16 ぐーたら令嬢、決別
次に目覚めると見覚えのある腕の中だった。ソファーに座って、公爵夫妻に詰め寄るシーンだ。
公爵の私を見る目が以前よりも嬉しげに見える。今回は泣かなかったので、おとなしい、与し易い子だと思われたのだろうか。
ともかく、話はだいたい前回と同じ筋を辿って、私は公爵家に引き取られることになった。
夜。前回は寝た振りをして聞いていた叔母の話を、今回も目を閉じて聞いた。
親愛と恐怖に挟まれて、それでも投げ出さずにいた強い人。声を聞いているうちにその目を見たくなって、話し終えたタイミングでそっと目を開けた。
起こしてしまったと思ったのか、少し慌てて抱き上げようとするのを、目で制す。
まだほんの子供だ。多少見たぐらいで真意が伝わるとも思えなかったが、叔母は動きを止めた。
「オフィーリア…?」
呼びかけてくる声。恐怖よりも心配が勝った様子の声に、つくづく優しい人なのだと感じる。そんな人にはもっと平凡に、平和に生きてほしかったのに。
叔母の目は涙をたたえていた。
私のためでも、自分のためでもいい。一度、泣いてはくれないだろうかと思った。泣いて、心のなかにあるものを全て吐きだして、これを限りに幸せな生活に戻って欲しい、と。
刹那、叔母の目から一筋、涙がこぼれた。追うように次々と溢れる。
その涙を拭いながら、それでも、叔母は私を見ていた。頭に焼き付けるように。
私も、叔母を見ていた。
オフィーリアをこんなにも愛してくれた人がいる。そのことを覚えておくために。
心のなかで叫んだ気持ちは伝わっただろうか。
ごめんね、あなたの姪っ子じゃなくて。
ごめんね、あなたのお姉さんじゃなくて。
きっと、あなたのことを何一つ知らないけど。
それでも、あなたが大好きだよ。
どうか…幸せな人生を生きてね。
翌朝、目が覚めると叔母はすでに出立した後だった。
変わりに残された、枕元に置かれたロケットペンダント。
私に見えるように開かれたそれには、見知らぬ女性が映っていた。
叔母とどことなく似た面差し。優しそうなその人は、きっと私の母親なのだろう。
ここに置いていったところですぐに公爵家の誰かに見つかる。そんなことは叔母もわかっていたはずだ。だからこれは、ただ今日の私に見せるためだけの、プレゼントだった。美しい装飾の施されたそれは、きっと安くない。
どこまでも、優しい人だった。




