2-1 奴隷No契約
時遡り、オークション後一週間の日。
ライトは、セイク商会に来ていた。人声のする廊下を歩き、前にも来た談話室の扉を開ける。
「失礼します」
「待っておりましたぞ、ライト殿。いえ、こちらがお待ちさせて申し訳ないと言うべきですかな?」
居たのは、当然のようにトリスである。温和な笑みを浮かべながらも、顔には申し訳ないという感情が出ている。
それには、ある理由があった。それは、一週間という時間を置いてからライトがセイク商会に来ている理由でもある。
何かあったのだろうと察したライトは、ふと自分へと向けられてた視線に気付く。自分が今日、此処に来た目的である、彼女の存在に。
「一週間ぶりですね、ミスティアナさん」
「……はい、マスター」
「あの後、身体に不調とかはあったりしませんでした?」
「マスターのお蔭で、特に何もありませんでした」
一週間経っても変わらず無表情なミスティアナに安心する、笑みが浮かぶライト。彼女の髪が黄色に染まっているのが分かったからだ。
ライトは、セイク商会との旅路途中にミスティアナの下に通っていた時に、彼女の感情が髪に現れることを知り、色が出ている時の感情をある程度分かるようになっていた。主に、暖色が上向きな感情で、寒色が下向きな感情である。
「仲が良さそうで、良かったですぞ。さて、改めてライト殿、本題に入るとしましょうかな」
「そうですね」
「先ずは、今日にまでこの予定が遅れたこと、深くお詫びしますぞ」
「いえいえ、理由があったんですよね?僕の方でも少し予想は出来てますし。少しもどかしくはありましたけど、こちらもこちらで準備も出来たので丁度良かったという感じですから、気にしなくて良いですよ」
「そう言って頂けると助かりますな。いやはや……本当に困まりましたぞ」
トリスが深く頭を下げ、それに対してライトが問題無いと返す。深い溜息を吐き、上げたトリスの顔はやはり苦々しかった。
何が起きていたか、薄々予想出来ていたライトは苦笑いを浮かべている。対して、ミスティアナは何も分かっていない様子で、ライトを見つめている。
「"ドーカス公爵"が無茶なこと言ったんですよね?例えば、僕の落札を取り消せとか」
「正にその通りですぞ、全く馬鹿なことを言う御方ですな。まあ、そのお陰で脅しの種くらいは手に入れることが出来ましたがね」
「抜け目無いですね」
「こちらが被害を被っている訳ですからな。この程度は、させて頂かなければ割りに合わないですぞ」
「流石、根っからの商人ですよ」
二人は"良い"笑みを浮かべて、話し合う。尚もミスティアナは理解できていない。
「さて、本題と行きましょうかライト殿、今日は彼女の引き渡し、つまりは奴隷契約を行い、完全に彼女の権利をライト殿に譲らせて頂きますぞ。ライト殿ほど、オークションの品が譲られるのが遅いお客様は居りませぬな」
「時間は問題ありませんよ、重要なのは確かに渡されるかどうかです」
「ハハッ、そうですな……では、先に譲渡の契約としてこちらの神言書にサインをお願い致しますぞ」
黒い羊皮紙と白いインクと羽ペンがテーブルの上に置かれる。それを迷うことなく手に取り、十分な時間を掛けて内容を読み込んだライトは、サラサラと名前を書いていく。
内容は、この契約や購入についてトリスが規定する以上のことを口外してはならないというものだ。
規定といってもセイク商会の内部構造だったり人員だったりの話のようであり、オークション自体については、問題無いようである。
「さて、こちらは私の方で保管させていただくとして、契約と行きますぞ」
「奴隷契約ってどうやってするんですか?僕知らないんですよね」
「まあ、あまり出回って無い情報ですからな奴隷契約は――」
トリスが口を開き説明を始める刹那、脳内に脳内に声が響く。その声の主は、やはり首に巻き付いたヨルだった。だが流石ライト、もうかなり慣れたのか反応を外に漏らすことはしない。
<――スキル-契約術を使って行われる。闇魔法などでも同じようなことが出来るが、その拘束力は雲泥の差じゃ。種類としては、主に三つある。一つ目は、契約紋が契約した者同士に現れるもの、これは基本的に契約する者同士が対等になる契約じゃの。二つ目は、契約される者に媒介となる道具を着けるもの、これは基本的に上限関係がはっきりした契約、主に奴隷契約で使われることが多い契約じゃ。そして三つ目は、媒介も無く契約紋も出ないもの、これは最も高度な契約であるが、表面上契約の証が無い為に秘密裏に行われる契約に使われることが多いのう>
トリスの説明を覆うようにヨルが契約についての解説をする。
(急に話しかけてこないで下さい、驚くでしょ?ヨル)
<話に入るタイミングが無くてな、我も会話に参加したかったのじゃ。何もないまま、首に巻き付いているのは退屈でのう>
(はぁ、後で構ってあげますから、急に話しかけてくるのは無しにしてください)
<分かったのじゃ>
意外と寂しがりやなとこあるんだな。とライトは思いながらも、念話から思考をズラしトリスの話の方に集中する。
だが、内容は大方ヨルと同じだったので、特に問題は無かった。
「――そして、今回ライト殿には、二つ目の契約。媒介を使用する契約をして頂きます」
「分かりました……で、その媒介はどういうのにするんですか?」
「既に準備は済んでおりますぞ――隠蔽解除」
トリスがそう言うと、ミスティアナの首元の空間が揺らぎ、そこに彼女の首より一回り程大きい"真っ白な金属らしき首輪"が現れる。
ライトは、驚いた。今まで、彼女に触れていた時には、首輪の感触など一切無かったからだ。そもそも隠蔽されている首輪など見たことが無かったこともある。
「その首輪、魔道具ですか?」
「そうですぞ、ダンジョン産のかなり高位の魔道具ですな。本来は此処まで高度の物を使う必要は、無いのですが、お詫びも含めてという感じですな」
「隠蔽以外にも効果はあるんですか?」
「当然ですぞ。この首輪の名称は『熾天使の首輪』と言ってですな。装着者が主だと認識する者と心の繋がりが強い程に、多く強い効果を持つようになりますな。詳しくは、使用してのお楽しみにしておいた方が宜しいかと思いますな」
先程とは違う、温かみの感じる"良い"笑みを浮かべたトリスが、首輪について少しだけ教えてくれた。
その笑みから、かなり良い且つ、面白い効果なのだろうと思ったライトは、言う通りに今聞くのを止めたようである。
だが、首輪への興味は湧き続けている。
「白色ってとこも、色々と仕込んでくれてそうで、何だか申し訳ありませんね」
「気にすることはないですぞ。代わりに、これからもよろしくお願い致す、ということですな」
「全く、商人ですね」
「これでも商会長ですからな!」
談話室に笑みが尽きることが無い。
数分の会話と少しの準備が行われ、遂には時が満ちる。
「それでは、契約と行きますぞ。ライト殿、ミスティアナ殿の首輪に触れて頂けますかな?」
「分かりました……失礼します、ミスティアナさん」
「はい、マスター」
ライトは、ミスティアナの首輪に右手で触れる。瞬間、トリスから魔力が沸き上がった。
―――超級契約術:主従魂結の契約
二人を、眩い光が包む。
◆投稿
次の投稿は10/21(金)です。
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◆技解説
スキル技録
超級契約術:主従魂結の契約 二人を対象とし主と従、上下関係を定めて魂を繋ぐ 従は主の命令に逆らえない 他に契約が解除される条件を付けるなど諸々設定可能
◆蛇足
蛇の王「最近、寒くなって来たのう」
語り部「いや本編関係ないな」
蛇の王「偶には、良いじゃろ。そもそも此処は唯の蛇足でおまけで本編の解説してるだけじゃし」
語り部「そうなんだけどね?でも一応此処も小説の内な訳で」
蛇の王「関係ないな。我は喋りたいこと喋る」
語り部「寒くなって来たなら、蛇らしく冬眠してたr――」
観測所に、鈍い拳の音が響き、語り部が宙を舞う。




