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妄想列車  作者: 夢追人
13/23

リバージ 2

 永山は廊下を歩く複数の足音に、慌ててAVビデオの映像を止めた。

「やけに早すぎるな、あいつら。こんな所を見られたらマナに何を言われるかわからない」

 そう言って周囲を片づけた彼はノックの音に返答した。

「どうぞ」

 だがドアは開かない。永山は不思議に思ってドアを開けた瞬間、黒い鉄の塊が目に入った。

「銃刀法違反ですよ」

 だが、永山の反抗の言葉は全く無視されて、

「今すぐここを出る。数日分の着替えを用意しろ」

と、威圧的な男の声が廊下に響いた。

「と言うことは、最低でも数日は生きていられると言うことですね?」

「あいつら次第だ」

「あいつら?」

「お前の友人たちだ」

 永山はまだ状況をつかめないまま、手際よく準備をしてから部屋を出た。CDの複製品のことを聞かれないのが幸いだと思った。

 廊下に出た永山は、そこに待っていた他の男たちに囲まれて校門を出て、そのまま車に乗せられた。

「どこへ行くんですか?まあ、教えてくれないでしょうけど」

 後部席で、両脇を屈強な男に囲まれた永山は、マナたちの身に何かがあったのだと直感した。

「安全な場所だ」

 銃をしまいながら男が呟いた。

「銃で脅されて安全な場所へ行くんですか?」

 そんな永山の皮肉に、

「黙っていろ」

と、銃男が凄んで見せた。

 車は静かに走り始める。永山が、不安な想像が自然と浮かんでは気持ちを強く持ち直して打ち消すと言う、辛くて非生産的な時間をいち時間も過ごした頃、車はどこかの研究所らしき建物に入っていった。闇の精神病院かも知れない。こうやって多くの庶民が拘束されてきたのだろう。

 警備は厳重で、門番が車で入ってくる来訪者の身分証明書の確認を行っている。

「大人しくしてろよ」

 車が鉄扉の間を潜った時、永山は覚悟を決めた。車を下車させられ、建物に連れて来られた永山は、本館を抜けた所にある本館よりも背の低い建屋に誘導された。

 本館よりも生活感のある雰囲気で、どうやらここの所員の寮になっているようだ。表向きは明るい寮だが、どこかに秘密の入口でもあるのだろう。永山は、精神病院のイメージとはほど遠いこの建屋に対する違和感を、そのように解釈した。

ホールにある応接セットに誘われた永山は、そこのソファーに腰かけて、さっきからじっと永山を目で追っていた男の正面に座らされた。

「か、亀田先輩!」

 永山の驚きは、予期せぬ人に出合った驚きと、ここが精神病院であることが確定した二重の驚きだった。亀田は公安警察に逮捕された。政治犯が、逮捕後に精神病院へ強制入院させられることは良くある話だからだ。

「久しぶりだな」

 永山のひとつ前の新聞部部長で、琴美先生に片思いをしていた亀田が、持ち前の愛想の良い表情で挨拶した。

「お久しぶりです。でも、どうしてここに?」

 永山は、恐る恐る今の亀田の環境を確認しようとした。

「まあ、色々あってな。時が来ればすべて話す」

 亀田は永山をじっと見つめている。

「わかりました。で、これから僕はどうなるんですか?」

 永山は、自分でも涙目になり掛けていることに気付いた。

「しばらくここの部屋にいてもらう。建物内では自由だ。だが外には出るな」

 その言葉に、永山は絶望のどん底に突き落とされた。やはりここは人を勾留する場所なのだ。

「しばらくって?」

「数日間だ」

「新聞部の他の連中もここに居るんですか?」

 永山は、ひとりで勾留されたくない気持ちと、皆までつかまっていて欲しくない気持ちが交差しながら、恐る恐る尋ねてみたが亀田は静かに首を横に振ってから、

「とにかく大人しくしていろ」

と言って、永山を連行してきた男と共に去ってしまった。永山は彼の後姿を見送りながら、あれこれと思考を巡らせてみた。

 亀田はここで洗脳でもされてしまったのだろうか。しかし、彼の雰囲気は以前と全く変わらないし、何かを自分に強いようとする姿勢も感じられない。

だが自分が軟禁されているこの事実を考えると、やはり亀田は政府側の人間であることには間違いないだろう。

 永山は、自分の身の行く末に絶望を感じ始めた時、なぜか、ふと真奈美のことが思い浮かんできた、彼女と、彼女と行動を共にしている新聞部の連中はどうなったのかと、再び不安を覚え始めた。

もし、彼らも捕まっているとしたら、証拠を持っている彼らはきっと取調べを受けているに違いない。永山はふと、真奈美が拷問されている姿を想像してしまった。


「キャー!痛い!ヤメテー!」

 真奈美が大声で叫んでいる。

「あんたが肩を揉めって言うから揉んであげてるんじゃない」

 マナが更に力を入れる。

「ああ、そこは良い。気持ち良い。もっと。あ、そこはダメよ」

 真奈美が大声で色っぽい声を出している。

「表に見張りがいたら勘違いされるぞ」

 俺はビールを飲みながら、窓に映る海の景色を眺めている。

「皆退屈しているから刺激になって良いんじゃないか?」

 奈川もつまみを口に放り込だ。もう四日間もこのキャビンで過ごしている。日に何時間か甲板に出してくれるが、それ以外はずっとキャビンで酒を飲むかDVD鑑賞をするか人生ゲームをしている。テレビの電波は遮断されていて、携帯の電波も圏外だ。

 真奈美は、こんな生活を続けていると肩が凝ると訴えた。

「ごろごろ寝てるだけで何で肩が凝るのよ」

 マナは文句を言いながらも彼女の肩を揉んでいる。窓からは見渡す限り青い海原しか見えない。

「このまま東南アジアの方へ向かって、あんたたちはマグロ漁船ね。私たちはフィリピンパブで働かされるんだわ」

 マナが肩揉みをしながらネガティブなシナリオを零している。

「フィリピンパブって日本人が働けるの?」

 真奈美は相変わらず能天気だ。

「あんたはハーレムゆきよ」

 マナが指先に力を込めた。

「イタッ。ハーレムって極楽なんでしょう?」

「男の極楽よ」

 溜息交じりにマナが答えた時、ドアをノックする音が響いた。

「もう、ご飯かしら?」

「さっき食べたばかりでしょう」


 永山は部屋のベッドに横になって真奈美のことを考えていた。本当に大丈夫だろうか?皆生きているんだろうか?永山がこの施設に軟禁されてから既に四日が経つ。テレビは映らないがビデオは山ほどあった。携帯は取り上げられている。ラジオもない。ビデオを見るのも飽きてしまってごろごろ寝てばかりいた。

 ここに軟禁されてから二日目に、亀田に呼ばれた。指定された一階のホールで待っていると、現れた亀田から紙袋を手渡された。中身を確認した永山は、血の気が引いてそのまま倒れそうになるほどのショックを覚えた。中身はCDだった。

「これは?」

「君の仲間たちが持っていた物だ」

「どうしてこれを?」

 永山は目眩と激しい動悸を抑えながら何とか頭を回転させていた。

「俺にはわからない。指示に従っているだけだ。もうすぐDNNの記者がくる」

 永山は唖然とした表情で亀田を見つめた。

「DNNの記者に君の手から渡すんだ。DNNには受渡し場所を変更したと伝えてある」

「何で?」

 永山は、亀田を含めてここの連中は政府側の人間だと思っている。であるのに、DNNに渡せとはどう言うことか。

「俺は何も知らない。指示されたとおりに動いているだけだ」

 亀田は無表情のままで静かに答えた。

「じゃあ、マナたちはどうなったんですか?」

「さあ」

「亀田さんは政府側の人間じゃないんですか?」

「何のことだ。そのCDの中身が、本当に君が思っている物かどうかはわからないぞ」

と言って亀田は冷たく笑った。

 ほどなくDNNの記者が現れて、永山はCDの中身をざっと説明し、世界に公表してくれるように頼んだ。勿論、CDが本物かどうかはわからないが、言われたとおりにする他なかった。

 永山は二日前のそんな出来事を思い出していると、つい真奈美たちのことを思い起こしてしまう。

 どういう経緯であのCDが亀田たちに手渡ったのかわからないが、真奈美たちから奪い取ったことは間違いないだろう。その過程で酷いことをされたのではないだろうか?

 そして永山の脳裏に、真奈美とマナが全裸にされて拷問を受けているような状況が浮かんでくると、すぐに頭を振って悪い想像を払拭する、そんなことの繰り返しだった。

 そしていつものとおりに、心配したところで始まらないと結論を出した。永山は大きく深呼吸をして再びビデオ鑑賞を始めた。


 キャビンのドアが開いた。

「何だ、ご飯じゃないの?」

「さっき食っただろう。太るぞ」

 そう言い捨てた銃男が入ってきた。

「ニュース見たか?」

「いいえ、だって電波が入らないもの」

 マナが口を尖らせて銃男を睨みつけた。銃男は、マナの視線から逃げるようにしてテレビに近づき、背面を覗いた。そして溜息を吐いてから、

「アンテナ線が抜けているだけだ」

と言ってアンテナをセットした。

「なーんだ、ずっと退屈だったのに。頼りにならない男たちね」

 マナは俺たち男の顔を順に見渡して軽蔑の視線を送ってきた。

 久しぶりにテレビの映像が流れ始めた。番組はどこも特別報道ニュースをやっている。大災害でも起きたかのような緊張感と情報の錯綜が起きている。

 そして何度も同じ映像が流されていた。その映像に全員の目が釘付けになった後、お互いに顔を見合わせて目をパチクリさせた。

「どう言うこと?」

 やがて全員の瞳は銃男に集中した。

「俺は何も知らない」

 ニュースでは、CDに収録されていた映像が放映され、民族浄化の計画やそれに同意する菅野首相の言葉もオリジナルのとおりに放映されている。首相はノーコメントを維持したままで入院し、内閣も正式コメントを発していないようだ。

 国民の怒りの言葉が次々に紹介され、野党が内閣総辞職を叫んでいる。過激な集団が全国で民民党の事務所を襲撃しているようで、機動隊との衝突も起きていた。

 問題の映像は世界各国にも配信されて、C国は例によって日本の作り話だと頬かむりをしている。各国首脳の反応も、日本とC国政府を責めていた。

 今まで民民党を支持していた大マスコミ社も、手の平を返したように政府を国賊だと攻撃し、人権蹂躙だと大騒ぎしているが、民民党を擁護していた自分たちの過去発言に関しては一切言及せずに、国民からその無責任さに大非難を浴びている。そして大新聞の不買運動まで始まったようだ。

「あんたたちは政府の人間じゃないのか?」

「琴美先生はDNNの人なの?」

 皆が口々に銃男に質問を浴びせるが、

「俺は何も知らない」

と、彼はだんまりを決め込んでいる。

「車の中で私のお尻に触ったことを言いつけるわよ」

 真奈美が真面目顔で男を脅した。

「触ってない」

「何度も当たったわよ」

「狭い車内だから仕方ないだろう」

「言いつけても良いの?」

「俺たちの任務は、許可が出るまであんたたちをこの船に閉じ込めることだ」

と、銃男は渋々答えた。

「何のために閉じ込めたのよ?」

 マナが軟禁された不満をぶつけるかのように噛みついた。

「あんたたちがCDを発見しそうなことは、諜報活動の世界では広く知られていた。政府も、本気であんたたちをつぶそうとしていたようだ」

「つぶすって?」

 真奈美がそう言って、男とマナの表情を交互に確認した。

「俺が言えるのはここまでだ。一時間で港に着くから準備しておけ」  

 銃男は、真奈美の視線を振り切って部屋から出て行こうとしたが、ふと足を止めて、

「そうだ、これがあんたの車に付いていたぜ」

と言って、奈川に煙草くらいの四角い物を投げてからそそくさと出ていった。

「ちょっと待ちなさいよ!」

 マナが大声で叫んだ。

「ゆっくりしていってよ、シャチョーさん!」

 真奈美も大声で呼び止めた。

「フィリピンパブじゃないのよ」

 しかし、銃男は逃げるようにして去ってしまった。

「つぶすってどう言うことかしら?」

 真奈美はもう一度奈川たちに問い掛けた。

「殺すってことだろう、普通」

 隆二が緊張した声で答えた。

「と言うことは、琴美先生は俺たちを保護してくれた訳か?」

 俺が小さく呟いた。

「しかもCDをDNNに渡して公表してくれた」

 奈川も小声で言葉を漏らした。

「だから琴美先生は良い人だって言ったでしょう?」

 真奈美はしたり顔でマナを見つめている。

「だったら正直に言えば良いのに。何で秘密にするのよ。やっぱり怪しい人たちよ」

 マナは納得していない。

「今、思い出したんだけど!」

 突然、真奈美が大声で叫んだ。

「何よ、急に……」

 真奈美の声に驚いたマナが小さく呟いた。

「摂津峡公園でお婆さんに会った時のことを思い出したの。マナもお婆さんに会ったことがあるって言ってたわね?」

 真奈美がまた突拍子もないことを言い始めた。

「それがどうしたのよ」

 マナは面倒そうだ。

「お婆さんはあなたに何て言ったんだっけ?」

「亀田は眼医者に通っているとか」

 答えを聞いた真奈美は黙っている。

「黙るなよ……。それがどうしたんだ?」

 隆二も真奈美の言葉に聞き耳を立てている。

「思うんだけど。眼医者て、メイシャさんのことじゃないかしら……」

 真奈美の言葉に全員があんぐりと口を開いた。

「メイシャ……て、ネットで情報をくれていた?」

 マナに頷いた真奈美は、はっと何かを思いついたかのような表情を浮かべて、

「そう。そして亀田さんは琴美先生の研究室に通っていた!」

と、弾んだ声で叫んだ。

「亀田はメイシャに通っていた?琴美先生がメイシャさんだって言いたいのか?」

 隆二の言葉に真奈美が頷いた。

「メイシャさんは最初から色々と情報を持っていたのよ、琴美先生がどうやって……」

 マナが反論を始めた。

「だって自分の研究室の地下にあるんだから知っていて当然でしょう」

 真奈美がさらりと答えた。

「隠し場所を知っていたのなら、最初から自分で開ければ良いじゃないの」

 マナは真奈美を見つめて反論した。

「でも、真奈美さんが現れないことには、あのパスワードは誰にもわからなかったじゃないか」

 隆二が横から口を出した。

「真奈美と呼んで」

 真奈美が隆二に微笑掛けている。

「ややこしいから黙っててよ!」

 マナが隆二を睨みつけた。俺は隆二がふて腐る表情を見届けてから、

「仮に、琴美さんが、俺たちがこの社会に来るのを待って金庫を開けさせたとして、何でこんな面倒なことをするんだ?俺たちがDNNにCDを渡すまで待っていれば良い。わざわざ妨害する必要なんてなかっただろう。しかも、結果的には公表されている」

と言って、皆に意見を求めた。皆はしばらく口を閉ざして各々が思考を巡らせた。そして真奈美が大きなあくびをした時、

「これだ」

と言う奈川の声が意外に大きく響いた。皆が一斉に彼の方を見つめる。奈川はさっき受け取った四角い物を手にかざした。

「何、それ?」

「発信機だ。政府の奴らが俺の車に付けていたんだろう」

 奈川が真奈美の方を向いて説明した。

「て、ことは。俺たちの居場所は奴らにつかまれていたわけだ。いや、今もつかまれている」

 俺はそう言って発信機を見つめた。再び訪れた沈黙の中、真奈美がそっと冷蔵庫に近づいてアイスを取り出してから、

「私たちはオトリにされたのね」

と言って嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「太るわよ」

 マナが真奈美の手にあるソフトクリームを睨みながら零した。

「なるほど。俺たちが船でどこかへ移動しているように見せ掛けておいて、その間に、琴美先生が別の船に乗り換えてCDを運んだんだ。政府の奴らは、この船にCDがあると思い込んでいた」

 俺は真奈美の思いつきに驚きながら彼女に賛成した。

「政府の奴らは、俺たちが陸に上がるところを捕まえる積りだったのか」

 遠慮気味に発した隆二の言葉に、

「いや、倉庫で捕まえる予定だった。実は出発直前にDNNから場所の変更指示があったんだ。元々は北港だった。北港に政府の回し者が待ち構えているから南港に変更すると指示があった」

と、奈川が事実を打ち明けた。

「そんなこと、もっと早く言って下さいよ」

 隆二が奈川にクレームをつけた。

「ここに捕まったタイミングでそんなこと言っていたら、奈川さんが騙されたから閉じ込められたんだって、皆で虐めたでしょう?」

そう言った真奈美がアイスをぺロリと舐めた。

「すまん、そのとおりだ」

 奈川が頭をかきながら謝った。

「意外と臆病者ね」

 マナは弱い男には厳しい。

「でも、いったい琴美先生は何者なんだ?」

 隆二が当然の疑問を口にした。

「メイシャと名乗って色んな情報を与えながら、最終的には俺たちまで守ってくれた」

 俺も答えを出せずにいる。

「CIAかも!」

 マナが、大声を放った後も言葉を続けた。

「そうよ、きっと琴美先生はCIAなのよ。海外にもよく出掛けているし、米国にも定期的にいってる!」

 唐突な意見に誰もがしばし無口になったが、

「あり得ないとは言えないな」

と、奈川がポツリと同意しながら、

「実は、メイシャというニックネームをどこかで聞いたことがあるんだ。やっと思い出した」

と静かに語った。

「どこで聞いたんですか?」

 隆二が鋭く催促した。

「キャバ嬢の名前とか?」

 真奈美がからかい気味に奈川を見つめている。

「キャバ嬢って?」

 マナが真奈美に疑問符を送った。

「あら、この社会にはキャバクラもないの?」

「キャバクラの話は後にしてくれ。で、何を思い出したんだ?」

 俺は真奈美たちを遮って奈川を促した。

「スパイだ!」

「え?」

 奈川の言葉は全員に大きな衝撃を与えた。

「メイシャという有名なスパイの話を聞いたことがある」

「遅過ぎでしょ!もっと早く思い出しなさいよ、オヤジ!」

 マナが切れた。奈川は苦笑しながら、

「俺が噂に聞いたメイシャは二重スパイで、C国のスパイとして日本に居ながら、実はC国の機密情報を盗み出していたらしい」

と、噂の内容を語った。

「じゃあ、あのCDはメイシャ、つまり琴美先生がC国から盗み出したの?」

 マナだけでなく、皆はすぐには受け入れられない表情を浮かべている。

「わかった!」

 アイスを舐めながら真奈美が叫んだ。

「何が?」

 マナは全く期待していない。

「琴美先生はCDを自分で金庫にしまったのよ!」

 大発見でもしたかのようにはしゃぐ真奈美の言葉に、マナは小さな吐息を吐いて、

「自分で隠しておいてパスワードを忘れたの?あなたと違うのよ、そんなおバカじゃないわ、琴美先生は」

と、薄く笑った。

「パスワードが変わったのよ!」

「え?」

 真奈美の言葉に全員の頭の中が真白になり、息をすることさえ忘れてしまった。

「私たちが時空を歪めたから、その影響でパスワードが変わってしまったのよ。私しか知らない事実が解読キーに絡んでいたのがその証拠よ」

 全員の視線が真奈美に集まっている。

「アイスが落ちるわよ」

 マナの指摘に慌ててアイスを舐めてから、真奈美は言葉を続ける。

「琴美さんは、どういう訳かわからないけど、異次元から私たちが来ることと、私たちがパスワードを解読出来ることを知った。そして私たちを誘導してCDを手に入れた後、世界に公表した」

「琴美先生は俺たちの行動を監視しながら、政府に邪魔されないように奴らの動きにも気を配っていた訳か」

 真奈美の後から俺が言葉を付け足した。

「琴美先生カッコイイ!」

 マナが素直に喜んでいる。

「だから、琴美先生は良い人だって言ったでしょう」

 真奈美が再び勝ち誇った表情を浮かべている。

「結果論よ」

 マナは負けず嫌いだ。そんなマナを見つめながら真奈美が、

「この船の車庫で琴美先生は言ったじゃない『必ず元の生活に戻してあげます』て私とラオウさんを元の社会に戻してくれるって言う意味だったのよ、きっと」

と言って愛らしく笑った。

「そう言う意味だったのか?」

 隆二は半信半疑に真奈美を見つめた。

「とにかく船を下りて情報収集だ」

「もう港ですよ。でも、どこかな。南港じゃなさそうだけど」

「舞鶴よ」

 隆二の疑問に真奈美がさらりと答えた。

「何でわかるの?」

と、マナは余り信じていない。

「海自の基地が見えるから」

「まさか軍事オタクなの?」

「嘘よ、肉じゃがの看板が見えたから」

「何で肉じゃがの看板で舞鶴だとわかるのよ?」

 マナが疑問顔を浮かべている。

「旧海軍の訓練所があったんだ。日本海軍はイギリス海軍を真似たから、イギリス海軍で常食されていたカレーライスを日本風に真似て肉じゃがを作った。だから舞鶴が肉じゃが発祥の地なんだ」

 俺はしたり顔でマナにうんちくを垂れた。だが、マナも真奈美も俺の話の途中で冷蔵庫を漁り始めて、保存の効く食材を袋に詰めている。

「聞いてないし……」

 俺が溜息を吐いた時、

「到着だ」

と、銃男がドアから顔を覗かせた。

「貰って良いでしょ?」

 真奈美が愛嬌の良い笑顔を浮かべている。

「ご自由に」

 無表情で立ち尽くす銃男の横を、二人の女たちはニコニコしながら通り過ぎて行く。隆二は、銃男に何やら白い封筒を手渡した。

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