兄弟 更に雑談する
4/8 修正しました。
「タケにぃ、あたしにもお茶ちょうだい。のど渇いちゃった」
片手でフラミュルディを撫でながら、もう片方の手をひらひら振って凜佳が声をかけてきた。フラミュルディは相も変わらずしがみついたままだ。
「ありがと……んぁ〜、このお茶美味しいね!……へぇ、タケにぃってば、世界が変わっても流石の料理スキルだね」
受け取ったお茶のあまりの美味しさに、鑑定眼で確認した凜佳が武人を讃える。彼はまぁなと照れたような笑みを浮かべ、凜佳の髪ををサラリと一撫でしてダイニングへ戻った。
『武人が料理、悠佳が生産。ならば凜佳は何が得意なんだ?』
戻ってきた武人が腰を落ち着けるなり、カヒュデンが興味津々に尋ねてくるのへ、武人と悠佳は互いに顔を見合わせ、苦笑いする。
「リンは何でもそつなくこなすが、趣味的なものには特化していないかな?私達程の拘りがある訳でもない……趣味とは言えないが、輩潰しは大好物だ」
「この世界でのストーリー、特に防衛イベントなんかはリンが主導立案。容赦無さすぎでいっそ清々しい。俺達なんぞかわいいもんです。敢えて言うなら、知謀謀略に長けてる、かな?」
『おいおい、なんか物騒な言葉がでてきてるぞ』
『……た、例えば?』
「ルディが泣いちゃうかもぉ〜軽めのエピソードにしてねぇ」
カヒュデンが面白そうに、ムシュルデは怖々聞いてくるのに凜佳がニシシと悪戯っ子のような笑顔を向けた。それを受けて兄弟はフリだなと解釈した。
銀城兄妹は輩や屑が大嫌いであるが、進んで駆逐したりしない。自分達の貴重な時間を輩ごときにくれてやる気は更々ないからだ。ただし実害さえなければの注釈がつく。
そんな兄妹であるが、一番用心深く用意周到に輩に対して厳しく容赦ない駆逐をするのが凜佳である。基本的に凜佳は他人への興味が希薄だ。他人に己れがどう思われようが一切構わないし、他人が死のうが生きようが感情が動かされることは全くと言っていい程ない。
善きにしろ悪しきにしろ、関わりない人物から向けられた感情に真摯に対応しようなんてことはまずない。
薄情というのとは違い、本当に興味がないだけであり、己れに害がなければ視界に入っていても意識することなくスルーしてしまうのだ。
ただし、危機管理の一環として状況把握はしている。輩は時と場所を選ばず湧いてくるからだ。あの黒い生物Gのように。
例えば、凜佳の学生時代の話だ。人には理解できない輩の感性に基づいた言いがかりや嫌がらせに対して、逐一録音――動画もあれば尚よし――しておき、全校朝礼時におもむろに最大音量にて再生。
再生完了後、鍛えた腹筋、腹式呼吸できっちり全員に聞こえる声量で輩共の名前を挙げ連ねる。
「あれれ〜。うっかりの操作ミス♪あなた達の腐れ犯罪発言を再生しちゃいました〜。ごめんなさいね!テヘペロ♪あ、先生〜。後でイジメ相談に乗ってくださいね!賠償金額なんかの諸々は、弁護士さんが各家庭に送付済みですけどね!」
再生時からここまで、輩共やその仲間達、教師らが再生を止めようとしたり黙らせようと伸ばされる手をヒラリヒラリと掻い潜り、口調は軽いがその唇には凄絶な笑み。
息が弾むことなく言い切った後には真っ青になり震える輩共、巻き添えを喰う可能性に今更ながら気づき、輩共から慌てて離れようとする仲間達……時既に遅し。呆然と困惑が入り雑じった表情の教師達。
そして、人垣を作り――避難ともいう――息を詰めて一部始終を見ている生徒達。因みに現時点で凜佳にとって実害ない輩共含む……薄氷の幸運を噛み締めろ!
「や、やりすぎじゃないか?もも、もう少し穏便にだな?」
張り詰めた空気を破る声をあげた教師に凜佳は凄絶な笑みを更に深めた。
「階段で後ろから肩を突かれたのは暴行または殺人未遂、お金寄越せは恐喝、私物に諸々されたのは窃盗に器物損壊、他にも色々。犯罪者に情けは無用ですねぇ」
「か、彼らにも、はっ、反省する余地を与えてだねっ」
「最初に犯罪行為を受けた際に、犯罪ですよ、迷惑だからやめてくださいってハッキリ伝えてますが?それでもやめなかったんですよ?駆逐されても仕方ない、これぞ自業自得!」
「……たった一度……」
「人語を解する人ならば一度で十分。よく仏の顔も三度までっていうけど、あたしは仏じゃないので許容できるのは一度です♪そうそう、証拠集め中に他の犯罪者の証拠もうっかり!ええ、うっかりですよ。確保しちゃいまして。その被害者には弁護士経由で自宅配送したからどうとでもしてね〜。事後報告とかいらないから、そこんとこ徹底厳守で!配送なし被害者には、希望があれば弁護士の連絡先教えま〜す!相談は一切受けないから、弁護士連絡先下さいの一言ね!ここ重要!」
もはや言葉もでない教師達。希望の光に瞳を潤ます犯罪被害者達。そして身に覚えのある輩生徒達は真っ青になり身を震わせている。
凜佳の本質を知る数少ない友人達は爆笑している。ひとり、殺り……やりきった感を漂わせる凜佳は満足げに目を細めた。
「これで少しは過ごしやすくなるね!」
後に銀城無双と呼ばれたこの一件により、輩発生率は激減した。影で一部生徒と保護者に『凜佳様』と、崇拝されていたのは致し方ないことだったろう。
『……なんだか違う人のことを聞いてるみたい』
神々と兄弟、精霊に対する凜佳しか知らないムシュルデが青褪め唖然としながらポツリと呟く。カヒュデンは呵々大笑。語り終えた兄二人は我が事のように誇らしげだ。
「それは仕方ない。リンは区別がきっちりしてるから。まぁ、私も同じようなものだが」
『区別……』
悠佳が答えるのにムシュルデの脳裏に浮かんだのはフラミュルディの語った区別についてだった。ついつい警戒してしまうのは否めない。
「自分の身内と認めている者に対してはかなり寛容。敵には情け容赦なく駆逐。関係も興味もなければ完全スルーって感じですかね。俺もですが」
『でも、さっきの話だと他の生徒達に救いの手を差しのべてたよ……ね?』
武人がムシュルデの呟きに返答するも、新たな疑問を口にしたムシュルデに対して、悪い笑みを浮かべた兄弟である。
「「甘い!甘すぎる!」」
「ルディは素材の味と味覚を破壊するのが目的としか思えないグレーズのように甘いですね!リンは学校生活を快適にする為に、自分の件にかこつけて輩駆除をしたんですよ」
『グレーズ?』
「グレーズは菓子パンとかドーナツとかに白い砂糖の固まりみたいのがついてるアレ。武人はグレーズが大嫌いなんだ……って、話が逸れたな。リンは面倒くさがりだから、学生時代の輩駆除をあの一回で済ませたかっただけだと思う。輩予備軍への牽制も兼ねてな。だろ?凜佳」
「その通り〜♪一回で済むことは一回で!これ基本!快適な学生生活を過ごせたよ♪」
『…………』
もはや言葉も出ないムシュルデは、それはそれは深い溜め息をつきガックリと肩を落とした。
お読み頂きありがとうございます。
グレーズお好きな方にはすみません<(_ _;)>
甘すぎの例えが、自分には甘すぎて苦手なグレーズしか思い浮かばなかったのです……




