第45話:まったりクリスマスと、君の部屋
「ふぅ……美味しかった。ケーキ、半分くらい残っちゃったね」
「うん。美味しかったけど、さすがに朝からワンホールは食べきれないね」
「残りは冷蔵庫に入れておこう。夜、父さん母さんが帰ってきたら皆で食べようか」
「うんっ! おじさんたちにも食べてもらえるの、すっごく嬉しい!」
朝食の食器を片付け終え、俺と結愛はリビングのソファに並んで腰を下ろした。
温かいお茶を飲みながら一息ついたところで、ふと今日の予定について口を開く。
「そういえば、今日この後どうする? どこか遊びに行く?」
「うーん……」
結愛は少し考えるように首を傾げた後、少しだけ照れたように上目遣いで俺を見た。
「昨日のイルミネーションもすっごく楽しかったし、特別だったけど……今日は、湊くんと二人でゆっくりしたいな」
「ゆっくり?」
「うん。うちで一緒に、ゲームしない?」
結愛の家には、みんなで遊べる対戦ゲームがいくつかあるらしい。
「あ、いいな。クリスマスに結愛の家でゲーム、すごく楽しそう」
「やった! じゃあ、決まりだね!」
***
俺の家を出て、歩いて結愛の家へと向かう。
その道すがら、俺たちは近所のコンビニにふらりと立ち寄った。
店内はまだクリスマスの装飾が残っていて、入り口の近くには特設のお菓子コーナーができている。
「ゲームのお供といえば、やっぱりポテチかな」
「あははっ、大きめのサイズだね!」
俺が定番のコンソメ味をカゴに入れると、結愛も特設コーナーの棚を覗き込みながら目を輝かせた。
「あ、湊くん見て! このチョコレート、クリスマス限定のパッケージになってるよ。雪だるまの形してて可愛い……これ、買ってもいい?」
「もちろん。じゃあ、しょっぱいものと甘いものでバランス完璧だな」
「えへへ、やった。あとは飲み物だね」
並んで飲み物コーナーへ移動し、結愛が「私はこれにする」と紙パックのミルクティーを選ぶ。
「湊くんはどうする? いつものコーヒー?」
「いや、今日はゲームだし……久しぶりにコーラでも飲もうかな。あと、結愛の分も合わせて大きいペットボトルにして、紙コップで分けるか」
「うんっ、それにしよ!」
昨日の夜はあんなに華やかで豪華なディナーだったのに、今日は数百円のお菓子とジュースを二人で選んでいる。
でも、こういう他愛のないやり取りをしながら家で遊ぶ準備をするという、飾らない関係性が今の俺にはとても心地よかった。
***
「お邪魔しまーす」
「はい、いらっしゃい!」
結愛の家に到着すると、ご両親はすでに仕事に出かけていて留守だった。
リビングを通り抜け、結愛の自室へと案内される。
「適当に座っててね。今、ゲーム立ち上げるから」
「う、うん……」
『初めて』入る、結愛の部屋。
全体的に白と淡い色で統一された室内は、俺の殺風景な部屋とは違い、どこか甘くて女の子らしい『結愛の匂い』で満たされていた。ベッドの上には可愛いぬいぐるみがいくつか並んでいる。
(……なんだか、無駄に緊張してきたな)
俺が少しソワソワしながらテレビの前に座ると、結愛が「はい、湊くんの分!」とコントローラーを手渡してきた。
「サンキュ。……ん?」
コントローラーを受け取った瞬間、俺は不思議な感覚に襲われた。
プラスチックの感触、ボタンの配置。頭では操作方法なんて何一つ思い出せないのに、指先が勝手に定位置へと収まり、まるで自分の体の一部のようにしっくりと馴染んだのだ。
「……なんかこれ、すごく懐かしい気がする」
「えっ?」
「うまく言えないけど、手が覚えてるっていうか……俺、これ昔よくやってたのかな」
俺がぽつりと呟くと、結愛は少し目を丸くした後、嬉しそうにふにゃりと笑った。
「ふふっ。うん、すっごくやり込んでたよ。よく二人で対戦してたもん」
「そうなんだ。どっちが勝ってたの?」
「んー。その頃は、私の方が全然上手かったけどね!」
結愛が少し得意げに胸を張る。
「そう言われると悔しいな。……よし、じゃあ今から勝負しよう。俺の体がどれだけ覚えてるか、試してみるよ」
「ふふっ、望むところだよ!」
俺たちはコントローラーを構え、画面に映し出されたレースゲームのスタートボタンを押した。
いざ勝負が始まると、俺の指は本当に勝手に動き出し、ドリフトやアイテムの使用を流れるようにこなしていった。
『ああっ!? 湊くん、今のずるい!』
『あははっ! ほらほら、抜かしたよ!』
『もうっ! 次は絶対に負けないから! もう一回!』
普段は優しくて可愛い結愛だが、ゲームとなると意外なほど本気になってムキになる。俺の肩をペチペチと叩きながら悔しがるその無邪気な姿が、たまらなく愛おしかった。
コンビ二で買ったポテトチップスをつまみ、コーラを飲みながら、バカみたいに笑い合ってゲームを続ける。
(……華やかなクリスマスイブも最高だったけど)
隣で笑い転げる結愛の横顔を見つめながら、俺は密かに思う。
特別なイベントがなくても、ただこうして隣で笑い合っているだけのこの時間が、信じられないほど満たされている。こういう、まったり過ごすクリスマスも、最高に幸せだ。
こうして、二人の穏やかで幸せなクリスマスが終わっていく。
そして季節は、俺と結愛の運命が大きく動く『お正月』へと、確実に歩みを進めていた。
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