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1-E 黒剣は、極星を墜とす





「――貴様ァァ!!!よくも、よくモよクモヨクモォ!!!」

「五月蠅いですよ、耳に悪いんで黙ってください」



 明らかに怒りが溢れているディアスの叫びに、ライトは嫌な顔をしながら返す。何故か、身体の調子絶好調のライトは、今現在恐ろしい程の余裕を持っている。主人公のよくある、負ける気がしないって奴だ。



「駒共ッ!!――その無価値な命を、我らが王の為使え!!!」

「チッ、ここで集団戦法ですか、姑息ですね」



 ディアスの声が会場に響くと、散らばって立っていた灰色のローブの集団が一斉に動き出す。

 姑息に関しては、一つ言うとすれば、ライトの方がもっと姑息な手いっぱい使ってきているだろ、という処だろうか。



(僕の思うに、今迫って来てる灰ローブの人達はただの人間な気がするんですよね。どんな経緯で操られてるかは知りませんが、あまり殺さない方が良いでしょう。と、いうことで)


《黒剛彩王-虚の理-偽詐術策-聡明》


―――(しば)(ふう)ずる闇蛇(あんだ)



 イグニティから溢れた黒が無数の蛇を模り、集団に巻き付いて次々と拘束していく。その様子にライトは少し驚いた。



「蛇王蛇法の出力が上がってる?ヨル無しで、此処までの強力なのは使えたことは無かったんですけどね……」



 蛇王蛇法は、言葉を発するだけで発動できるが、その威力は何時でも高く、一定という訳ではない。実は、術者の精神状態や術完成のイメージの強さによって威力が変動するのである。

 例外として、杖状態のヨル―神喰螺旋蛇杖(アスクレピオス)はあらゆる術の威力を底上げする為、精神状態による威力変動が意味を成さない。



「クソッ!使えないゴミ共だ!」

「貴方の方が、よっぽどゴミに見えますけどね」

「――何だと!!この私を侮辱するというのか!そもそも貴様は一体何なんだ!居る予定だった他の"贄"も消えるわ、必殺の短剣は防がれるわ!全て貴様のせいだ!!」

「清々しい程の責任転嫁ですね」



 身体から血を流し、激昂( げっこう)するディアスをライトは冷たい目で見た。

 裏話をすると、二つとも根本の理由は少しライトが絡んでいたりするので、意外にも責任転嫁とは言いにくかったりもするのである。



「この世界は、力が全てです。失敗は当人の力不足以外にありませんよ」

「黙れ!!私は、王の祝福を受けし者なのだ!貴様らのような下等生物とは、格が違うのだ!!」

「はぁ……話し合いは、無駄なよう……いや?」



 話を一切聞かないディアスに、諦めをつけようとしたところで、ライトの思考に妙案が颯爽と現れた。

 口を三日月のように歪め、黒き王は口を開く。



「さっき言ってた、"贄"って何ですか?」

「我らが王に捧げる"贄"だ。私は、そこの白い女が良い"贄"だということで、回収を任を受けたのだ」

(滅茶苦茶普通に話しますね、馬鹿なんでしょうか?)

「その女以外にも、質の高い贄があったら探して来いと言われたのにだ!全て、全て逃げてしまった!!」

(ミスティアナさんをメインとしつつも、他にも狙ってたと……『六魔教団』ですか、後で調べてみる価値がありますね)



 ベラベラと自分の目的を語り続けるディアスの話を聞きながら、ライトは思考する。

 余りにもすんなり教えてくれ過ぎて、情報の真偽や頭が心配になる程であった。ディアスの精神は既に滅入っていそうだ。



(それにしても、ミスティアナさんの確保だけは厳命されているように思えますね。これは、使えそうです……)

「そうですか、まあ僕の知ったことではないですけど――」

「貴様何をしっ――」



 ライトは、話しながら(おもむろ)にイグニティを振り上げ、ミスティアナの牢へと振り下ろす。

 耳障りな金属音と共に、牢が切り崩された。

 驚くディアスを無視して、ミスティアナをイグニティを持っていない左手で立ち上がらせ、引き寄せる。



「ミスティアナさんの回収は、重要な任務なんですよね?」

「そうだっ!!だからその女を離せ!私に寄こせェ!!」

「渡す訳ないじゃないですか、欲しいなら自分の手で取りに来ては?」

「言われなくてもそ――」

「――おっと、それ以上近付かないで下さいね?」

「貴ッ様ァ!?な、何をする気だっ!?」



 怒りを滲ませ、魔力を溢れさせながら近付いて来ようとしていたディアスの動きが止まる。それは、ライトの行動のせいだ。

 ライトは、引き寄せたミスティアナの首に、イグニティの()()()()()()()



「それ以上近付けば、貴方の重要な任務の要である。彼女の"首が落ちます"ので」

「ふざけるなぁ!!」

「だから、近付かないで下さい」

「くっ、この外道が!!」

「この会場に襲撃を仕掛け、こんな有様にした貴方には言われたくありませんね」



 人質作戦、それこそがライトが考えた作戦だ、卑怯なことこの上ない。実際には全く違うが、構図としては悪役そのものと言える。

 然も、会場をぶっ壊しているのは基本的にライトである。



「……ミスティアナさん、少しの間我慢してください……」

「分かりました」

「……すみません……」

「いえ、問題ありません」



 ミスティアナの耳元で、小声で謝罪するライト。それに対して彼女は特に気にした様子はない、ように見える。表情筋があまりにも動かないので、心情が予想出来なく不確かなのは仕方ない。

 しかし、ライトはミスティアナが恐怖していると判断した。理由は引き寄せている左腕に伝わる彼女の心臓の鼓動が早く強かったからだ。

 故に、彼女を更に引き寄せて身体を密着させる。思い込みで行動するのは良くない、とだけ言っておく。



「さあ、彼女を殺されたくなかったら、這い(つくば)るんですね」

「何をっ!?誰が――」

「――良いんですか?彼女の首が落ちても」

「くぬぅ……」

「彼女が死んだら、任務は失敗。きっとのこのこと帰った貴方は、上の者に罰を下されるどころか、怒り狂って殺されちゃうかもしれませんよ?」

「ッ!?!?」



 適当に脅しを言った途端、ディアスが即座に頭を床に叩きつけるように這い蹲った。余程怖い上司がいるのであろう。

 ライトは、笑みが悪魔のようなものへと変わる。



「本当にするなんて、馬鹿ですねっ!!」



 魔力を全身に巡らし、ミスティアナを抱えるような形で一気に跳躍する。



「――ハアッ!!」


《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-回避錬術-怪力-会心》


―――蛇剣舞・変異:地蛇(ちだ)剛撃(ごうげき)衝黒鎚(ショウコクツイ)



 這い蹲る"的"へと、銀河の刃が振り下ろされる。

 衝撃が床を大きく凹ませ、追撃としてそこから黒い波動が起こり、"的"をぐちゃぐちゃに吹き飛ばす。


 このド畜生、無抵抗の相手を容赦なく殺しに行ったようだ。



「ふぅ……終わりました。ミスティアナさん、もう大丈夫ですよ」

「ありがとう、ございます……その、離していただけると」

「あ、済みま――ぐっ!?」



 ミスティアナを離そうとした瞬間、背中に強烈な衝撃が走り、吹き飛ばされる。

 即座にイグニティを盾とし、座席への直撃を免れる。それで完全に防げる訳もなく、微弱な痺れと痛みが全身を襲う。

 だが、自分ではなくミスティアナにのみ魔力障壁を展開することで、彼女への被害だけは、ほぼ完全に防いだ。



「何がっ……――不味いっ!?」



 背後からの膨れ上がった殺気と風切り音を感じ、灰色の魔法陣を作り出し発動させる。



《黒剛彩王-虚の理-偽詐術策-聡明》


―――上級重力魔法:空を駆ける者(スカイライナー)



 身体が上へと引っ張られ、飛来する何かを避けて空中に制止する。風に乗っているような浮遊感はなく、固定されているような感じだ。

 慣れない感覚ながらもライトは、空で身体を捻り、ディアスの居た方を見た。

 そこには、



「全く、しぶといというか何というか……」

[――ウオオォォォ!!!!!]



 正に"鬼"が居た。凶悪な顔、赤黒い肌、黄と黒の角、体長は5m程。膨れ上がった筋肉には、紫色の刺青が入っておりそれが輝いている。

 ライトは、刺青から嫌な気配を感じ取った。



(アレ、普通じゃありませんね。あんな微塵にしたのに再生してるのも、アレが原因と考えて良さそうです)

[ウゴォオ!!]

「あっぶない、何ですかそれ気持ち悪いですね……さっき吹き飛ばしてきたのは、今のですか――ってまたか」



 鬼の拳から生じた赤黒い球体が、次々と飛来する。ライトは、それをイグニティで弾きながら、次の一手を模索していく。

 空を流れて回避し、隙を見て弾き返す。そんなことを繰り返すこと一分、ライトは気付く。



(これ、狙ってんの僕じゃありませんね。ミスティアナさんです……あの状態でも本能は命令を実行しようとしていると……なら、手がありますけど……)



 思考しながら、ライトは抱えているミスティアナへと目をやる。その視線に気付いたのか、彼女はライトに視線を返す。白亜の瞳がライトを射抜く。

 すると、何故かライトの心は落ち着いた。少し危険な作戦を実行する覚悟が決まると同時に、水色と灰色の魔法陣を、ミスティアナを抱えている左手に形成する。



「ミスティアナさん済みません、少し怖いかもしれませんけど我慢してください」

「それはどう――」

「――えいっ」

「……え?」


 

 ライトは、彼女の何をするのかという問いを途中で端折り、気の抜けた声と共に――()()()()()()()()()()()()



[グギアァッ!!]



 鬼が、それを見て駆け出し、確実に掴まれた瞬間に握り潰しそうな腕を伸ばして跳び上がろうとする。

 このままでは、ミスティアナが無残な肉塊になることは、自明の理だが、当然そんなことライトがさせるわけも無い。



「――気、取られますよねぇ」


《黒剛彩王-虚の理-偽詐術策-聡明》


―――天級重力魔法:万象よ、地に伏せろトートゥム・グラヴィタス



「ウグァァ!?」



 左手に浮かべていた二つの魔法陣の内、灰色の魔法陣が霧散し、空間に異常重力を発生させた。鬼が地へと落ち、無様に伏せる。

 ライトは、イグニティを振り上げた。



「遊びは、もう終了ですよ。此度はご来場感謝します」


《黒剛彩王-虚の理-偽詐術策-聡明》


―――超級時空魔法:スナッチアポーツ



「わっ」

「回収完了」



 残っていた空色の魔法陣が輝き、そこにミスティアナが現れる。ぎゅっと、ライトは彼女を引き寄せ、今度は離さないように強く抱きしめた。

 そうしながらも、ライトは地に伏せたディアスだった鬼から目を離さない。尚も口は弧を描いている。



「そして、これにて――」


《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-回避錬術-怪力-会心》



 ライトから膨大な"黒"が溢れ、それがイグニティの刀身に集束され、この世の闇を全て詰め込んだかの如く深き、塗りつぶすような漆黒が刃と化す。



「終幕だ」



―――八彩王法(ファルべケーニヒ)黒剣は、極星を墜とすイオルム・ステラエンド



 イグニティが振り下ろされると共に、"黒"が解放される。

 煌めきを含む漆黒にして極大の斬撃が、鬼ごと会場を黒く塗りつぶす。

 断末魔は響かない、全ては黒へと墜とされた。

 


「ハアァ……」



 深い溜息を吐く、これは安堵から漏れたものだ。


 数秒の後、"黒"が溶け消え、ボロボロになった会場が露わになる。ライトは、その中でも辛うじて形を保っていた舞台の上へとゆっくりと降りた。

 


「よっと、ミスティアナさん。終わりましたよ」

「そう、ですか……」



 着地と時を同じくして離れたミスティアナから、明らかに抗議の視線がライトへと突き刺さる。

 理由は、言わずとも知れているであろう。効果があり、尚且つ成功したから良かったものの、アレは正直無いと思うぞ。



「あの、怒ってますか?」

「怒ってはいません。そもそも、怒るとはどういうことなのか、分かりません。でも、こうモヤモヤとしたものを感じます」

「それが、多分怒りです。……怒ってるんですね?」

「良く分かりませんが……貴方様の言う通りなのなら、多分怒っています」



 怒り、を理解していない為、会話では分かりにくいが、ライトは彼女が怒っていると完全に分かっていた。

 理由は、髪のインナーカラーが、"赤く"なっているからである。



「そうですか……すみません。さっきは、アレしか思いつかなくてですね……」

「別にそこまで、気にしていません」



 ミスティアナがそう言うと、色が赤から橙色へと変わる。

 ライトは、恐らく彼女の機嫌が直ったと判断し、安心するがその安心は一瞬にして崩れ去った。



「っ!?だ、大丈夫ですか!何か、怪我でもっ……」



 ミスティアナの髪の色が橙から青色に変わったからだ。反射的に彼女に近づくと、がばっと文字が出ていそうな程、勢い良く抱き着かれた。



「今日……来てくれないかと、思っていました……一時(いっとき)は浮かれ、貴方と共に過ごす日々を想像していました」

「ミスティアナさん……」



 彼女の身体は、少しだけだが、震えていた。それは、精神的な恐怖故だろう。



「貴方と会ったあの夜……あの時から、私の中で貴方は、何か特別な存在になっていて……夜を過ごす度に、貴方を思うようになって……」

「…………」

「貴方が居なくなってからも……いつでも貴方のことを考えていました……そうしていたら、ふと嫌な想像をしてしまい……勝手に不安になっていました」



 それは思いの吐露、ライトは黙って聞いている。



「だから、貴方が今日居てくれて、見つけた時は……凄く安心しました。貴方が刺された時は、目の前が真っ暗になって……それでも、貴方は私を助けてくれて……」

「…………」

「けど……あの投げたのは、少し……」

「っ……」

「でもやっぱり、一番は安心しています。今こうして貴方と居られること、本当に嬉しく思っています」



 ふぅ、と息を吐き、ミスティアナは顔を上げ、ライトの顔を見た。髪は、金色に染まっている。



「これからは、よろしくお願いします。私の、"マスター"……」

「――ッ!?えと、その……こちらこそ?」



 突然の言葉に、ライトは動揺して対応できず、変な感じになってしまう。そんなライトを見て、彼女は優しく笑う。



「ふふっ」

「……その変でしたか?」

「?よく分かりませんが、多分変ではありませんよ」

「はぁ、変なんですね」

「変ではないと、言いましたよね」

「ミスティアナさんの表現の読み取り方は、僕が一番です。きっと変だったんですよ」

「いえ、変ではないと――」

「だから、言葉から――」



 そんな軽い言い合いに発展し、何とも締まらない感じで今回のオークションは、本当に終わることとなる。


 この終幕を描いた蛇は、隠れて白と黒を愛おしく見つめていたようである。



◆投稿

次の投稿は10/17(月)です。


◆読者の皆様へ

これにて『第1章 迷宮都市と天羅の忌子』終了。

ここまで読んで戴きありがとうございます。そして、面白いと思って頂けたなら幸いです。

物語はまだまだ続きます、これからも楽しんで頂けるように頑張ります。


活動報告で事前に言っていたように、一週間ほど本編投稿を休み、その間に多少の編集や一覧などの一部設定の投稿を行います。暫しの間ですが待っていただけると助かります。それでは、一週間後にまた会いましょう。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆技解説

蛇王蛇法技録

(しば)(ふう)ずる闇蛇(あんだ) 対象に巻き付いて行動を制限する 暗い程拘束力上昇 能力減衰効果あり


スキル技録

蛇剣舞・変異:地蛇(ちだ)剛撃(ごうげき)衝黒鎚(ショウコクツイ) 地蛇の剛撃+王気による衝撃波による吹き飛ばしと共に対象を崩壊させる


魔法技録

上級重力魔法:空を駆ける者(スカイライナー) 使用者の周囲を対象とし、重力を自由に操作できるようにする 使用者が地面に触れた瞬間に効果消失 重力制御は完全任意操作

天級重力魔法:万象よ、地に伏せろトートゥム・グラヴィタス 対象をほぼ確実に行動不能にさせるだけの重力を掛ける 自身より位置が下の生物に対してのみ有効 対象の強化などにも対応して重力が変化する


超級時空魔法:スナッチアポーツ 対象を対象の状態や抵抗をある程度無視して自身の手元に転移させる 視界内の対象にのみ使用可能


八彩王法技録

八彩王法(ファルべケーニヒ)黒剣は、極星を墜とすイオルム・ステラエンド 王気を剣の刃へと集束させ、巨大な斬撃として放つ 被撃後は集束した虚が解放され、触れた対象を崩壊させる 耐性貫通 防御無視『秘匿事項あり』


◆蛇足

蛇の王「1章、終わりはしたが、少し中途半端とも言えるし、色々と謎も残っておるよな?」

語り部「まあな、ディアスが馬鹿すぎるところかさ。この作品、冷静になれば不自然なことに理由付けするから、絶対にアレにも訳あるぞ」

蛇の王「そうじゃな。主な原因は"我"じゃし、当然だろうな」

語り部「て、言うんかーい!隠さないんだ、そこ」

蛇の王「だって、最後にこの終幕を準備した蛇って言っておるし、我が裏で糸を引いていたことは分かり切っているじゃろ?」

語り部「確かにそうなんだけどさ……もうちょっと隠さない?少なくとも後書き(此処)で言う必要は絶対に無い」

蛇の王「そんなもの、関係あるか!天上天下唯我独尊!我より尊き者は居ない、自由にさせてもらうのじゃ!」

語り部「はぁ……苦労しそうだぜ」


今宵も、蛇王に振り回される、不憫かもしれない語り部である。



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