兄妹 神器と才能
7/14 サブタイトルの変更と加筆致しました。
4/6 修正しました。
興奮に頬を染め、神器を嬉々と身につけると瞳を煌めかせ、兄妹は神々に似合うかな?と無邪気に笑いかける。
もちろん神々に似合っている以外の選択肢はない。皆、だらしなく弛みそうな顔を引き締めているが隠しきれていない。一番顕著なのはやはりフラミュルディだ。
『とっっっても!お似合いですわ〜♪』
恍惚の吐息と呼ぶには荒い息遣いで身をのりだし、兄妹を凝視している。もちろんカヒュデンの腰ロック、更にはムシュルデも腰が引けながらも襟首を掴んでいる。
明らかに神々がおかしな事になっているのだが、兄妹は気にも留めない。慣れもあるのだろうが、何より神々からの贈り物――ぶっちゃけ貢ぎ物――である神器に夢中なのである。
暴魔食と撃封破は現時点では効果の程を実感する事は出来ない為、実際には巻顕智に夢中というのが正しい。流石フラミュルディ、溺愛冥利に尽きるというものだろう。
空中に半透明の巻物が浮かび"魔法"と念じ指先で軽く触れると、巻物がしゅるんと開く。巻きの部分には【魔法】と文字がじわりと浮きだし、開いた書面には魔法属性名が並ぶ。
続けて属性の一つ"火"に触れると巻きには【火】、書面には火の魔法名がずらりと羅列された。妄想に妄想を重ねた設定どおりの魔法の数々が表示され、兄妹は満足げに微笑む。
だが、その笑みもスクロールするに従い、次第に微妙なものに変わる。
一応、攻撃魔法や付与魔法など分類表示されているが、膨大なだけに一々スクロールして確認するのも面倒である。微妙な表情で書面を見ていたが、悠佳がふとスクロールしていた指を止めたかと思えば、ニヤリと口角を引き上げた。
「これを見てくれ」
武人と凜佳に見えるように向けた書面は巻きに【火――攻撃・単体・上級――】、書面に対象の魔法のみ表示されている。
武人と凜佳佳の驚きと疑問の声にドヤ顔で悠佳が答えるに、巻きの部分に指を当てたまま関連ワードを試しに複数念じたら出来たとの事である。
「「でかしたっ!」」
武人が凜佳越しに悠佳の肩をバシバシ叩き、凜佳を挟んだままその肩をがっしり抱く。凜佳は窮屈になった身体を半身に片腕を後ろに抜き、悠佳の頭を撫でる。
「ハルにぃ、グッジョブ♪」
間近で上目遣いの満面の笑み、ナデナデ付き。武人に叩かれた肩に響く痛みにしかめられた顔が締まりなくデレたのは一瞬だ。サッと凜佳から顔を背け深呼吸、次に凜佳に向けられたのはキリリと実に爽やかな笑顔だった。可愛い妹にはいつもカッコいいお兄ちゃんでいたいらしい。
悠佳の様子を見ていた武人が肩を震わせて笑いを耐えている。背中に振動が伝わったのだろう、降りあおぐ形で凜佳がなぁに?と武人へ笑顔の上目遣い炸裂。悠佳と同じ一連の動き披露の武人であった。
『…………ナデナデ……』
「「「え?」」」
『……私もナデナデして欲しいのですわ〜っ!!』
兄妹を凝視していたフラミュルディの荒い息の合間に溢れた虚ろな呟きは、妙に辺りに響いた。
再度、使いやすくなった巻物を眺めたり、新たに鑑定を使ってみたりしていた兄妹はキョトンとフラミュルディを見やった。
己れを拘束する者など何するものぞとグワッと立ち上がり、抑えに抑えていた欲求を迸らせた。渇望と溺愛がその瞳をギラつかせている。
一旦はその勢いに拘束を突破せしめたが、カヒュデンとムシュルデに即座に再度拘束されてしまった。逃れること叶わず、悔しげに歪み、そして悲しみに瞳が潤む。
確かにいきすぎとも言える溺愛だが、ここまで取り乱すフラミュルディに、取り押さえる神々も困惑しきりだ。
「フラミー、泣かないで」
常軌を逸したフラミュルディの様子に、流石に驚きに目を見張った兄妹であったが、凜佳が滂沱の涙に頬を濡らすフラミュルディに身をのりだし、その柔らかな髪をさらりと撫でた。
驚きに涙がとまり、縁に溜まっていた涙がポロリと流れ落ちるのを最後の雫と確認したかのように、凜佳の手が離れていくのを名残惜しく目で追う。それにニコリと凜佳が笑いかけ、ついと立ち上がり神々の元へ移動した。
「フラミーを離してあげて?」
コテリと小首を傾げてカヒュデンとムシュルデにお願いする凜佳に、フラミュルディの様子を警戒しつつ彼らは拘束を解いた。
窺うように凜佳をぎこちなく見たフラミュルディは彼女に頭を抱き込まれ、その身体に視界を塞がれた。
「いっぱい我慢したんだね。泣くほど我慢しなくたっていいのに」
宥めるように優しく髪を撫でられ、フラミュルディは胸いっぱいに凜佳の香りを吸い込む。香気が身の内を巡り陶然と甘美に浸る。
おずおずと遠慮がちに凜佳に廻されていた腕は今やしっかりと、子が離されまいと母にしがみつくかの様相だ。
「フラミーがこんなに甘えん坊だって気がつかなくてゴメンね」
耳から首筋にかけて薄桃色に染めて、凜佳の身体に額を擦りつけながら、アーともウーとも聞き取りづらい声が漏れ聞こえる。
その様を唖然と見ていたカヒュデンとムシュルデははたと我に返るなり、武人と悠佳に視線を送った。
果たして同じく唖然としているかに思っていた兄二人といえば、やれやれと言うを俟たないとばかりの諦めた生温い笑みを浮かべていた。
『あれは何だ?』
訳がわからない状態の彼女達から離れ、兄弟の元へ移動するなりカヒュデンが尋ねると、二人は顔を見合わせ武人が頷き答えた。
「銀城家直系の特殊能力みたいなもんです。魅了籠落とでもいいますか。当人が相手を選べないので、ある意味呪いとも言えますね。まさか神様にまで効果を発揮するとは思いもしませんでした」
『魅了籠落……それは君達も?』
ムシュルデが尋ねるのに対して武人は少しばかり肩を竦めた。
「あぁ、ルディは知らなかったようですね。両親は再婚なんです。俺は母の連れ子、ハルとリンは父の連れ子で血の繋がりはないんですよ。だから、魅了籠落持ちはは銀城家直系のハルとリンですね」
『えっ!そうなんだ!……知らなかったよ』
「私とリンとはまた違う方向で、タケを兄貴と呼ぶ熱狂的な下僕……いや、手下?……まあ、ともかく野郎に慕われる才能がある」
「あれは呪いの部類だ!俺の才能であってたまるか!」
チラリとムシュルデはまたも説明不足なカヒュデンに責めるような視線を送るが、彼は肩をヒョイと上げて、言ってなかったかな?とさらりと返されただけであった。
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魅了籠落は神様のうち誰でもよかったのですが、男神だとへんた……ゲホンゴホン!……アレなので、フラミーと致しました。




