12ー5
食堂で起きた茶番劇はなんだったのか?を講義のあとでクサンデルを除く三人に語らせた。
場所は学院の食堂だ。
学課外活動に参加している学院生以外は帰宅したあとなので、食堂は無人とはいえ、いつ誰が入ってきてもおかしくない。
オレが戦っている姿を見て、そして問答無用で処刑されそうになったことで、アルナウト、フロール、ロキュスはものすごく色々考えたらしい。
何を色々考えたのかまでは教えてくれなかった。
オレが復調したら復学することは、早々に学院側に伝えられていたらしい。
現時点で貴族も庶民も関係なく、成人まではオレに手出しするな、と王命が発令されているらしい。
そんなにしてまで、卒業証書が必要なのか?
その辺の詳しいやりとりは、ヴュルフさんから聞いた〝シライソンキの意思〟ってやつなのかもしれない。
まあ、個人的には友人たちと今までどおり過ごせるなら、学院だろうがどこだろうが構わないと思っている。
とにかく、いくら手出しをするな、と公布されていても、友人同士の交流や金銭取引のないお願いレベルなら、止められない。
多分な。
つまり、学院に所属している貴族の子息令嬢が、オレの新しい友人に……とすり寄ってくる可能性が、とても高いとヴュルフさんが判断したらしい。
そして貴族を近づけないための作戦を立案したヴュルフさんが、サッセン隊長にクサンデルの協力を持ちかけて、クサンデルからアルナウト、ロキュス、フロールに話が流れた。
これまでの交友関係を、表でも通用する肩書きで強化することで、脅威?である貴族を近づけないというのが、今回の作戦の狙い。
擦り寄ってくる貴族子息令嬢が、なんの取り柄もない一般庶民がギュエスト実働部隊部隊長の側にいるなよ、と言ってくるのは考えるまでもなく分かりきっていたので、側にいることでオレに利がある、とアピールする目的で人が多い場でのサプライズ計画が組まれた。
そしてスロースが動いたことで、ロキュスたちも周囲に見せつけるために動いた。
事前にフロールが庶民学院生に決行が近い!って噂を流していたから、食堂に人が多かった。
なんで庶民の学院生たちに広めてあるんだよ。
情報網が広すぎないか?
作戦大成功——って言われてもさ。
復学してから、アルナウトやロキュスがオレを避けている、ってものすごく落ち込んでいたのに。
なんだよその計画!
なんで当事者のオレに教えられてないんだよ!
「ヨーくんごめんねぇ、あ、このシリアルバーは新しい味で、ヨーグルト風味のベリーと、チーズとブルーベリーなんだけど、感想を聞かせてくれないかなぁ?」
「……」
「悪かったって、せっかくやるなら大々的に見せつけてやろうと思ったんだよ、ちょっとやりすぎたけど」
「……」
「なあ、ヨー、庶民で落ちこぼれの俺たちじゃ、いじめられて追い払われて終わりだったと思うんだ。
努力を認めてほしいんだけど」
「……」
「お前ら、ふざけてないで本気で謝れよ。
概要だけは聞いてた俺も驚いたんだからさ、ヨーはもっと傷ついてると思うぞ」
クサンデル、その言い方だとオレが拗ねて、意地を張ってるみたいにしか聞こえないんだけど。
「「「ごめんなさい」」」
打ち合わせでもしたように三人の声が重なる。
やばい、一瞬だけど三人が第一隊の三バカトリオに重なって見えた。
フロール、とりあえずシリアルバーをそっと差しだすのはやめてくれ。
アルナウト、こっそり上目づかいで様子を伺うな、あと手に持った撮影用魔術具をこっちに向けるな。
ロキュス、今のニヤついている表情と言葉があってない!
ああ、もう仕方ないな。
オレだって、お前たちと一緒にもっと遊びたかったんだよ!
「次は仲間に入れてくれ」
……しまった。
どう聞いても仲間外れにされて寂しかったよ……みたいにしか聞こえない。
でも、本音を言うとそうなんだよな。
「もちろん」
「次はない方がいいだろ」
「ぼくたちは同士だよ」
こうしてオレは三人から言質を得た。
「そう言うことなら、付き合ってもらうからな」
「「「え?」」」
一方的なサプライズに付き合わされた、で終わりにしない、こっちも驚かせてやる。
◆
「ほ、ほ、本当に本部に入っていいのかっ!?」
「アルナウト落ち着けって、うわ、あっちにマッチョがいる!あ!あっちにも!マッチョだ!マッチョだぞ!」
「ここにくいこんで商売するとして、新参者でも一番利益を上げられるものは 」
「なあヨー、本当にいいのか?俺たち一般人だぞ?
親父に叱られないか?」
「クサンデルちょっと待って、あまり騒ぐな、許可は取ってあるけれど目立ちたくない」
「もちろん!」
「大丈夫だよぉ!」
「ラジャッ!」
遊園地に来た子供のように目をキラッキラさせている二人と、一人だけ普段と全く違う目をギラギラさせた笑顔のフロールに忠告をしていると、クサンデルが困った顔をして、ぼそりと呟く。
「……本当に俺も行かないといけないのか?」
「頼む」
「分かったよ」
クサンデルがいてくれないと、オレが保たない。
一人であの三人を制御するのは無理だと思う、一瞬とはいえ三バカトリオが重なって見えたせいかもしれない。
学院にいた頃も一緒に騒いでいただけで、上司でもなんでもないんだから、命令とかしたくない。
サプライズの説明を受けて、数日前にヴュルフさんに言われた言葉の意味が分かった。
突然「お客さんを呼ぶ時は事前に連絡してください」と言われて、何のことだろう?と思っていたけれど、発案者として作戦の参加者を呼べってことだったのか。
学院を出る前に、固定通信具で連絡をして、本来なら無関係の学院生を中に入れる許可も得ている。
部外者の立ち入り厳禁はどこにいったんだ?
三階の統括部隊の各控え室の最奥には、ヴュルフさんの、統括部隊部隊長の執務室がある。
数日前に呼び出されて初めて入った部屋は、前に連れて行かれたヴュルフさんの家の雰囲気そのままだった。
作りは他の部屋と変わらないはずなのに、なぜか贅沢で質素な部屋だと感じる。
部屋の中に置かれた調度品は黒っぽい木目の物が多くて、部屋の中全体が落ち着いた雰囲気をしている。
なんかすごく落ち着く、と思ったら、森で暮らしていた時のオレの部屋に似ているからだ、と気がついた。
オレが四人を連れておとないをしてから入室すると、今日も眠い猫を思わせる、穏やかな表情のヴュルフさんがにこやかに微笑んでいた。
「ようこそ」
「は、はじめましてっっっ」
「初めましてじゃないぞアルナウト、前に学院に来てくれた人で、俺の雇い主だよ」
「お久しぶりでございますクショフレール地主男爵様」
「フロール!ここで商売を始めるなよっ」
「ははははは、君たちはなかなか愉快だね、ヨドクスの友人として合格点をあげようかな」
ヴュルフさんは、何でいきなり喧嘩腰なんですか。
なんで上から目線なんだよ。
オレが知らないだけで、この人ってものすごい喧嘩早かったりするのか?
「当たり前だろ、俺たちは自慢の友人だからな」
ロキュスゥ!?何でそこで胸を張る!?
しかも自慢の友人って、自分で言ってて恥ずかしくないのかよ!
オレは恥ずかしいよ!
「くくくく……良いね、君たちは若いな。
では改めて自己紹介をさせてもらおうか。
クショフレール地主男爵家当主、ミヒル・ヴュルフ=クショフレールだ。
ヨドクス・ギュエストの大叔父にあたり、オスフェデア王国における後見人でもある。
ヨドクスの立場を考え、君たちを守るために、成人までは私の指示に従ってもらいたい」
「はい、旦那様!」
「はい閣下!」
「了承致しました、クショフレール地主男爵様」
「……はい」
前途多難だと思うのは、オレだけだろうか?
友人を救えるなら後悔しないって思ってたはずなんだけど、なんか、後悔しても良いかもって気がしてきた。
なんでオレは、必死になってこいつらを守ったんだ?
いや、守りたい気持ちは今もあるし、でもなんと言うか、初めはただ忙しかっただけの日々が、どんどんおかしな方向に進んで行く気がする。
思わずクサンデルの方を見ると、まるで考えることを放棄したような死んだ魚の眼になっていた。
オレもその目をやってみたら、仕事が減ったりするんだろうか。




