1-13.5 怒髪天を衝く蛇王
ギルドマスターの執務室にて。
執務机に向かい、水晶玉から投影された映像を見ているソヨ。
映像に映るのは、"ダンジョンを探索する"ライトだ。
それを見ながらソヨは、深い安堵の溜息を吐く。
(ふぅ~良かったよ、ライちゃんが良い子で。トアから聞いてて心配はしてなかったけど、もし悪い子だったら、こっちも対応せざるを得なくなってた。で、対応してしまうと……ちょっと前みたいなことになるんだよね……うぅ……今思い出しても怖い……)
ソヨは、身震いをしながら、前日のことを思い出していた。
◆◇◆
場面は、ライトが気絶した直後である。
ライトが気絶し地に伏した瞬間、漆黒の拳がソヨへと振り下ろされた。
そんなことをしたのは誰かというと、当然ヨルだ。
間一髪、その拳を躱したソヨは、距離を取り訓練場を砕き壊すヨルの方を向く。
《蛇之覇王-蛇王蛇法-円環の理-虚の極致-波瀾万丈-神喰-隔絶-叡智-怒髪天》
―――天蛇創造・斗折蛇行
―――再事翼蛇=時空の理:≪物質崩壊の時空牢≫
―――再事翼蛇=時空の理:≪精神構築の時空牢≫
虚空から現れた半透明な蛇が訓練場の舞台を包み、舞台を時間・空間・次元、全てから隔離した。
更にヨルの足元から溢れた二つの灰色の波動が、領域内から物質が消し、精神を代わりに存在させる。
足場も壁も無い、だが浮遊感は無く、確かに立つことが出来るのだ。
周囲は、星々が輝く銀河のような風になっている。
滝のような冷や汗が流れるのをソヨは感じた。
「これは、結界?どうしたのヨルちゃん、前は周囲の被害なんて気にしてなかったのに」
「気安く我の名を呼ぶな。ソヨ、いや"始地神"ヨグ・ソトース」
「ありゃりゃ、これはブチギレてるね。やっぱそこの男の子が、理由かな?」
お茶らけた言動をしているソヨだが、内心焦り散らかしている。
(いや、ヤバいヤバいヤバいよっ!?マジでキレてるっ!?トアとナイちゃんからの情報で知ってたけど、あの子が蛇の王のお気に入りの子か。ギルドマスターの仕事と言えど、流石にミスったかも……)
「ああ、そうだ。不思議ながら、いや不思議でもないか。我は今、怒っている、我が伴侶に危害を加えた貴様にな」
「は?伴侶?てことは婚約?結婚?あのヨルちゃんが?」
額に青筋が浮かび上がり、目に見えて怒りを判断出来るヨルに、ソヨは何とか心を落ち着かせる。
が、直後に予想だにしない言葉を聞き、思わず聞き返してしまう。
「ああ、この婚約紋を見よ」
「……それ、マジの奴だねぇ……相手はやっぱりそこの……」
「そうだ……殺しはせぬが、真面でいられると思うなよ?」
(ヤ、ヤバいぃ……これは地雷を踏みぬいてるぅ……何で婚約してるのぉ?不味すぎる、私の神生が終わるかもしれない……)
自身の失敗が恐らく取り返しのつかない所まで来ていることを悟ったソヨは、同時に終わりも悟った。
すると、ヨルが虚空から、一本の長剣を取り出す。
それを見た瞬間、ソヨの顔が青白いを通り越して真っ青になる。
「そ、それは、か、"神殺し"ぃ!?ま、不味いよ。それ、私死んじゃうよ!?この結界だって私達の神を殺す用の結界でしょ!?」
「この世界に七つしか存在しない神殺し、それを貴様に使ってやると言っているのだ。恐怖するのではなく、感謝せよ。久方ぶりの我が相棒も、貴様を歓迎しておるしな」
(いや、無理を言うなぁ!?無理無理、私の命懸かってるからぁ!?)
神というのは、物質として存在していない。ヨグ・ソトースは、今居るソヨという作り出した身体を依り代に存在しているだけであり、精神体なのだ。
ヨルが張った二つの結界は、理を捻じ曲げ、最終的には物質を精神体に置換する力を持つ。
つまりこの結界内では、神に直接攻撃を加えられるということである。
「安心せよ、先程も言った通り、貴様を殺しはせぬ。ギルドマスターという立場である貴様を殺すとライトが困るからな」
「命は保証されてるってわけねぇ……」
(いや怖いよ!?きっと殺しはしないけどとんでもないこと、私にするつもりだぁ……終わった。でも――)
「――こっちも黙ってやられる気は無いよ?」
ソヨは、震える手に虚空から取り出した緑と黄色の混じった篭手を嵌める。
それを見たヨルの顔には、深い笑みが浮かぶ。
「そうこなくては、貴様を甚振るのは、それはそれで面白そうだが、やはり殺――戦い合う方が我は好みだからな」
(怖ッ!?何あの笑み、凶悪過ぎなんだけど……それにさっき殺し合うって言おうとしたよね?やっぱ私死ぬのかな?)
内心、やっぱ止めておけば良かったと思うソヨ。
だが、もう引くことは出来ない。
《蛇之覇王-蛇王蛇法-円環の理-風の極致-疾風迅雷-神喰-隔絶-叡智-怒髪天》
―――再事翼蛇・事実改変=雷電の理・変異:≪超越星速の黒雷装≫
掌の魔法陣から生じた紫黒の雷がヨルの右腕へと浸透し、その腕を紫黒の光へと変異させる。
刹那、ヨルがソヨの視界から消えた。
「――ッ!?――グッ!!」
「全くもって遅いのう」
ソヨの背後に回り、ヨルは光の拳を振う。
それは正に光の如き一撃、ソヨは反応できず真横に大きく殴り飛ばされる。
というか、剣持ってる癖に剣使わないというね。
「それは、雷神の概念融合かぁ」
「処でヨグ・ソトースよ。貴様は、何故我が殺されもせず封印されていたか分かるか?」
「何言ってるの?それは、"あの二人"がヨルちゃんを封印することにしたからでしょ?」
ソヨだって、古の当時は戦ったことは無かったが、ヨルという存在を知っている。
自分達が創り出したミルフィリアで生まれた、始まりの『特異点』。
始原にして最強の蛇、それがヨルムンガンドという存在だ。
「貴様は、何も分かっていないな。我は『特異点』として世界に仇名す存在として排除されようとしていた。それは貴様も知っておろう、では何故に我は此処に居るのじゃ?」
「確かに私達は、ヨルちゃんを消すことにした。余りにも強すぎる力は世界の均衡を崩すから、でも何故か、あの二人は、結局の処ヨルちゃんを殺さなかった……今思えば、それは、どうしてなんだろう?」
「理由は単純なのじゃ、"殺せなかった"から、それに限る」
「は?何言ってるの?あの二人が、この世界の創造者が殺せないことなんてことはあり得ない」
ソヨは、ヨルの言葉に驚きながらも、冷静に言葉を返す。
それを聞き、ヨルは笑う。
「そうかそうか、どう考えようが貴様の自由じゃ。そろそろ戦いに戻るとするか、少しお喋りが過ぎたな」
「そうだね、私も本気で行く。さっきは普通に殴られたから良かったけど、神殺しなら致命傷だったしね」
―――神威解放
ソヨの雰囲気が切り替わり、その身体から黄緑色の神気が溢れ出し、周囲に無数の球体が現れる。
「私も神だからね、やっぱり負けれないよ」
「ああ、我を楽しませてくれ」
◆◇◆
(いや~何か高揚してたから、やっちゃったけど、命知らず過ぎでしょ私。死んでも全然可笑しくなったよ、本当に)
そう思いながら、ソヨは先程とは別の溜息を吐く。
すると突如、水晶からけたたましい音が鳴り響いた。
「――なっ、何ッ!?」
『『黒剛の王』の彩王紋を確認、今代の試練記録を検索』
『該当無し、これより今代の『黒剛の王』ライト・ミドガルズの"神の試練"を行います』
「え?いや、え?聞いて無いんだけど、トアッ!?ライちゃん!?どういうことっ!?」
ソヨは、事態を理解している様で出来ておらず、混乱している。
「むむむ~、どうしよ。ライちゃんが『黒剛の王』なんて聞いてないよ、トアの手紙にも書いてなかったし……と言っても、試練が始まった以上は私から介入できないし、仕方ない、見守ることにしよう」
何となくだが、今日は忙しくなる予感がしたソヨであった。
それでは、さあ、始めようか神々が見守る、王に課す試練を。
◆投稿
次の投稿は、9/2(金)です。
◆作者の願い
『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ
後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!
その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!
してくださると作者は嬉しすぎて、涙が滝のように溢れます。
□■□■□
◆技解説
蛇王蛇法技録
天蛇創造・斗折蛇行 指定した場所を理と法則を捻じ曲げて世界から隔離する 蛇が範囲を包んだ時点で発動
再事翼蛇 実際に目にした事象を世界法則を捻じ曲げて完全に再現する『秘匿事項あり』
再事翼蛇・事実改変 再事翼蛇で再現した事象をその事象の形を留める範囲で改変する 説=例:雷が降る→氷を降る は不可能 例:雷が降る→千の雷が降る は可能 雷が降るという事象だと認識できる範囲内なら幾らでも改変可能
スキル技録
神威解放 依り代により制限された力を解放する 間隔時間あり『秘匿事項あり』
魔法技録
雷電の理・変異:≪超越星速の黒雷装≫ 使用者の身体又は身体の一部を黒雷と融合させる 身体能力(主に速度)強化バフの術『秘匿事項あり』
◆蛇足
蛇の王「くお~我、カッコイイ!!」
語り部「格好、いい……か?」
蛇の王「何じゃ?カッコイイじゃろうが、我」
語り部「いや確かに、強者の雰囲気はあるけどさ……いや、何でもない格好いいです」
蛇の王「そうじゃよな?」
語り部(圧凄ぇ、あと直ぐに拳を振り上げないでくれ、マジで怖いから)
蛇の王「我、物分かりの良い奴は好きじゃぞ」
語り部「はい、僕は物分かりが良い男です」
語り部の笑顔が引き攣っていたのは、言うまでもない。




