……けど、纏めて保持しておくのは簡単っぽい?」
手の上で炎のように揺らめいていた黒い靄が、渦を巻くように集束して掌の上数cmに、黒い球体となり静止する。
その球体の部分だけが切り取られたかのように漆黒で、何か吸い込まれそうな気がした。
一般的に想像するブラックホールに似ているからかもしれない。
「この状態なら触れられますかね……おっ、行けます。何かぷにぷにしてて気持ち良いです」
空いている右手の指で黒い球体に触れてみる。
球体はライトの指に合わせて凹み、離すと元の形に戻る。感触としては、大福に近しいものだった。
まあ、ライトは大福なんて知らないのだが。
「次はこれを腕に纏わせて、魔力みたいに防御や攻撃に使えるか試しましょう」
―――取出・巳蚓魑
現れたのは、明らかに自然にあったであろう巨大な岩石。
丁度良い的が無かったので、適当に使わなそうなものを出しただけだ。
ライトは、黒い球体を右腕に纏わせる。温度など無い筈なのだが、何故か温かく感じた。
岩へと身体を向け、腕を引いて拳を構える。
《黒剛彩王-虚の理-回避錬術-怪力》
「――ハッ!!」
黒腕が岩とぶつかり合う。結果は、
「おおっ!簡単に砕けますね。これは、魔力よりも断然優れてます」
岩が容易く粉砕された。
飛び散った岩の欠片たちをローブから落としながら、ライトは黒を纏った腕へと視線を落とす。
黒い靄が霧散し、身体から一気に力が抜ける。視界が一瞬揺らぐ。
「っぁ……成程、これは長時間の使用、連続の使用はキツそうです。あんなちょっとの時間でこれだけの消耗は……実戦で使えるようにするのに苦労しそうですね……」
足にグッと力を入れて、倒れるのを押さえ、息を整えながら何が起きたか整理する。
王気は強力だが、その分身体的・精神的な消耗が激しいことが分かったようだ。
この力が扱えるのか、ライトは少し先行きが不安になった。
「さて、そろそろ――」
<――避けて下さいっ!?>
背後で膨れ上がった気配と脳内に響く少女の声。
そんなもの関係なく、ライトの身体は本能で動いていた。
《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-悪逆非道-回避錬術-怪力-聡明-会心》
―――八彩王法:喰らい妨げろ、黒盾
全身から溢れた黒き王気が、背後に巨大な盾を作り出す。
直後、耳を劈く轟音が鳴り響き、何らかが盾にぶつかりその衝撃で身体が吹き飛ばされる。
受け身を取ろうと一瞬の内に思考を巡らせ、身体を動かそうとする。だが、余りに身体が重く鈍く、間に合いそうには無かった。
遅れる思考の中で何とかしようとするが方法は思いつかず、また間に合わない。
痛みを覚悟したその時、
「――ライト、大丈夫か。済まなかった、我が見誤ったせいだ」
優しくヨルに抱き留められていた。
「ヨルですか……助かりました。地面に激突するとこでしたので」
「お主、慣れていない状態で王気を一気に使ったせいで、身体が動かなくなっていたじゃろう?無理はするでないぞ」
「そう言いましても、反射でしたからね」
力の入らない身体を支えられながら、ヨルと会話する。
先程までかなり危険な状況だったのだが、何故かライトは安心していた。ヨルという信頼出来る相手が為だろうか。
だが、身体の怠さは変わらない。
「で、アレ何だったんですか?動けないので見せてくれるか、説明してくれると助かります」
「先ずライトに向かって飛んで行ったのは『剥奪槍 ディグレストーン』じゃな。何が起きたか言うとディグレストーンとミスティアナの親和性が高過ぎて暴走した、というところかのう」
「親和性が高くて暴走?」
「神器は、誰にでも扱える物ではない、それぞれに相性が存在する。当然、高ければ高い程神器を扱いやすくなり、本来の力が出せるようになるのじゃが……。ミスティアナとディグレストーンの相性が良すぎた故に、直ぐに能力を使えてしまったのじゃ」
ライトは、それが何故暴走の原因になるのか分からなかった。
直ぐに扱えることに問題は欠片もなさそうだからだ。
「ライト、違うぞ」
「何がですか?」
「能力を"使える"ことと"扱える"ことは全く別じゃ。強力な魔法をただ発動するだけならば、魔力さえあれば誰でも出来る。だが、その魔法を扱えるのは鍛錬を積んだ者だけじゃ」
「成程、そういう――」
「――マスターッ!大丈夫ですか!」
止まった瞬間に髪が舞い上がる風を起こす程の速度で、ミスティアナが近付いて来た。
珍しく顔に表情が出ており、かなりの焦りが見える。インナーカラーは水色に染まっており、強い心の揺らぎがあることが分かる。
「マ、マスター、私は……」
「別に気にする必要はありませんよ、直接の被害はないんですから」
「でも……済みません、マスター」
(ミスティアナさんはそこら辺結構、頑固というか。まだ柔軟な対応が出来ない……なら、こうしましょうか)
「ミスティアナさん」
「はい…マスター」
「今回の件ア、ミスティアナさんに責任があることにします。だか罰を言い渡します」
「罰、ですか?」
「そう、罰です。ミスティアナさんが自分で考えて、今度僕に対して何かしてください。ミスティアナさんが、僕にしたいことで良いですよ」
即座に思考を巡らせ、ミスティアナの先の行動を予測して対応した。
ミスティアナは、当然のことだがライトを明確な主としており、主に反する行動はしてはいけないという模範的な奴隷思考を持っている。
それをライトは良しとしていない。対等な関係になると良いなと考えているからこそ、自分で考えるこさせ、精神的な成長を促しているのだ。
これにはヨルも協力していたりする。
「分かりましたマスター。マスターの為に頑張ります」
「まあ、ディグレストーンの暴走は我が居たからなんだがな」
「どういうことですか?」
「ディグレストーンは、周囲の力を奪い扱う槍じゃ。ミスティアナが使用した瞬間に我の力を奪ったのだが、我の力が大きすぎて吹っ飛んでいったのじゃ」
「それが僕の方に飛んできたと……まあ、予測出来なかったんでしたし仕方ありません。けど、代わりにヨルも何かをしてください」
「我にも原因があると分かっておるからのう、何かしらはしようぞ」
話に一段落が着く。
少しは軽くなった身体を動かして、ミスティアナの頭をライトは軽く撫でる。
目を丸くした彼女に、笑みが零れる。
「いつまでも下を向いていても仕方ありません。修行を再開しますよ」
「……はい、マスター。頑張ります」
「では、もう一度今度は、しっかりと対策した上で、修行の説明していくぞ、ミスティ」
「分かりました、ヨル様」
そう言って、ヨルは再度ミスティアナを連れて歩いて行く。
見送った後、ライトはゆっくりと腰を下ろす。
「また、時間かかりそうですね……疲れたので、少し休みますか」
◆投稿
次の投稿は11/21(月)です。
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◆技解説
八彩王法技録
喰らい妨げろ、黒盾 任意の方向に王気で盾を作り出す 減衰・反射等の効果付与が使用者の想像力によって可能
◆蛇足
蛇の王「衣替えじゃぁ!う~む、やはりパーカーは良いのう。温かいのじゃ」
語り部「いや後書きに、服装の描写とかないから元の服も分からないし、変わっても分からないぜ?」
蛇の王「前はずっとワンピースだったからのう、正直寒かったのじゃ」
語り部「この時期までワンピース一枚の蛇王が悪くない?それ。というか袖、余らせ過ぎだろ。激長萌え袖じゃん」
蛇の王「仕方ないじゃろ、サイズが合わないんじゃから」
語り部「サイズ合うの準備しろよ。大体何処でそんな、デカい黒いパー…カー……」
蛇の王「う~む、お主に包まれてるようでこれはこれで安心してよいぞ」
語り部「それ、僕のじゃないですかっ!?」
蛇の王「口調が戻っておるぞ?」
語り部「ん"んっ、そんなことより、どうやって!」
蛇の王「まだまだお主は甘いのう。さ~てこの服で■■■■でもするかのー。少し我の匂いが付くかもしれないが……まあ良いか」
語り部「ちょっ!?やめっ――」




