1-29.5 蛇は踊り、桜は舞う
深緑の風が吹き荒れる。
「――間に合って下さいよ……」
フーリンは焦り、全力で都市を駆けていた。
「全部、あのゴミ公爵のせいですっ」
顔に浮かぶのは、強い怒りと人の屑と呼べる男への嫌悪だ。だが、直ぐに今考えるべきことではないと切り替える。
現在最も考えるべきは『六魔教団』だと名乗った、あのディアスという男。恐らく"魔族"と思われるあの男から、何故かシュビラの緊急退避の魔道具で転移されず、残ってしまったと予測されるライトを守ることだけだ。
久方ぶりに出会った良き才能の持ち主を、未来ある者を守る為に、フーリンはただ只管に進み続ける。
―――天蛇創造・斗折蛇行
しかし、それは一人の、いや一匹の王に遮られることになる。
半透明の蛇が視界を過ぎると同時に、フーリンごと周囲が全てから隔離された。辺りは、無限に続くと思える銀河へと変わり、煌めく星々が何もない筈の黒を照らす。
「――誰ですかっ!!」
フーリンは、その事態に驚きながらも即座に警戒に移った。塔のように積み重なった経験と研ぎ澄まされた勘が、術者の途轍もない強さを感じ取ったからであろう。
「――流石と言うべきかの」
「貴方は何者ですか?」
そんな警戒心最高潮のフーリンの前に、漆黒の髪と金剛のような瞳を持つ濃紺色のドレスを着た少女――ヨルムンガンドが現れる。
ヨルは、ライト居る時のような緩さは感じさせず、正に王という雰囲気を纏っていた。
「なに、通りすがりの蛇じゃよ」
「なら、通してくれると助かるんですが」
「それは出来ぬな、フーリン・エアライド。異世界の流派の技を使いし『世界樹の守り手』よ」
ヨルの言葉を聞いた瞬間、フーリンの顔に心の底からの驚嘆が浮かぶ。
「っ!?……元ですよ。守り手はもう辞めましたから」
「そうであったか。まあ、それはどうでも良いことじゃ。兎も角、お主にライトの応援に行かれては困るのじゃよ」
「何故ですか?」
「ライトの成長の為じゃ。故にお主をこれ以上進ませはせぬ」
「そうですか……」
そう言い、深く溜息をつきながら、息を整える。
フーリンは、虚空から桜花麗白を取り出し構えた。
「ならば――」
《桜魔神影流-◆◆◆◆-剣聖-虚気平心-一殺多生-疾風迅雷-天刃-同撃》
―――桜魔神影流:八重桜・陽炎八段
「――押し通る以外にありません」
紅き軌跡から生まれた、八つの緋色の斬撃がヨルへ迫る。フーリンの斬撃には、手加減など欠片も無く、純粋な殺意を詰め込んだものだった。
それ程でなければ、ヨルには届かぬと判断したからである。
《蛇之覇王-蛇王蛇法-武術・蛇道:神級-戦威無為-堅牢堅固-神喰-不動-隔絶-破魔》
―――神級武術・蛇道:不壊の御手・蛇邪冥命
「良い技ではあるが、お主まだ手を抜いているであろう?」
緋色の斬撃達は紫黒を纏った手による手刀で意図も容易く叩き落とされた。
ヨルは、僅かな不満を言葉に乗せてフーリンへと伝える。ヨルは見抜き、知っているのだ、フーリンの強さはこの程度ではないことを、もっと上の次元であることを。
「我が、お主の素性を知っているであろうことを理解して尚、まだ手を抜くのか?」
「手を抜いている?それはどういう――」
「――くどい、惚けるな。我は知っているのだぞ?桜魔神影流の真髄が"二刀流"にあることを」
「くっ!?」
「分かったらならば、さっさと"二本目"を出すがいい」
フーリンの顔が苦々しいものへと変わり、それから諦めたようなものへと変わる。
全てを見抜かれていることを理解し、見切りをつけたのだ。
「貴方は、一体何者……いえ、今は関係ありませんね」
「ああ、そうじゃのう」
「隠す必要は無い、というならば。本気で行かせて頂きます」
再度、深く溜息を吐きながら、フーリンは虚空から"紫色の刀"を取り出す。桜花麗白と紫色の刀、両方共を鞘から抜き放ち、構えた。
「ふぅ……桜魔神影流"裏"師範『絶風』のフーリン、推して参る」
《桜魔神影流-◆◆◆◆-剣聖-二刀流-虚気平心-一殺多生-疾風迅雷-天刃-連重撃》
―――桜魔神影流・双刀:八重神桜・雲耀十六段
二つの刀から放たれるは、雷の如き十六の斬撃。それぞれが、人体構造の急所を狙うように飛び、ヨルへと迫る。
ヨルの口に弧を描く。
《蛇之覇王-蛇王蛇法-武術・蛇道:神級-戦威無為-堅牢堅固-神喰-流転-隔絶-破魔》
―――神級武術・蛇道:星雲の剣陣・蛇螺転輪
ヨルは、巳蚓魑から取り出した長剣一本で、全ての斬撃を切り裂いた。フーリンは、自身の技が防がれたことよりも、ヨルの持つ剣に注視していた。
「その剣……何ですか?業物どころではありませんね……けど、神器とも違う」
金色の大きく湾曲した形状の刃を持つ長剣。それがヨルの持つ剣だ。
異様な雰囲気を放っており、一目で唯の剣ではないことが分かる。
「我の相棒じゃよ…いやそう言うと怒られてしまいそうじゃな。我の一部と行った方が良い、こやつと共にした時は、果てしなく長いからのう」
慈しさを感じさせる表情で、剣の刀身を撫でるヨル。
その状態から、
《蛇之覇王-蛇王蛇法-武術・蛇道:神級-戦威無為-堅牢堅固-神喰-流転-隔絶-破魔》
―――神級武術・蛇道:炎天を貫く・冥蛇奈落暗技
無動作で突きが放たれる。
空間を歪ませる程の、その突きは的確にフーリンの心臓を抉った。鮮血が舞い、刀が地へと落ち――
「――ハアッ!!」
「む?確かに殺したと思ったんじゃがな……」
――た音が、響くことはなく、ヨルの背後からフーリンが斬りかかる。それを見ずに剣で防ぐヨル。
当然一撃では、攻防は一度で終わらず、一瞬の内に何百、何千、何万の剣の応酬が行われた。それらは、最早常人では見ることすら不可能だ。
「良い動きをするのう」
「二刀流なので、貴方の倍の手数何ですけどね……。剣一本で良く防ぎますよ」
仕切り直しという風に大きな切り合いの後、一旦距離を取った双方は、剣を構えながら会話する。
フーリンは、ヨルの強さにもう呆れていた。自身の積み重ねを軽々と超えて尚、余裕を見せるその強さに。
「この程度では、我には傷すら付けられぬわ」
「成程……――」
だがその強さ故に、上位者であるフーリンは、自分の力が何処まで届くか試したくなった。
《桜魔神影流-◆◆◆◆-剣聖-二刀流-虚気平心-情緒纏綿-疾風迅雷-天刃-守護者》
―――桜魔神影流・刀装:十束之桜・天之尾羽張
二つの刀が、緑光を纏う。神秘的な輝きがフーリンの瞳に宿り、気配を塗り替える。
(すみません、ライト君。ちょっと行けそうにありません、自分で頑張ってください。後で埋め合わせはしますから……ちょっと楽しいのが、更に申し訳ないです)
フーリンは、心の中でライトに謝罪をしながら光る刀を構える。この状況を楽しんでいるが故、更に心が重くなっているようだ。
「くくっ、これだから"理持ち"は面白いのじゃ」
「これは、唯では済みませんよ――」
《桜魔神影流-刀剣の理-剣聖-二刀流-虚気平心-一撃必殺-疾風迅雷-天刃-守護者》
―――桜魔神影流・秘奥:命桜神閃・蒼月百華
深緑の一閃が空間を別ち、蒼の斬撃が降り注ぐ。
「我も、遊ばせてもらおうか」
切り取られた亜空にて、蛇は踊り、桜は舞う。
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次の投稿は10/9(日)です。
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◆技解説
スキル技録
桜魔神影流:八重桜・陽炎八段 八重桜・陽炎三段の八撃バージョン 虚実と本物の斬撃の個数は自由に調節可能
桜魔神影流・双刀:八重神桜・雲耀十六段 一刀から八撃ずつ、二刀で十六の斬撃を順に連続で放つ技 虚実の交じりなどは特にないが、代わりに亜光速の程の速度で飛翔する
桜魔神影流・刀装:十束之桜・天之尾羽張 一時的に使用者の刀に神気を纏わす術 使用者にも神気の一部が流れ、身体能力を底上げする 制限時間あり 副作用あり
桜魔神影流・秘奥:命桜神閃・蒼月百華 二刀で同時に二つの技を使用 一刀では空間ごと切断する居合、もう一刀で空から落ちる斬撃を無数に放つ『秘匿事項あり』
神級武術・蛇道:星雲の剣陣・蛇螺転輪 構えを取らずとも極度の集中状態になり射程範囲内に入った攻撃を反射で撃ち落とす 攻撃するたびに不可視の刃が現れ、攻撃を防いでくれる 制限時間あり
神級武術・蛇道:炎天を貫く・冥蛇奈落暗技 非実体をも貫く突きを放つ 使用者の魔力を消費しどんな構えからでも無動作で放つことが可能 即死効果あり
◆蛇足
語り部「蛇王、何やってんの?」
蛇の王「暗躍じゃ!何もしていないようで、何かしとるんじゃよ、我」
語り部「居なくなった理由も出て無いし、色々怪しいよね蛇王」
蛇の王「ひょっとしたら、我が黒幕かもしれぬぞ?」
語り部「今そう言っている時点で絶対に無いだろ、もし本当だったら。蛇王は後書きで真相を語った愚か者ってことになるし」
蛇の王「メタいのう……だが理はあるんじゃよな」
語り部「そういうこと!――と、いうことで次回、1章最終話、黒剣は、極星を墜とす。皆楽しみにしてくれよな!」




