1-16 序章・八岐大蛇
「――はっ!!」
「やっと戻ったか」
まるで水中から浮上するかのように意識が覚醒する。
意識が途切れる寸前まで感じていた独特の浮遊感が綺麗さっぱり無くなり、正常に戻った筈なのにどうしようもない違和感がライトを襲う。
そんなライトの顔を、いつも通り現実離れした美しさのヨルが覗き込む。
ライトは、ゆっくりと身体を起こす。立って魔法を使用した筈だが、倒れていたようだ。
「……何か少し怠いです。僕どれくらいこのままだったんですか?」
妙な倦怠感を感じ、ライトはヨルに尋ねる。すると、ヨルは呆れた顔を向け、口を開く。
「"五日"じゃ」
「五日ッ!?え?本当ですかっ!?」
「本当じゃ、我がどれだけ暇したと思っておる」
「え……本当、みたいですねぇ……」
あまりの衝撃に、ライトは開いた口が塞がらない。嘘だと思いたいが、訴えかけてくるヨルの半目が、その思考を許さなかった。
体幹では、二日ほどだったが、かなり感覚のズレが生じていたようである。
「まあその間、色々と"開発"して楽しめたから良しとしてやるがのう」
「……開発?何のですか?」
「それはまあ……色々じゃよ……」
「いや何したんですかっ!僕の身体に何したんですかっ!?」
顔を逸らし、嫌な予感満載のことを言ってくるヨルに、ライトは詰め寄る。
対するヨルは、どこ吹く風でライトを躱す。
「そんなことより、術を考えよ。既に五日と半日、アインに居た時も合わせれば六日経っている。我もうこの景色見飽きたから早くせよ。術の根底となる言葉は見つけたのだろう?」
「……はぁ、分かりましたよ。蛇王様」
「我を蛇王と呼ぶな、ヨルと呼べ」
「了解ですよ、蛇王様」
「おいっ――」
「――ふぅ……」
はぐらかすヨルに対して、ライトは話を聞かないことで対応した。
そして、外部の刺激を全て断ち切るかの如く集中し、既に酷使により披露し切っている頭を働かせる。
術の原形は既に出来ている、それに手に入れた言葉をどう差し込み、完成させるか、それが重要だ。
策士は、意地の悪い笑みと共に、想像を術と成す。
時にして1時間が経った。
遂に完成したのだ。蛇の形をした罠の塊の術が。
「くくっ、出来上がりました。出来上がりましたよ!!――ヨルッ!!さっさとあの怪物倒しますよ」
抑えきれない興奮が、ライトの口を歪ませる。
魔法が術者の思考を具現化したものであり、複雑な発動過程が要らないと同じように、大して制限の無い蛇王蛇法の術を作るのは、ライトにとって疲労を忘れさせる程に楽しい作業だったようだ。
それを傍から見ていたヨルは、
「お主、最高に気味が悪かったぞ、平気で幼子を攫ったり、深夜に路地裏で怪しい薬を売ってそうなくらいにな」
「そこまでですか……」
と、ライトに言い放つ。
流石にそこまで言われると思っていなかったライトは、動揺し、流石に少し気を付けようと心に誓った。
まあ、きっと意味はないだろう。
「して、術は完成したのじゃな?」
「はい、完璧ですよ。罠を大量に仕込んだ渾身の術です」
「では、その成果、とくと我に見せよ」
大きくヨルに頷き、五日ぶりに試練獣へと向き直る。同時に、ヨルが張った魔法の結界が砕け散った。
―――神喰螺旋蛇杖
鈍色の塊が眼前に迫る中、手にを黒き蛇の王の杖を握り、ライトは言葉を紡ぐ。
―――序章・八岐大蛇
溢れ出した"黒"が鈍色の塊を喰らい、肥大し、形を成す。
蛇の王のような艶のある鱗ではなく、空間が切り取られたと錯覚する程に真っ黒な、闇を固めたような鱗が表面を覆い、それぞれ色が違う八対十六個の瞳、八つの頭を持つ黒き大蛇が顕現した。
因みに大きさは、2kmあるかないかの高さの、この空間の半分くらいの位置に八つの頭があるくらいだ。
つまりクソデカい、試練獣とタメ張るぞコレ。
「良い眺めですね。さて、確認です。……飛来する塊は迎撃結界で落せるくらいですか、有難い」
ライトはというと、八岐大蛇のピンと立った一本の尻尾、その上に居る。いや、嘘だ、その尻尾の上に展開された結界の上に居るのである。
だが、幾ら立っていても尻尾は、頭の位置の半分ほど、これでは、視界が遮られていて困――らない。
何故なら、ライトの腕には、見慣れた白い蛇が巻き付いているからだ。
これにより視界は明瞭、複数個同時に飛来する鈍色の塊が、八岐大蛇に周囲に張られては消える薄い膜に止められているのも丸見えだ。
塊にが効かないと判断したのだろう、試練獣に動きが起こる。
顔らしきクソデカ仮面から伸びる無数のパイプが、一斉に蠢き複数個に纏まり始めた。
それ自体は塊の製作と大して変わらなかったが、出来上がった物が全く違う。
壁から直接伸びる巨大な灰色の筒――大砲、にして規模が大きすぎるが、それが数にして十個。
「砲撃ですか、受けて立ちます」
<数では負けておるが、大丈夫なのかえ?>
「問題無しです――受けて立つと言っても、僕は受けませんよ、自滅してもらうだけです」
<むっ?どう――>
ヨルの念話が、十の轟音に搔き消される。
放たれたのは、金属の塊などではなく、圧縮された熱エネルギーの塊。
それは、音が響いた瞬間には既に八岐大蛇に当たり、ライトが粉微塵になっている――筈だった。
再度十の轟音が鳴り響き、大砲が全て弾け飛ぶ。
ライトの笑みに浮かぶのは、満面の笑みだ。
<ライト、何をした?>
「ただ返しただけです」
<むむむ~、この術、所々我でも解析できぬところがあって、分からぬのじゃ!勿体ぶっておらず教えよ!>
「分かりましたよ」
再びパイプ共が動き出すのを脇目に、ライトは意気揚々と口を開く。
「序章・八岐大蛇は、純粋な蛇王蛇法じゃありません。僕の虚の理とリンクさせて完成させています」
<成程な、だから蛇王蛇法だけで解析すると分からぬのか>
サラッと言っているが、虚属性魔法の極致である虚の理と蛇王蛇法は全くの別物、その根底から何から何まで異なる。
それを融合させたということは、とんでもないことだ。何故そんなことをライトが出来るかと聞かれれば、ライトが天才だからに他ならない、それ以上は説明の仕様が無いのだ。
「この術のコンセプトは、"反射"です。このデカい図体持ってますけど、これ自体には、攻撃機能を付けてません、火力も足りませんしそんな複雑なの作る時間もありませんでしたしね。……端的に言うと、この八岐大蛇は言わば馬鹿デカい杖なんですよ」
<杖かえ?>
「この体は虚属性の魔力を蛇王蛇法で物質化し、増幅させ、圧縮したものです。当然蛇王蛇法で手を加えようとも魔力は僕のですから、僕の好きに使える。この八岐大蛇の何処からでも、僕は魔法も蛇王蛇法も使えるってことです」
<それがどうコンセプトと繋がるのじゃ?>
「それがですね――」
ライトが語ろうとすると、今度は二十の轟音が響く。
そしてその直後にまた二十の轟音が響き、同じように新しく作られたのであろう大砲がぶっ壊れていた。
それをチラリとライトは、再度口を開く。
「簡単ですよ。ただ魔法を使い続けているだけ、それだけで今のことが起きています」
<そんな魔法……ああ成程、超級時空魔法:カウンターゲートじゃな?>
「流石ヨル、当たりです」
超級時空魔法:カウンターゲート、の効果は単純だ。使用者に迫る攻撃を転移させて相手に返す、それだけだ。
ただ空間や次元ごとぶっ壊すような攻撃は返せないし、転移の要である"ゲート"を避けられたりしても返すことが出来ない。
そして、魔力消費が鬼高い上に、発動している間常時魔力が使われる。通常の人間が使用すれば一秒使用しただけで昏倒するだろう。
<何故常時発動していられる?我の見立てでは、ライトの魔力で一分が限界という処じゃが?>
「そうなんですけど、コレが八岐大蛇の凄い処です。蛇王蛇法で、正式発動していない間の魔法を喰らい、それをまた増幅させて魔法に使うというシステムを作ったんですよ」
<……どうやってじゃ?>
「ん~こう何か、感覚で?名称はウロボロンシステムとしました」
<流石じゃな、ライトは天才じゃ>
尚も轟音が響く中、首傾げるライトにヨルはそう言う。
言葉には裏も偽りも無く、心からの称賛だった、実際に自分には出来なかったものを創り上げたのだから。
「では、そろそろ本気で――あれ?」
[情報収集完了、これより排除を開始します]
空間に合成音声のような声が響く。
ライトの視界に映ったのは、真っ二つに割れる巨大な仮面、その中から現れた人型のナニカだった。
◆投稿
次の投稿は、9/8(木)です。
◆読者の皆様へ
皆様、急な気温変化及び季節の境目の体調不良にお気を付け下さい。
私は、しっかりやられて風邪を引きました。
◆作者の願い
『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ
後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!
その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!
してくださると作者は嬉しすぎて、涙が滝のように溢れます。
□■□■□
◆技解説
蛇王蛇法技録
序章・八岐大蛇 八岐大蛇を使用者の魔力を増幅圧縮物質化して形成する 慣れは必要だが操作移動可能 攻撃機能なし 魔法など遠距離攻撃の起点として利用 現力を攻撃に補正が掛かる 疑似的に現力の貯蔵庫として利用可能
◆蛇足
蛇の王「今回の休みの内に色々と変えたようじゃな?」
語り部「タイトルとキャッチコピー、それにステータスの枠の改変と間隔を無くす編集をしたぜ!風邪を引きながらな!」
蛇の王「やったのは、お主ではなく作者だがな」
語り部「これでいいんだよ、したことを文字にして伝えるのが僕の役目だからさ」
蛇の王「そうかのう……本編に関わる話をしておらんな」
語り部「ふ~む、ライトの天才具合が凄いくらいしか言うことないな。発想だったら蛇王超えてるかもしれないしな」
蛇の王「ライトは我と同じ例外だからな、これからも成長していくぞ!いずれ我おも超えると信じておる!」
語り部(お前を超えるのに、一体どれだけの時が必要だろうな……いや、やっぱりコイツ超えるのとか無理じゃね?)
語り部は、重い期待をされているライトの未来に幸あれ、と願った。




