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記憶をなくした俺を、銀髪彼女が全力で甘やかしてくる。〜「1からやり直そ?」から始まる二度目の初恋〜  作者: 比津磁界


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第12話:記憶喪失での初登校。

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


今回は、記憶を失ってから迎える初めての登校日のお話です。

火曜日の朝。

洗面所の鏡の前に立ち、俺は高校の指定であるネクタイを不器用な手つきで締めていた。

中学時代の学生服とは違う、見慣れないブレザー姿の自分。

記憶がない状態で学校という大きなコミュニティに飛び込むのは、正直に言って足がすくむような恐怖があった。


「よし……行くか」


小さく深呼吸をして、一階へ降りる。

玄関で靴を履いていると、外から「ピンポーン」とインターホンの音が鳴った。


ドアを開けた瞬間、冷たく澄んだ冬の空気と一緒に、眩しい朝日が玄関に差し込んできた。


「おはよう、湊くん!」


光のシャワーを背に受けてそこに立っていたのは、制服姿の結愛だった。


朝の柔らかな光を反射してキラキラと輝く銀色の髪に、透き通るようなトパーズの瞳。

寒さのせいかほんのりと桜色に染まった白い頬が、真新しい紺色のブレザーによく映えている。

あまりにも綺麗で、まるで朝の光の中から舞い降りた妖精のようなその姿に、俺は一瞬、呼吸すら忘れて見惚れてしまった。


昨日の夜、あんな風に気まずい別れ方をしてしまったから、少し避けられるんじゃないかと不安に思っていた。

けれど彼女は、そんな空気を微塵も感じさせない、眩しい朝日にも負けないくらい明るくて温かい笑顔を向けてくれた。


「おはよう。……わざわざ迎えに来てくれて、ありがとう」

「ううん、一緒に行きたかったから。……体調は大丈夫? 頭痛くなったりしてない?」

「うん、バッチリだよ」


彼女の美しさと優しさにすっかり毒気を抜かれ、俺たちは並んで家を出た。

通学路を歩きながら、結愛が学校の道順や、通学途中の何気ない風景について教えてくれる。

緊張でこわばっていた俺の肩の力は、彼女の鈴を転がすような声を聞いているうちに、自然と抜けていった。


やがて、見覚えのない大きな校門が見えてきた。

その手前で、一人の見知った男子生徒が壁に寄りかかって手を振っているのが見えた。

中学時代からの親友、柴田涼だ。


「おはよう。顔色は悪くなさそうだね、安心したよ」


涼は俺たちの姿を認めるなり、穏やかな笑みを浮かべて歩み寄ってきた。


「涼、おはよう。お前がいてくれると本当に心強いよ」

「……私は?」

「え?」


隣を見ると、結愛が少しだけ唇を尖らせて、ジト目で俺を見上げていた。


「あ、いや! 結愛が迎えに来てくれたのが一番心強いに決まってるだろ」

「ふふっ。知ってる」


俺が慌ててフォローすると、結愛はパッと花が咲いたように笑い、嬉しそうにはにかんだ。

そんな俺たちのやり取りを見て、涼はどこか温かい目で苦笑いする。


「はいはい、大袈裟だな。ほら、そろそろ予鈴が鳴るから行くよ」


涼と結愛に挟まれるようにして、校舎の中へ足を踏み入れる。

階段を上り、二年生のフロアへ。そして、『2年B組』と書かれたプレートの掛かった教室の前に辿り着いた。


(よし……)


俺は心の中で一度だけギュッと目を閉じ、思い切って教室のドアをガラリと開けた。


一瞬、教室にいた生徒たちの視線が一斉にこちらを向く。

腫れ物扱いされるか、それとも遠巻きにヒソヒソと噂されるか。

俺が身構えた次の瞬間。


「おっ、結城! おはよう! 大丈夫か?」

「結城くーん、無事でよかったね! あんまり無理すんなよー!」


拍子抜けするほど、明るくて軽い、いつも通りの声がいくつも飛んできた。


「え……あ、うん。おはよう。みんな、迷惑かけてごめん」

「迷惑なんて誰も思ってないって。ほら、結城の席そこだから」


戸惑う俺の背中を、涼がポンと優しく叩いて席まで導いてくれる。

席に着くと、隣の席の男子生徒が身を乗り出して話しかけてきた。


「結城、もしノートとか分かんないとこあったら何でも言えよ。俺、一年の時にめちゃくちゃお前に助けてもらった恩があるからさ」

「えっ……俺が?」

「そうそう。まあ、忘れてるならこれから少しずつ思い返せばいいさ。とりあえず、戻ってきてくれてよかったよ」


彼は照れくさそうに笑って、自分の席に戻っていった。

教室中が、俺のことを特別扱いするのではなく、ただ少しお休みしていたクラスメイトとして、自然に受け入れてくれている。

先生や涼が事前にどう話してくれたのかは分からないけれど、みんなが俺のために気遣ってくれているのが痛いほど伝わってきた。


(俺は……なんて温かい場所にいたんだろう)


不安で押しつぶされそうだった胸が、じんわりとした温もりで満たされていくのを感じた。



一時間目の授業は、昨日結愛に教えてもらったばかりの数学だった。


「じゃあ、この問題……結城、休んでたところ悪いが、解けるか?」


先生が黒板の数式を指し、気遣うような声で俺を当てた。

俺は立ち上がり、黒板の数式を一瞥する。

昨日の夜、自室で一人で予習した範囲と全く同じ公式を使う問題だった。


「はい。……その式は、Xに3を代入して因数分解すればいいので、答えはマイナス5です」

「お……おお、正解だ。休んでいたのに、しっかり勉強してるんだな」


先生が驚いたように目を丸くし、クラスからも「おー」と小さな感嘆の声が漏れる。


「記憶喪失のくせに、俺より頭の回転早いのなんか腹立つな」


斜め後ろの席から、涼がからかうように小声で囁いてきた。


「ははっ、涼よりは昔から俺の方が成績良かっただろ」

「言ってくれるね」


そんな軽口を叩き合っていると、斜め前の席に座っていた結愛が振り返り、俺と目が合った。

彼女は「すごいね!」と言うように、小さくガッツポーズをして、嬉しそうに微笑んでくれた。


やがて、四時間目のチャイムが鳴り、待ちに待った昼休み。

涼や結愛、そしてさっき声をかけてくれた男子生徒たちが自然と俺の席の周りに集まり、机をくっつけて昼食を食べることになった。


「結城、お前購買のメロンパン好きだっただろ。今日買ってきたから半分やるよ」

「えっ、いいの? ありがとう」


賑やかな話し声と、笑い声。

結愛が作ってくれた美味しいお弁当(今日はおにぎりと唐揚げだった)を頬張りながら、俺は周囲の友達の顔をゆっくりと見渡した。


みんなの顔も、一緒に過ごした日々も、今はまだ思い出せない。

けれど、この優しくて温かい『日常』の空気は、俺の中に新しい記憶として、しっかりと刻み込まれ始めていた。

第12話をお読みいただき、ありがとうございました。


朝、当たり前のように「迎えに来たよ」と待っていてくれる結愛ちゃんの笑顔で、湊の不安も一気に吹き飛んだのではないでしょうか。一緒に登校する朝、青春ですね!

「友達がいい奴らすぎる!」と思っていただけましたら、ぜひページ下部の☆☆☆☆☆から評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです!

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