7 日常そのろく
更新遅れてホンットすみませんでしたあああああああああ!
てってってっと、軽やかな足取りでユーハルトが遠ざかっていくのを見送ったサタンはがっくりと肩を落とした。
目の前には鼻血や諸々のなんか変な液体を垂れ流しボロボロになっている生涯の親友、暗黒竜ギアルド=クルールが倒れているし、もう少し視線をずらせば魔界の魔族とは向こう1000年以上は争い続けている聖龍アヴァロンが非常に険悪な目付きでこちらを睨みつけている。
どうすればいいのか、途方に暮れたとしても無理はないだろう。
さて、問題です。
目の前で人が倒れていたら、貴方は一体どうすべきなのでしょうか?
① とりあえず大騒ぎして誰か助けを呼ぶ。
② すぐさま駆け寄り意識の有無、反応の有無を調べ、横向きの回復体位に身体を動かし、救急車を呼ぶ。
③ 見て見ぬふりをする。気付かなかった事にする。見捨てる。
……③を選ばれた方は、ちょっとそれはやめましょう。
サタンが選んだのは②だった。
まぁ、この世界に救急車があるかどうかは疑問だが……。
とりあえず足を引きずってサタンは暗黒竜を風呂の外の床に置いて、横向きに寝かせ、それから放置した。
腐っても……いや、厨二でも竜だ。ボロボロにされたくらいでは(多分)死にはしない。
ボロボロな時点でおかしい!というツッコミはあえて無視させて頂こう。
それより、問題は聖龍アヴァロンの方だ。
サタンは警戒心を解くことなく背後を振り返った。
今までなあなあでも殺しあいなどに発展しなかったのは、ひとえに元勇者であり、彼女と面識のあったゆうちゃんーーユーハルトがいたおかげだ。
彼がいなくなったからには何が起こるかーー
「あら、いいお湯ですね」
「適応早いなオイ!?」
なんという事だ。
サタンの心配は杞憂に終わり、聖龍アヴァロンは先ほどの険悪な空気はどこへやら、頭にタオルまで乗せてゆったりとお湯の中でくつろいでいた。それはもう、こっちの気が抜けるくらいに。
ちょうど湯気で良いところが見えないのはR指定的な意味でも良かった。
聖龍アヴァロンのたおやかな肢体が微かに濁った湯の中でもユラユラと揺れる様子、それだけでも、見た目は十八、中身は中二病なサタンには充分刺激が強かった。(ちなみに、ただの農家さっちゃんことサタンの実年年齢168歳である。)
慌てて目を逸らすサタン。
(残念だなんて、思ってねーけどな!!)
元・魔王でも男だった。
しかし、流石に第二次成長期を迎えた男が女性の入浴をジロジロと見るのは不味い。おまわりさんが飛んでくる。
名残惜しいような残念なような気持ちを振り切って、すぐさま回れ右をして浴室を出ようとしてーー
「あら、どこへ行くのですか?」
いつの間にかバスタオルを巻いて身体を隠した聖龍さんにガッシリ右肩を掴まれた。
「ちょ、痛っ!?めちゃくちゃ痛いんですけど!?」
悲鳴を上げるサタン。
細い指なのに、物凄い力で湯上りでほんのり桜色をした爪がくい込んで、なんか肩がギシギシいっている。
「勇者様……いいえ、ユー様は【皆でお風呂】と仰られたのですよ?その言葉に例えほんの少しでも、嘘があってはなりませんもの。さ、一緒にお風呂に入りましょう」
まるで歌うように言葉を紡ぐ聖龍さん。
光の女神と呼ばれている女神の使いらしく、彼女はいまとっても可愛いらしい、いい笑顔だが、如何せんその目が笑っていない。
(この人(?)本当に聖龍!?なんか病んでない!!?怖いぞゆうちゃんんん!)
元・魔王の癖にガタガタと怯えるサタン、いや農家サタ・マオ、さっちゃん。
その様子に聖龍アヴァロンはん?、と首を傾げると不思議そうにさっちゃんに言う。
「あら?何か言いたい事があるのですか?それでしたらこの私が遺言代わりに聞いてあげますよ?」
(怖いよー……)
さっちゃんは無性に泣きたくなった。
だがそこは元・魔王。
プライドと常識と尊厳を守るために、さっちゃんは勇気を振り絞った!
「あ、ああ、確かにゆうちゃんはそう言ってたかもしれないな!でも、常識的に考えて見ろ、出会ったばかりの男と女が一緒に風呂とかは良くないだろ?お前の評判にも傷が付くかもしれないし、あらぬ誤解も受けるかもしれない、法律にも引っかかるかも知れないな
!だから今回は勘弁してくれ」
ここまでノンブレス。
言い切った、といい顔をしたさっちゃんだが次の瞬間
「そんなことは全く問題ありません、私は龍ですから!」
との、まるでさっちゃんの気持ちを分かってくれなかった聖龍アヴァロンの言葉に、ガクッと膝をついた。
区切り悪いですが、続きます。