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コミカライズ記念番外編:ご令嬢、愛が見える薬を飲む

2026年3月より、KADOKAWAタテスクレーベルより、WEBTOONコミカライズ始まりました!

カドコミ、各電子書店にて配信中です。

読み応え満点で美麗なラブコメにしていただいております~!

よろしくお願いいたします!

 ★本編4章くらいのマルティナと殿下のお話★



「殿下! ビッグニュースですわ!」


 魔術学院のローズガーデンにて。

 マルティナによってテラスに呼び出されていたルディウスは、「あぁん?」と不機嫌そうに片眉を上げた。


 彼の前には、半分ほどフォークで削り取られたホールサイズのクリームケーキがある。ヤンキーはちまちまとカットされたケーキなんて食べないのだと言う彼のために、マルティナが張り切って焼いた大きなケーキだ。

 マルティナが「ケーキを切り分けずに独り占めするなんて、なんてワル! 異世界の不良、恐るべしですわ!」と、ケーキを貪る婚約者に見惚れていたせいで報告がやや遅れてしまったのだが、本題は冒頭の「ビッグニュース」だった。


「んだよ、食ってる最中に。しょうもねぇネタだったら、許さねぇぞ」


「それには及びませんわ。なんとわたくし、“愛が見える薬”を手に入れましたの!」


「はぁッ?」


 自信満々に胸を張るマルティナを見たルディウスのフォークの先から、ぽとりとひと口大のケーキが皿に落ちた。


「“愛が見える薬”だぁ? んなご都合主義の権化みてぇな薬があんのかよ」


「魔法薬学の先生が開発されまして、わたくし、効き目に関するサンプリング調査に協力することになりましたの!」


「おいおい。だいじょうぶかよ? 副作用とかねぇんだろうな?」


 マルティナが懐から取り出した小瓶には、蛍光ピンクの液体が入っている。如何にも怪しい薬ですと言わんばかりの見た目に、ルディウスは怪訝そうに顔をしかめているが、マルティナ本人はどこ吹く風だ。


「人体には無害らしいですわ。愛がハートの形になって見える……ただし他のものを口にすると、あっという間に効果が切れるんだとか。さっそくこれを飲んで、殿下の愛がどれほどわたくしに注がれているのかを確かめますわ!」


「なッ! てめぇ、俺が愛だとぉ? んなもん、あるわけねぇだろ! 何も見えなくて、泣くはめになるぞコラ!」


 マルティナの宣言にルディウスは声を荒らげた。馬鹿にしているような乱暴な口調でありながらも、なんとなく気遣いがうかがい知れる声調だ。

 色々あって、マルティナのことを「未来の王妃」であると言い切った彼なので、まさかまったく何も見えないことはないだろう――そうマルティナは踏んでいた。


「たとえ、視界がハート乱舞でなくとも、現状の愛を知れる機会は貴重ですもの。今後のアプローチ方法のいい検討材料になりますわ」


「てめぇ、どんだけポジティブなんだよ」


「殿下を信じているが故ですわ」


 舌打ちをするルディウスをよそに、マルティナはきゅぽんっと小瓶の蓋を引き抜いた。

 じっと見ていると目が痛く色の液体からは、甘ったるいフルーツのような香りが立ち昇る。一口薬を口に含むと、色と香りに反した青臭い苦みが舌に触れ、マルティナは思わず眉根を寄せた。甘そうな薬だと思ったのに、かなり苦くてまずい。


(う~~~っ! 脳がバグる味ですわぁぁぁ……って、あら????)


 あまりの酷い味に目をぎゅっとつぶっていたのだが、瞼を開けると視界がおかしくなっていた。


「目の前が真っ赤‼」


 マルティナは素っ頓狂な声を上げた。右を向いても左を向いても、視界すべてが赤いのだ。スプラッタな世紀末かしらと怯えたくなるほどに真っ赤だ。


「ひえぇぇんっ! 欠陥品ですわぁっ! 一面赤くて、何も見えません! 殿下、どちらにいらっしゃいますの!?」


「おいおいッ! やっぱダメじゃねぇかよ! 大丈夫か⁉」


「まぁ、殿下のお声が近くから」


「チッ。動くなよ」


 赤色以外何も見えないマルティナは、焦りながらあっちこっちをきょろきょろとしていたのだが、聞き慣れたルディウスの声によって落ち着きを取り戻した。

 愛しい人の体温が近づく。視界は真っ赤すぎてチカチカしているが、これは……この展開はもしや――。


(視界ゼロ状態の女性に男性が不意打ちの口づけをする場面では⁉)


 ドッドッドッド。数々のロマンス小説の文章が浮かんできては、マルティナの心臓を景気よく叩きならしていく。

 なんて美味しいご都合主義。視界は赤いけど。

 いやしかし、今の自分の口は、青臭いのでは? 視界は赤いけど。そんなことに気づいてしまい、マルティナは途端にオロオロとし始めた。


「で、殿下! 先に歯ブラシを!」


「うるせぇ口だな。塞ぐぞ」


「ひぇっ! そんな台詞、いったいどちらで――って、むぐぐっ⁉」


(甘い⁉)


 残念ながら、初キスの味ではない。

 マルティナの口に無理やり塞いだものは、ルディウスの唇ではなく、甘くとろけるクリームをまとったケーキだった。

 そして、次の瞬間には、マルティナの真っ赤に染まっていた視界は元通り。目の前には、翡翠色の瞳に心配の色を滲ませるルディウスの姿があった。


「どうだ……?」


「殿下……! ご尊顔が見えますわ!」


「……そうかよ。他のもんを口に入れたら、薬の効果が切れるって言ってたしよ。仕方ねぇから、俺のケーキを食わせてやったんだ。感謝しろ」


 あっという間にいつもの粗暴な空気に戻ったルディウスは、ぶっきらぼうな物言いでそう言い放つ。

 しかし、彼の手に握られているものはフォークではなく、ティースプーン。万が一でもマルティナのことを傷つけないようにと、配慮してくれたらしい。


「んもうっ! 殿下のそんな優しさが愛おしいですわ! 薬はなぜか効果が出ませんでしたけど、見えなくったってちゃーんと分かってますから、わたくし」


「はぁ? 何がだよ。ってか、もう二度と変な薬なんか飲むんじゃねぇぞ!」


「はーい♡」


 にこにこでれでれと喜ぶマルティナを、ルディウスが目を吊り上げて睨みつける。


 ところでマルティナの赤一色の視界の正体について。

 それは、辺り一帯をどどーんっと覆ってしまっていたルディウスの巨大な赤色ハートだったのだが、マルティナがそのことに気が付くのは、もう少し後の話――。


ご読了ありがとうございました!

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