第23話:初めてのペアルック。
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雲ひとつない青空の下、俺と結愛は駅前のショッピングモールに向けて歩き出した。
家を出てすぐ、自然な流れで結愛が俺の右腕にギュッと抱きついてきて、今は完全に腕を組んで歩いている状態だ。
「結愛、その……ちょっと近くないか?」
「えー、いいじゃん。今日ちょっと寒いし」
えへへ、と嬉しそうに笑って、結愛はさらに腕にすり寄ってくる。
柔らかい感触がダイレクトに伝わってきて、心臓の音がうるさい。
「湊くん、もしかして照れてる?」
「……照れるだろ、普通」
俺が顔を背けながらそう返すと、結愛は弾むような声で笑った。
「ふふっ。湊くんのそういう反応、記憶がなくなる前と全然変わらないね。なんだかすごく落ち着く」
「前と、同じ?」
「うん。いつもちょっと照れくさそうにしてて、でも絶対に突き放したりしないの」
その言葉を聞いて、俺は少しだけホッとした。
頭のどこかで、記憶をなくす前の俺は、今の俺とは別の完璧な人間だったんじゃないかと錯覚して、不安になることがあったからだ。
でも、俺はちゃんと俺だったらしい。
「……じゃあ、記憶なくす前の俺は、こういうくっつき方ってあんまりしなかったのか?」
「んー、そうだね。外歩くときは、普通に手を繋いでるだけのことが多かったかなー」
「そっか」
手を繋ぐだけ。なるほど。
……なんだろう、記憶をなくす前の過去の自分に対して、急に謎の対抗心のようなものが湧いてきた。
俺は少しだけ息を吸い込むと、結愛と組んでいた腕をほどき、代わりに彼女の華奢な肩に腕を回して、グッと自分のほうへ抱き寄せた。
「ひゃっ……!?」
突然肩を抱かれて密着した結愛が、驚いたように俺を見上げる。
「こ、これくらい、普通だろ」
「み、湊くん……?」
「俺は、こっちの方がいい」
すれ違う人の目が少し気になったけど、今はそんなことより男の意地だ。
俺が真っ赤になりながら前を向いて歩いていると、結愛も顔をゆでダコのように赤くして、でも、すごく幸せそうな顔で俺の腰に腕を回し返してきた。
駅前のモールに着くと、俺たちはアパレルショップが並ぶフロアへ向かった。
「結愛。せっかくのデートだし、何かお揃いのものが欲しいなって思ってたんだけど。服とかどうかな」
「お揃いの服!? ペアルックってこと!?」
「あ、外で着るのが恥ずかしかったら、家の中で着るスウェットとかでもいいんだけど」
提案すると、結愛の瞳がキラキラと輝き出した。
「スウェットのお揃い、すっごく憧れてたの!」
「そっか。そういえば俺たち、記憶なくす前はペアルックって買ってなかったの?」
「うん、まだ買ってなかったの。だからすっごく嬉しい」
「じゃあ買おう」
俺たちは二人で店内を見て回り、色違いのロゴが入ったスウェットパーカーを選んだ。俺がネイビーで、結愛が白だ。
「今度湊くんのお家に行ったときは、これに着替えようかな」
「いいと思うけど、うちの親が見たらびっくりするんじゃないか? リビングでペアルックしてたら」
「ふふっ、そうかな? でも、おじさんもおばさんも、なんだかんだ笑って見守ってくれそうな気がするな」
「……まあ、うちの親なら面白がって普通に受け入れそうだけど」
「でしょ? じゃあ、さっそく明日から着て行っちゃおうかな!」
「お、おう。じゃあ俺も今夜からこれ着とくわ」
紙袋を受け取った結愛がニコニコしながらそんなことを言うから、今後の「お家デート」を想像してしまって、俺はまた少しだけ動揺してしまった。
ちょうどお昼時になったので、俺たちはモール内の落ち着いたカフェに入った。
向かい合わせの席に座り、パスタと食後のドリンクを注文する。
「そういえば、結愛って明日何してるの?」
パスタを食べ終え、アイスティーを飲みながらふと尋ねる。
「明日? 特に用事ないから、朝から湊くんの家に行こうと思ってたよ」
「明日も来る感じだったんだね」
「あ、うん。もしかして迷惑だった……?」
「いや、全然。何時頃来るかなって思って」
「んー……起きたら行く!」
結愛はストローを咥えながら、にこっと笑った。自由だな。
そんな他愛のないやり取りをしながら、俺はずっと気になっていたことを思い切って聞いてみることにした。
「なあ。俺たちって……お泊まりとか、したことあるの?」
「ぶほっ!?」
結愛がむせて、慌てて口元をハンカチで押さえた。
「お、お泊まり……? う、うん、二回くらいしたかな……。お互い実家だから、そんなに頻繁にはできないけど」
「お泊まりまではしてたのね……」
「なんでおばさんみたいな口調になってるの」
付き合ってどこまで進んでいたのか気になってはいたが、ちゃんとお泊まりの段階まで行っていたらしい。
「俺が結愛の家に行ったの? それとも結愛がうちに来たの?」
「両方、一回ずつだよ。湊くん、私の部屋に来たとき、ガチガチに緊張して借りてきた猫みたいになってたよね」
「……」
(記憶なくす前の俺、めちゃくちゃ頑張ってたんだな……)
過去の自分の行動力に内心で驚きながら、俺はアイスティーをごくりと飲み込んだ。
そこからは、学校での出来事や他愛のない話題で盛り上がり、気づけば結構な時間が経っていた。
お会計を済ませてカフェを出る。
モールの通路を歩き出した瞬間、ごく自然な流れでお互いの手が伸び、指を絡めてしっかりと手を繋いだ。
「じゃあ、次はゲーセン行こっか」
「うんっ」
俺たちの休日のデートは、まだまだ終わらない。
第23話をお読みいただき、ありがとうございました。
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