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記憶をなくした俺を、銀髪彼女が全力で甘やかしてくる。〜「1からやり直そ?」から始まる二度目の初恋〜  作者: 比津磁界


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第19話:一緒にいたいのは私の方。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。


今回は、ついに二人がしっかりと向き合うお話です。

【湊視点】


月曜日の放課後。

帰りのホームルームが終わるや否や、俺は逃げるようにカバンに教科書を詰め込んだ。

金曜日から作り始めた『見えない壁』。

週末を一人で過ごし、結愛を遠ざけるという決意はさらに固まっていた。


今日もこのまま、結愛とは少し距離を置いて帰ろう。

彼女のためにも、それが一番いいはずだ。

そう自分に言い聞かせて席を立とうとした、その時だった。


「湊くん」


ガシッ、と。

俺の右腕が、両手でしっかりと掴まれた。


「……結愛?」

「一緒に帰ろ。……ううん、今日は一緒に帰って。湊くんとお話があるの」


振り返ると、結愛が真っ直ぐな瞳で俺を見上げていた。

その表情には、いつも俺に向けてくれているようなふんわりとした柔らかい笑顔はない。

代わりに、有無を言わさないような強い気迫と、少しの悲痛さが込められていた。


彼女のその真剣な瞳に射抜かれ、俺は「ごめん、今日は用事が……」という卑怯な言い訳を、どうしても口にすることができなかった。



無言のまま並んで歩き、結愛に連れられてやってきたのは、少し前に俺が過去の断片を思い出した場所の近くの、小さな公園だった。

冬の冷たい風が枯れ葉を揺らす中、俺たちは誰もいないベンチに、少しだけ距離を空けて座った。


重い沈黙が落ちる。

どう切り出せばいいか迷い、膝の上で両手を組んで俯いていると、隣に座る結愛がポツリと口を開いた。


「湊くん。週末……わざと私を避けてたよね」

「っ……」

「金曜日の学校でも、ずっと見えない壁を作られてるみたいだった。私が世話を焼こうとすると、すごく遠慮して……。私、何か湊くんの負担になるようなこと、しちゃった?」


痛いくらいにストレートな問いかけ。

その声がわずかに震えているのを聞いて、俺はこれ以上、彼女に嘘をつき通すことはできないと悟った。


「……違う。結愛は何も悪くない。全部、俺の問題なんだ」


俺はギュッと拳を握り締め、ゆっくりと、恐る恐る真実を話し始めた。


「木曜日の放課後。結愛が、他クラスの男子に呼び出されてるのを見たんだ」

「え……」

「そこで、結愛が言ってた言葉を聞いた。『私の彼氏は湊くんだ』って。……それで、家に帰ってから自分のスマホを見たんだ。今まで怖くて開けなかったロックを解除して、写真フォルダも、LINEの履歴も、全部」


結愛がハッと息を呑む気配がした。


「あんなに愛し合ってたのに。あんなに楽しそうに笑ってたのに。俺はそれを全部忘れて、結愛に『あなたは誰ですか』なんて、他人みたいな態度をとっていた。どんなに辛かったか……気づけなくて、本当にごめん」


俺は深く頭を下げた。自分の罪を数え上げるたびに、胸の奥がギリギリと締め付けられる。


「俺の記憶は、明日戻るかもしれないし、一生戻らないかもしれない。結愛には、高校生活の大切な時間を、いつ治るか分からない俺の看病や世話で無駄にしてほしくないんだ。俺という鎖で、結愛の未来を縛り付けたくない」


顔を上げ、俺は苦しい胸の内を吐き出した。


「だから……俺たちは、ただのクラスメイトに戻った方がいい。結愛にはもっと、普通の幸せな時間を過ごしてほしいから」


言い切った瞬間、心の中にぽっかりと冷たい穴が空いたような気がした。

これでいい。これが、彼女のための正解なんだ。

そう自分に言い聞かせていた、次の瞬間。


「……バカ」


静かに聞いていた結愛が、スッと立ち上がった。

そして、俺の正面に立つと、少しだけ怒ったような、でもどこまでも優しくて、泣き出しそうな瞳で俺を見下ろした。


「私の幸せを、湊くんが勝手に決めないでよ」

「結愛……」

「私は、義務感や昔の情で一緒にいるんじゃないよ。今、目の前にいる湊くんと一緒にいたいから、ここにいるの」


結愛は俺の前にしゃがみ込むと、冷たくなった俺の両頬を、彼女の小さな両手で優しく包み込んだ。

彼女の手のひらから、泣きたくなるほど温かい熱が伝わってくる。


「私は、今でも湊くんが世界で一番大好きなの。昨日も、今日も、明日も。湊くんが私のことを忘れてしまっていても、それは絶対に変わらない」

「でも、俺は……結愛との大切な思い出を……」

「過去の記憶なんて、戻らなくたっていい。ゼロからでいいの」


真っ直ぐに俺の目を見つめ、結愛は太陽のように柔らかく微笑んだ。


「私がもう一度、湊くんに私を好きになってもらうから。絶対に、私に『二度目の初恋』をさせてみせるから。だから……もう勝手に、どこかに行こうとしないで」


その言葉と、頬に触れる確かな温もり。

日曜日の夕方、俺のために置いていってくれたあの星型のクッキーの優しい甘さが、ふいに記憶の中に蘇った。


(……ああ、そうか)


俺は、なんて独りよがりだったんだろう。

彼女は俺が思っているよりもずっと強くて、そして、底なしに俺のことを愛してくれている。

一人で勝手に背負い込んで、身を引こうとしていた自分の薄っぺらな決意が、音を立ててあっけなく崩れ去っていくのを感じた。


「……本当に、結愛には敵わないな」


気がつけば、俺の目からポロリと涙が溢れ落ちていた。

情けない顔を見せまいと、俺は頬を包んでくれている彼女の手に自分の手を重ね、ギュッと握りしめる。


「ごめん。もう逃げない。俺も、今の結愛のこと、ちゃんと知っていきたい。……だから、もう一度、俺と一から始めてくれるか?」

「うんっ……! 当たり前だよ……っ!」


結愛の目からも、大粒の涙がこぼれ落ちた。

俺たちは冷たい風の吹く公園で、これまでのすれ違いと不安をすべて洗い流すように、二人で何度も涙を拭い合った。



公園を出た俺たちは、並んで帰路についた。

つい数十分前までの、重くて息苦しい空気はもうどこにもない。

肩が触れ合いそうなほど近い距離で歩いていても、もう『見えない壁』を感じることはなかった。

むしろ、冷たい冬の風が今はとても心地よく感じられる。


「送っていくよ」


俺がそう言うと、結愛は少し驚いたように目を丸くしてから、「ふふっ、ありがとう」と嬉しそうに笑った。


すっかり暗くなった住宅街を歩き、結愛の家の前に到着する。

名残惜しそうに靴のつま先を見つめる結愛に向かって、俺はポケットからスマホを取り出しながら口を開いた。


「結愛」

「ん?」

「家に着いたら、LINEするからな。……今まで、既読無視みたいなことしててごめん」


ずっと開くのが怖くて、彼女からの連絡にすら返せていなかった、俺のブラックボックス。

でも今の俺には、もう過去を恐れる気持ちはなかった。

これからは、このスマホを使って、今の彼女との新しい思い出を刻んでいけばいいのだから。


俺の言葉に、結愛はパァッと顔を輝かせた。


「うんっ! 待ってるね!」


とびきりの笑顔で大きく手を振る彼女を見送ってから、俺も自分の家へと歩き出す。


冷たい冬の帰り道。

見上げれば、澄んだ夜空に星が瞬いていた。


過去の記憶をなくした俺と、そんな俺を変わらずに愛し続けてくれる彼女。

遠回りをして、一度はすれ違ってしまったけれど。俺たちの『二度目の初恋』は、間違いなくここから始まるのだ。

第19話をお読みいただき、ありがとうございました!

ここからは迷いも消え、正真正銘「0からの(二度目の)初恋」がスタートします。

二人の新しい関係の始まりです!

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