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【シャロン】白薔薇の仮面は微笑む  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第六章 十六歳のサムエルの戦いーサムエル視点

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舞踏会


「食事が終わったら、休憩室にご案内しますので、そこでしばらくおくつろぎください。その後、大広間に準備している舞踏会場にご案内いたします」


 父が二人に愛想よく話しかけた。


「ありがとうございます。こちらの料理は非常に洗練されておりますね。とてもおいしかったです。ありがとうございます」


 皇太子が礼儀正しく答える。

 シャロンも、食事につい手、嬉しそうに話した。

「鹿の煮込みがとてもおいしかったです。香草はこの国独自の物で、もう懐かしく感じました。叔母がよく話しておりますので、お土産に持って帰ろうと思います」


「それはいい土産になりそうですね」


 父は非常に愛想が良い。

 皇太子とシャロンが従僕に先導され、控室に移動する。

 残った我々は、大きく息を吐きだした。


「シャロン嬢って、サムエルの事が好きなのかしら」


 母が立って父の横に立ち、扇で隠して聞いているのが漏れ聞こえた。

 やはりさっきの笑顔を見たのだろう。


「わからないよ。なんだかわからないと言ったらいいか。サムエル、大丈夫か?」


「はい、リネット嬢が付いていてくれますから」


 父は顔をクシャッとゆがめた。

「なんだい、それは。頼りない言葉だね。この後の舞踏会では、彼女とダンスを踊ることになっているからね。どんな話題が飛び出すやら、見当もつかないね」


「はい。注意します」


 父がリネットに話しかけた。

「リネット嬢は王太子と踊ることになる。会話に気を付けてくれ。多分探られると思う。できるだけはっきり話さず、はぐらかした方がいいかもしれないな」


 その後ゆっくりと舞踏会の会場に向かった。

 まずは王と王妃が踊り、次にモリス殿下とシャロンが出て行った。僕とリネットは、その姿を瞬く見つめた。


「とても華やかだね。とても似合いのカップルだ」


「ええ、素敵ですね。思い切り目立って、賞賛を浴びていただきたいですわね」


 僕はリネットの手を取り、二組と離れたところで、控えめに踊った。その後に貴族たちが続き、フロアは熱気に満ちて行った。

 一曲終わって戻ると、モリス殿下がリネットを誘いにやって来た。

 リネットが出て行くのを見送り、僕はシャロンを誘いに行く。


「踊っていただけますか、シャロン嬢」


「ええ、もちろんですわ」


 シャロンのダンスは、まるで妖精か雲と踊るように、体重を感じさせなかった。

 

「ダンスがお上手なのですね」


「サムエル殿下もですわ。とても踊りやすいです」


 思えば十一歳のあの時から、彼女とはほとんど接点がなかった。こうして大人の仲間入りをしてから向かい合うのは初めてだった。

 間近に見るシャロンは、少女から大人の女性に向かう途中で、初々しい色気が漂い始めている。

 自分が書いた手紙の中の、「十七歳くらいまで、シャロンに惹かれていた」と言う言葉に、頷くしかない。

 惹かれない男の方が少ないだろう。


 それは絶対に駄目だ、と自分に言い聞かせ、それでもシャロンのけぶるマツ毛や、ピンク色の頬にぼうっと見とれてしまう。

 曲はすぐに終わり、シャロンの手をモリス殿下に引き渡した。

 もっと握っていたいと思ってしまう自分に、かなりの後ろめたさを感じる。


 リネットに目を移すと、困ったような表情で言われてしまった。

「大丈夫でした? 天使様に篭絡されないでくださいませね。この世の方ではないのですから」


「ああ、そうだね。わかっているよ」


 そう言いながらも、目はシャロンとモリス殿下を追ってしまう。

 シャロンの元には、少しずつ人が集まり、その周囲を幾重にも取り囲み始めた。

 昔、園遊会で見た光景と同じだ。


「サムエル殿下、王がお呼びです」


 侍従が呼びに来た。


 父に呼ばれてしまった。多分僕がぼんやりとシャロンに見惚れていたせいだろう。

 怒られると思ったのだが、父の言葉は違った。


「シャロン嬢は魅力的だ。見惚れない方がおかしい。だからお前の態度は自然だったよ」


 そんなことを言ってもらえるとは思わなかったので、驚いた。

「男たちは皆、そんな表情をしている。だからその方が目立たなくて良いってことだ」

 父は周囲を見回し、皮肉っぽい表情をしている。

 周囲を見ると、上ずったような表情の男が多かった。まだ僕の方がましかもしれない。


「シャロン嬢は凄いですね。悪いとか、怖いとかと同じくらい凄い。だけど、僕が選ぶ女性ではない」

 そう言ったら、すごく気持ちが落ち着いた。


「僕にはリネット嬢がいる。僕はリネット嬢が好きです」


「ああ、それでいい。魅力的な物は魅力的だ。たとえ毒の花でもね」


 ダンスフロアを見ると、シャロンが踊っているのが見えた。綺麗なダンスだ。華やかな笑みを浮かべ、非常に楽しそうにしている。

 その様子を、他の女性と踊りながら、モリス殿下が見ている。

 何となく不安そうな、不機嫌そうな表情をしている。嫉妬しているのかもしれない。


 その向こうで、リネットが他の男性と踊っているのが見えた。

 リネットは控えめな微笑みを浮かべ、何かを話している。相手の男も楽しそうに話をしているが、シャロンと踊っている男のような、うわずりきった様子ではない。

 僕はリネットが戻ってきたところを捕まえ、もう一回ダンスフロアに出た。


「モリス皇太子には何か聞かれた?」


「シャロン嬢とは親しいのかと聞かれました。園遊会で一度話しただけで、あまり親しくないと答えましたわ。殿下は疑うような目で私を見ていらっしゃいましたけど、本当に何の接点もないのですから」


 リネットはクスッと笑う。


「モリス殿下のお顔といったら。魅力的すぎる婚約者を持つと、気が気ではないですね」


 僕はリネットの手に軽く口付けした。


「僕の君だって魅力的さ。でも他の男に物凄い微笑みを向けたりしないから、ありがたいよ。モリス殿下はお気の毒だね」


 そう言って笑った途端に、リネットの顔を見て、ぎょっとした。

 引きつって息を飲んでいる。


「どうかしたの?」


 そう聞くと、リネットが下を向いた。


「振り向かないでくださいね。シャロン嬢に、恐ろしい顔で睨まれました」


 僕は踊りながら、シャロンを探した。

 少し離れた所にシャロンがいる。誰かと踊っている。

 その表情は、先ほどと変わらず、満面の微笑み。

 だが、リネットの表情は、見てはいけないものを見てしまったかのようだった。


「もしかしたらですけど、サムエル殿下が私の手にキスしたのを見たせいかもしれません。嫉妬ですわ」


「なぜ、そうなる?」


「さあ」


 そう言ってリネットはため息を吐いた。

 それから、なんだか疲れてしまったと言い、そのまま少し休憩室で休むことになった。僕は彼女をエスコートし、王族用の控室に連れて行った。


「誰か呼ぶから、ここで待っていてくれ。侍女は控えの間にいるのかい?」


「ええ、侍女をここに呼びますね。サムエル殿下は舞踏会場にお戻りください」


 そう言うと、控えていた使用人に、ベルディ侯爵家の侍女を呼んでくるよう言いつけた。

 

「侍女が来るまで、ここにいるよ」


 リネットへの愛情を再認識した僕は、彼女を一人にしたくなかった。

 しばらくすると、ドアがすっと開いた。


「侍女が……」リネットが言いかけて止まった。


 そこに立っていたのは、なぜかシャロンだった。

 

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― 新着の感想 ―
ラストのホラー映画感がヤバい…ミザリーとか貞子が現れた系のヒィッ!てなるやつ。 怒りの形相見られたりわりと軽率に本性出てるけど、白薔薇の天使を演じるなら表面だけでももう少し擬態してくれ…怖いから。
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