1-4 迷宮都市へ⑤ それは奇跡か異常か
真っ白で透き通るような肌、インナーカラーとでも言うのか内側だけが黒い床に広がる程長い白髪。
吸い込まれてしまいそうな程に美しい白亜の瞳、その身を包む簡素なドレス。
ライトの中では、ヨルと並ぶ程の美少女だ。
しかしながら、その顔には生気は感じられない、無表情も無表情である。
「貴方は、誰ですか?」
「……――っと、すみません」
不意打ちと驚きのコンボにより、ライトは彼女に言葉を返すのを忘れていた。
「いえ、貴方様が謝罪をする必要はありません」
「そう言ってくれると助かります……ん?」
それ程変ではない、普通の会話。
だが、同時にライトは、強烈な違和感を覚えた。
けれど言葉に出来ずに、取り敢えず名乗ることにした。
「僕は、ライト・ミドガルズ。トリスさん、セイク商会の護衛として雇われた冒険者です」
「そう、ですか。私は、ミスティアナ、奴隷です」
「ミスティアナ……ですか」
ライトは、彼女――ミスティアナの声を再度聞き、違和感の正体に気付いた。
彼女の声は、平坦なのだ。
直接的に言えば、抑揚が少ないというところだろうか、AIの機械音声くらいには感情を感じる抑揚の無さだ。
「今回は、どのような用件で来られたのでしょうか?」
「どのような件、ですか?……一言でいえば、貴方を見たかったという処です」
「私を、ですか……」
その言葉を聞いた瞬間、ミスティアナの髪の色が少し濁ったように感じた。
ライトは、少し言葉の使い方を失敗したと判断した。
(彼女は奴隷。そんな品を見に来たみたいな言い方は不快に、いや嫌悪すら感じても仕方が無い。間違えましたね)
「少し訂正しましょう。僕は、貴方を品として見に来たのではなく、貴方という人を見に来た。いや、知りに来たという処ですね」
「私を、知りに?どういうこと、ですか?」
ミスティアナはライトの言葉の真意を理解できていないという感じである。
「貴方は、自分をどう思っていますか?他と違う自分を」
「自分を……分かりません。何も、感じませんから」
「何も感じない?」
今度はライトが、ミスティアナの言葉を理解できないでいた。
何も感じないという言葉が、何に対して使われているか判断できなかったからだ。
すると、
<そういうことか、分かったぞ>
そうヨルが告げてくる。
(何がですか?)
<『天羅の忌子』という存在の正体についてじゃよ>
(え?ヨル「こればっかりは全く分からん」って言ってたじゃないですか)
<我を舐めるな、解析くらい出来るわ>
実は『天羅の忌子』について此処に来る前に、ライトはヨルに聞いたのだが、その時にヨルは珍しく全く分からないと口にした。
いつもの裏がある感じではなく、割と真面目な感じで全然知らないと言っていたのである。
<でだ、『天羅の忌子』について聞くかえ?>
(当然ですよ、彼女についてもっと知らなければ)
<そこまでライトがこの女が気になる理由も、少し分かったぞ。先ず、天羅という存在について訂正しておこう>
(天羅という存在について?)
<そうだ、天羅は確かに神々直々に作られた。だが、そもそもは種族として創られていない>
(なら何の為に……)
<"駒"じゃよ、"駒"。我を、いや我々を殺す為のな>
「え?」
その予想外の言葉に、ライトは思わず声を漏らしてしまう。
ヨルとライトの会話は、当然のようにミスティアナには聞こえない訳で、
「どうかしましたか」
「すみません、少し驚いただけで……」
「……?」
(どういうことなんですか?)
<そのままの意味じゃよ。天羅は、神の駒として創られた存在。ミルフィリアで創造された生物史上最も強い生物だ、今の天羅の元はな>
(そう、なんですか……)
ライトは、混乱している。
この一年で何度も感じた、常識が崩れて行くような感覚を覚える。
<その時の、我を襲った天羅は正に白一色の人形といった感じだ。意思や感覚は無く、ただ命令を死ぬまで遂行する白き駒、それが我の知る天羅だ>
(僕の知る天羅ではありませんね……ん?感覚が無い?)
ライトは、真っ白な彼女を、ミスティアナの方を見る。
先程彼女が何も感じないと言ったのを思い出していた。
(もしかして、彼女は……でも可笑しくないですか?ヨルが言っているのは、昔の天羅なんですよね?今の種族として、僕の推測ですが改良された天羅は僕の知っている天羅の筈です)
<ライトの推測は恐らく当たっているし、確かに可笑しい。だが、この世に異常が存在することは、お主も嫌ほど知っているじゃろう?>
(そういうことなんですか……やはり、彼女も僕と同じ)
<我とも同じ>
ヨルの話と自身の推測から、確かなものへと変わった己の考えを脳内で唱える。
(例外ですか)<例外じゃな>
(それで、僕と同じような、それ以上の酷い過去を持っているってことですか)
<それも確かではあるが、ソヤツはそこまでそれは気にしていないだろう。ソヤツには、昔の天羅の性質が出ておるからな。恐らくじゃが視覚と聴覚以外の感覚は、ほぼ機能していないだろう、だがそれでも普通に行動できる、それが昔の天羅だからな>
(なるほど……)
<そしてその性質が中途半端に出ている今の天羅こそが『天羅の忌子』の正体であろう。感覚が少ないから、感情も希薄になる、そうやって生まれながらにして心を摩耗してきたのだろうな>
(…………)
ライトは、ヨルより得た情報を再度自身の中で整理する。
そして、思考を落ち着かせ、ミスティアナの前にゆっくりと移動した。
「貴方は、本当に何も感じないんですか?」
そう言いながら、ゆっくりとミスティアナへと手を伸ばした。
「何も、感じません。私はそうい――ヒャッ」
ライトの手が、座ったままのミスティアナの手が触れると、何かに弾かれたようにミスティアナは反応する。
その反応に、驚いたライトは反射的に手を引っ込める。
「――あ、れ?……何を、したのですか?」
「いや、寧ろ殆ど何もしていないのですが……ただ触れただけですけど……」
ライトは、表情があまり変わらない為に分かりずらいが、恐らく訝しむような視線を向けて来ているミスティアナに困惑する。
ただ触れただけ、彼女には触覚が無い筈なのだから、この行動は意味は成さない……筈だった。
ミスティアナは、立ち上がりライトとの距離を詰める。
「ち、近っ」
「確かめたいことが、あります」
「きょ、協力するので一度離れて下さいっ」
「駄目です」
そう、そもそもライトとミスティアナは手を触れれる程の距離なので、詰める距離なんて殆ど無いのだ。
今二人は、密着はしていないがお互いの吐息が掛かる程の距離である。
焦り恥ずかしがるライトをガン無視で、ミスティアナはライトに手を伸ばし、触れる。
「っ!?」
「あっ、あの大丈夫ですか、何か痛かったり……」
「これが、痛いという感覚?なのでしょうか?よく分かりません。でも、少し違う気がします」
「そう、ですか……ッ!?何か感じるんですか!?」
ライトに触れては、弾かれたように驚いて手を放すミスティアナを見て、ライトは何かあるのかと反射的に痛いという表現を使って聞いた。
だが、本来ならそんなこと聞いても意味が無いのだ、彼女には感覚が無いのだから、痛みも感じ無い筈である。
そして、彼女から返って来た言葉に驚く。
その反応は、何かを感じていなければ、返って来ない言葉だったのだから。
「これが、感じるということであるならば、多分感じています。感覚というものが正確には分かりませんが、恐らくこれが感覚なのだと思います」
「でも、どうして……?」
「分かりません。でも貴方様に触れていると、何かを感じます。不思議です、触れると何かぽわぽわ流れてくるような広がるような……よく分かりませんが、嫌ではありません」
「そうっですかっ、あのくすぐったい――ってあれ?」
分からないと言いながら、ライトの全身に触れてくるミスティアナ。
それをくすぐったく感じる中でライトは、ミスティアナの髪の色が変わっていることに気付く。
インナーカラーが黒から橙色に変わっていた。
「何かありましたか?」
「いや、色がぁ――えぇ?」
「どうかしましたか?」
「橙色から、緑色に変わりました」
「何が、ですか?」
「髪の色がです」
橙色だった内側の髪が、ミスティアナが疑問を口にすると緑色に変わった。
ライトは、恥ずかしさより興味の方が勝り、冷静になったようである。
「もう少し、ミスティアナさん、貴方を知りたくなりました。少し協力してもらえますか?」
「……?よく分かりませんが、私は奴隷なので、従っておきます」
こうして、二人だけの夜は更けて行く。
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◆蛇足
語り部「ミスティアナは、15歳だが既にライトと変わらないくらいの身長だぞ!」
蛇の王「ライトは、やはり背が低いのう、年下に背が追い付かれ過ぎではないか?」
語り部「因みにライトの身長に関しては、これから先に成長の見込みはない」
蛇の王「言い切りではないか。なんと可哀そうよのう、可能性が無いということか」
語り部「その通り、ライトの根本設定にちょっと関わるけど、現在の160㎝以上には絶対に成長しない」
蛇の王「む?ライトの身長が160㎝ということは、本編で言っていたかえ?」
語り部「あ、言っていなかったかも。まあいいや、そう考えるとイグニティってライトとあんまサイズ変わんないんだよな」
蛇の王「確か150㎝程じゃったか?考えれば、結構アンバランスではあるな」
語り部「その通り、実はイグニティは背中に掛けているがそのままだとどこぞの剣士のように格好良く引き抜けない。ライトはいつも一度背中から外して、鞘を手に持って抜いてから、鞘を背負い直しているんだ」
蛇の王「サイズ的に仕方ないな。何でもっと小さくしなかったんじゃ?」
語り部「作者が小さな体に大きな武器という組み合わせが好きだからだ。杖状態のヨルだって2mあるんだぜ?普通にデカいだろ?」
蛇の王「そこは、ハッキリ言ってしまうんじゃな……」
何故か配慮をしない語り部に蛇の王は呆れた。
あの、小柄×大型武器って格好良くないですか?自分は滅茶苦茶好きです。




