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20 ぐーたら令嬢、約束の日を迎える

 その朝は、光に満ちていた。

 何か眩しい明かりで起こされる。それは優しく、私を包んでいた。

『オフィーリア?』

「うぁ…!」

 間違いない、女神の声が聞こえる。つまり今日が、私の誕生日なのだ。

「あーう、うー…」

『胸の中で話せば聞こえますよ』

(あ、ほんと?)

 うまく話せずに眉根を寄せた私に、女神が囁く。

 姿は見えないのに、声と光が彼女の存在を感じさせてくれる。

『元気そうで安心しました』

(まだこれからだけどね。今は平気)

『これから…そう、ですね』

 声が沈んでいる。

(どした?大丈夫?)

『いえ…貴方にこれから降りかかることに、何もできないのが悔しくて…』

 あたりの光がどことなくブルーになる。

 放っておけなくて、何もない空間をそっと撫でた。

(ほんとに平気だよ。今度は何が起こるか知ってるし)

『知っていても、防げないことはありますっ…』

 泣きそうに、声が震えた。初めてあったとき、1ミリも表情を変えずに私の死を宣告した彼女とはもうまるきり別人だ。

 空を撫でる手を止めずに、何気なく聞いてみる。 

(ねぇ、なんか感情豊かになった?)

『…貴方の一生を見て、学びました…』

 震える声が、懺悔に聞こえる。

 彼女はただ、無理やり捧げられてしまった母親の命をどうにか埋めあわせようと動いただけなのだ。それに私の魂が使われたのはあくまでマニュアル的対応で、私を苦しめようという意図は全くなかったに違いない。仕方がないことだったのだ。

 それなのに、律儀に責任を感じる女神はよっぽど人間らしい気がした。

 まぁ、その謝罪がわりに生き返らせてもらったわけなので、私の中では済んだ話なのだが。

『幸せそうな貴方を見ていて、こちらが本来の姿であったのだと思ったのです』

(ああ、なるほど)

 前回の私はぐーたらしていて、最後の日々を除いては特筆することもない人生を生きていた。女神が様子を見ていたといっても、それは定期的な確認のようなもので大したものではなかったはずだ。だからこそ、あの最期は鮮烈に映ったのかもしれないが。

 とにかく、私がただ人に愛され、慈しまれるところを女神はきちんと見たことがなかったのだ。

『私、貴方の人生をっ…』

 泣きそうに歪んだ声と共に、光が小さな女の子の形をとった。同時に、自分の姿が佐野玲奈に戻っていることに気づく。完全に女神の領域に入ったようだ。

 女の子はぽろぽろ涙をこぼしていて、手をのばすと触れられた。

 この幼い姿は、きっと女神の、人としての自我だ。

「女神」

 呼ぶと顔を上げる。その体を引き寄せて、腕に閉じ込めた。

「大丈夫だよ、女神様。今度はうまくやるから」

 なだめるように髪を梳いて、私達は暫く暖かい空間で抱き合っていた。


 抱き合って暫く。

 泣き止んだ女神は、キラキラと光を振りまきながら元の姿に戻った。同時に私も不自由な赤子に逆戻り。

 さっきとは反対に、女神が私を抱き上げた。

 女神らしい笑みで私の額にキスをする。

『誕生日おめでとう。良い一年を、オフィーリア』

 光の雨になって降り注ぐ、誕生日の祝福。

 その瞳と裏腹に、私を抱く手は少し震えていた。

(ありがとう、女神様)

 笑ってみせるとホッとしたように少し息を吐く。

『元気で、玲奈』

 その言葉と共に私の世界は反転し、気づけば公爵邸のベッドへ戻っていた。

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