2-8 家Toやらかし
翌日、つまりは領主邸での話から2日後。
目の前にあるのは、こじんまりとした一軒家……などではなく、小さな館と言える建造物。
灰色の建材で建てられているからか、要塞のようなどことなく重い雰囲気を放っている。
「こちらが、ライト様に貸し出される家になります」
そう、ライトとミスティアナの隣に立つ水色の髪のメイドが言う。
彼女の名前は、レイシア。デーウルス辺境伯からライト達の案内を頼まれたメイドである。聞いたところによると、ムルング辺境伯家のメイド長らしい。
実は、もう領主邸に行き、家の紹介されているのだ。
「いや、大きすぎません?」
「しかし、ライト様の要望に合う家は此方しかありません。どうしてもというのなら、ウルス様に伝えますが……これ以上は準備が出来なかったとぼやいておりましたよ?」
「う……仕方ありません。小さいよりかは全然マシですしね。この家で大丈夫です、レイシアさん」
「そうですか。ありがとうございます、ライト様」
「いえいえ」
問題は、広すぎて色々と管理が面倒臭そうくらいなので、ライトは妥協することにした。
そもそも自分の出した要望は全て叶えてくれたようなので、これ以上は高望みでろあろうとも思ったのもある。
「それと、もう一つ問題があるのですが……見てからの方が早いので、取り敢えず中に入りましょう」
「問題?いえ、入りましょうか。ミスティアナさんも行きましょう」
「はい、マスター」
歩いて館に近付いて行くレイシアの後に続き、二人も付いて行く。
数十秒で玄関まで、辿り着き、レイシアが館の扉を開ける。
すると、
「――うっ、ゴホッ。これはっ」
白い粉の風がライト達を襲う。
恐らく、大量の埃であろうと即座に理解したライトは、それを吹き飛ばすことにした。
―――吹き飛ばっ――ゴホッ」
だが、余りにも埃が多かった為か、ライトは久方ぶりにやらかした。
「しま――」
<ライトッ――>
「マスタ――」
「何が――」
突如、嵐が吹き荒れる。
何が原因かは明白だが、この場において原因を知るのは一人と一匹のみである。
数分、飛ばされないようにミスティアナとレイシアを抱き寄せながら、ライトは耐えた。
嵐が止む、そして館を見上げると……。
「……これはやっちゃいましたかね」
「マスター、何があったのですか?」
「ライト様、先に離して頂けると助かります。それから説明をお願いします」
「――あっ、すみませんレイシアさん」
「問題ありません」
ライトが引き寄せた方向的に、まだ二人にはその惨状がまだ見えていない。
覚悟を決めて、ライトは二人を離す。
離れ、身だしなみを整えた二人の目に、館"だった"ものが映る。
「一体何…が……」
「マスター、これは……」
「…………」
―――眠り堕とす闇蛇
「ライ、ト…様ぁ……」
「ふぅ、これで大丈夫です」
ライトの手から生じた紫色の蛇のような霧がレイシアを包み、眠りへと堕とす。
彼女が地面へと倒れないように支え、ゆっくりと地面に寝かせる。
「マスター、何故レイシアさんを寝かせたのですか?」
「それはですね。この『完全に壊れた館』を見せないようにする為です」
改めて、ライトは館だったものを見る。
それは、ただの残骸。形は欠片も残っておらず、灰色の石材と家具であっただろう木材だけが辺りに散らばっていた。
つまりは、蛇王蛇法の発動キーの途中中断による暴発で生じた嵐によって、館は吹き飛んでしまったのである。
仮ではなく、本当にどこからどう考えても領主の所有物をライトは破壊したことになるのだ。
それを辺境伯家のメイド長であるレイシアに見られては何を言われるか分からない、まあ実際は少し見られたが。
ということで、彼女を眠らせ、寝ている間に直してしまおうとライトは考えた。
「直ぐに修復してしまいましょう」
「出来るのですか?粉々ですが」
<何を使って直すつもりじゃ?ライトよ>
「時空魔法で、限定的な時間逆行をする気ですけど、蛇王蛇法でも出来たりします?」
<う~む、術は無くは無いのじゃが、如何せん範囲が大雑把でのう。魔法の方が良いと思うぞ>
「分かりました。ミスティアナさん、もしかしたらがあるので、少し離れていてください」
「了解です。マスター」
方法を検討し、即座に行動を決定するライト。
ミスティアナが離れるのを確認してから、意識を集中させる。
全身から溢れた魔力が、ライトの目の前に巨大な空色の魔法陣を作り出す。
「範囲は館だけ、完全な修復を目標に……少し手も加えてみますか」
《黒剛彩王-虚の理-悪逆非道-偽詐術策-聡明》
―――神級時空魔法・変異:非想天の逆巻時計
魔法陣が霧散すると共に、残骸が淡く輝き独りでに動き出す。
それらは、繋がり合い元の形へと戻っていく。
傍から見たそれは正に奇跡、魔法というものの力を現に表していた。
数分で、跡形もなく崩壊していた館は、完全に形を取り戻した。そっとライトは胸を撫でおろす。
不意に立ち眩みが起こり、倒れそうになるところを踏み止まる。
直ぐに、ミスティアナが駆け寄って来た。
「大丈夫ですか、マスター」
「少し魔力を使いすぎただけです。時間さえあれば元通りになので、気にしないで下さい」
「……分かりました」
「ふぅ、流石に神級はキツイですね……けど、綺麗に戻って良かったです」
<上出来じゃな。だが発動が遅すぎるぞ、戦闘用の魔法はそれでは使い物にならぬ>
「ま、それは追々ですね。ミスティアナさん、済みませんがレイシアさんを起こしてくれますか?僕は少し確認しておくことがあるので」
「了解です。マスター……レイシア様、起きて下さい」
ミスティアナがレイシアに声を掛けている間に、ライトは少し重い身体を引き摺って、館の扉を開ける。
今度は、白い風が襲ってくることはない。ライトは小さく微笑む。
「魔法の改変も成功と、上々ですね」
<そもそもが館が綺麗なようにしたのか、極小ではあるが事象の改変、ふむ良いのう。我が花丸をやろう>
「花丸って何ですか?」
<異世界の評価の一種じゃ。上々の上の評価だと思えばいい>
「なら、かなり良いってことですね。僕も少しは成長したみたいです」
<我からすればまだまだじゃがな>
「……先は長そうです」
そう溜息を吐くが、その後に笑みを浮かべるあたり、結構嬉しいようだ。
成長の実感、それは疲労を一時的に忘れさせる程に心地が良かった。
気分の良くなったライトの耳に、ミスティアナの声が響く。
「マスター、レイシア様が起きました」
「今戻ります」
ライトが戻った瞬間には、既にレイシアは立っており、特に問題も無さそうであった。まあライトが眠らせたので、問題がある訳もないのだが。
レイシアは、何故だか申し訳なさそうな顔をしていた。
「申し訳ありません、ライト様。案内役でありながら、気を失ってしまうとは、面目ありません」
「気を失う?」
「大量の埃を吸い込んだせいで倒れ、頭を打って気を失ったと、ミスティアナ様が説明してくださいました」
「あ、そうですか……」
「…………」
申し訳なさそうにするレイシアからミスティアナに目を向けると、ウィンクを返された。
何時の間にそんなもの、教えられたのか。
(う~ん、レイシアさんが納得してるから良いとしますけど。理由としては、少し無茶な気も……まあ、良いですか)
かなり無茶ではあるし、若干意味が分からない。だが本人が納得しているなら、とライトは思考を放棄した。
「じゃあ、家の案内をお願いしますレイシアさん。中の方は魔法で綺麗にしておいたので、もう大丈夫ですよ」
「そんなことまで……ありがとうございます。ライト様、それでは案内いたします」
問題もありながらも、ライト達は家を手に入れた。
◆投稿
次の投稿は11/9(水)です。
◆作者の願い
『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。
後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!
その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!
□■□■□
◆技解説
蛇王蛇法技録
眠り堕とす闇蛇 使用した対象を眠らせ記憶を曖昧にさせる 精神抵抗貫通
魔法技録
神級時空魔法・変異:非想天の逆巻時計 指定した対象の時間を巻き戻す 生物には使用不可 小範囲の事象改変可能
◆蛇足
語り部「久しぶりだな、暴発。というか二回目だけど」
蛇の王「本当は一章に一回は暴発を入れる予定だったのに、1章作者が入れるの忘れたからな」
語り部「しっ、言っちゃいけません、そんなこと。いつもそうやって暴露してると、変なことやらされるぞ」
蛇の王「例えばどんなのじゃ?」
語り部「う~ん、逆立ちしたまま蛇足とか?」
蛇の王「それ、意味あるのかのう」




