87. 勇者と血の父
前回のあらすじ!
モコさんも救出できて、デイライト親子も無事に仲直りして、めでたしめでたしです!
そして親子の絆を見たチギリちゃんは、悩みが解決! お姫様のところへと……
「チギリは? まだリオのところか?」
「一度帰って、それから『王宮に行く』……と」
「あいつが? 何企んでやがんだ……」
「ぶひ」(心配だな!)
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「お姫様ー!」
「うひぇ!? ノックして下さいよ!」
それは申し訳ないです。ベッドに寝転がって本を読んでいる真っ最中でした。ギューホゥさんが入っていいって言うもんですから。
「まあ、いいです。それより、慌ててどうしたんですの?」
「はい、今日は姫様を説得に来ました!」
デイライト・シティでの一件を経て思いました。家族にもいろいろ、愛はそれぞれ、ですが、まずは家族同士が向き合わないと何も始まらない! ウールさんがそれを教えてくれたんです。
「ラッさんに本当のこと、話しましょう!」
「え、はい? あの先日、理由はお伝え……」
「されました! でもこのままじゃラッさんが可哀想です!」
家族と向き合いたくても、その相手が誰なのか、それさえ知らされないままなんて、あまりにも不憫です。
「もうっ! そっちの都合ばかり話さないでくださいっ!」
怒られちゃいました。調子に乗りすぎましたか?
「私だってねぇっ、今すぐにでも抱き締めて『おかえり、お姉ちゃんだよ』って言ってあげたいですわ!」
「だったらしてあげればいいじゃないですか」
「私の都合だけで……彼は勇者ですよ!? この世界の希望ですよ!? 余計な動揺を与えてどうするんです」
確かに勇者としてのお仕事も大切なことです。しかし私は知っています。
「ラッさんはそんなことで弱くなりません! 強いんです!」
「で、ですが……」
「そして、怯えているのはそっちではないですか?」
「えぇ!?」
決まりました。これで最後のひと押しです。
「ラッさんが、自分たちを家族と認めてくれなかったらどうしよう、って。だから逃げているんじゃないですか?」
「ギクーッ! そ、そそそ、そんなこと……」
図星のようですね! ギクッ、って口で言ってる人初めて見ましたよ。王様相手ならこうはいきませんでした。
「そっちが真剣なら、ラッさんはきっと認めてくれますよ」
「で、でも……今更なんて言えば……」
「でもじゃありません! ラッさんと向き合ってあげて下さい! ラッさんのこと大切に思ってるなら!」
「大切に決まってます!」
即答でした。言えたじゃないですか。
「……お父様とお母様にも相談、いえ、説得してきますわ!」
「はい!」
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「あ、ギューホゥさん、チギリがこちらに来てるって……」
「ちょうどよかった。陛下がお待ちですよ」
「は? いや、俺はただ迎えに……」
ラスターさんが玉座の間にやって来ました。いよいよ親子の感動の再会……何回もあってますけど、改めてです。
「ラスター、よくいらした」
「姫もいるわよ」
「何だよ、これ……てかチギリ? 何してんだ……」
「私はただの立ち合いですので!」
ラスターさんは思いっ切り顔をしかめています。これからその顔が笑顔に変わるのが楽しみですぜ!
「ラスターよ、落ち着いて聞いてくれ」
「……何ですか?」
「お前は実は……実は……」
王様がヘタレてしまいました。困り顔で黙り込んでしまっています。
「あの……?」
「王様、何してるんですか、早く言わないと!」
「いや、しかし、いざとなると……」
気持ちは分かりますけど、お姫様に説得されて納得したんじゃなかったんですか? そうしていると、お姫様がため息をつきながらラスターさんに歩み寄りました。
「姫……?」
「おかえり、ラスター。お姉ちゃんだよ」
お姫様は優しくラスターさんを抱き締めます。ラスターさんはビックリ仰天、目をまん丸にしています。
「姫……えっ、お姉ちゃん、って……」
「あなたは国王カプルザースの息子、私の生き別れた弟ですの」
「は!? えっ、まさか、でも本当にそんなことが……」
結局お姫様が言っちゃいました。王様は満足気に頷いています、「うんうん」じゃないんですよ。
「まことじゃ、ラスター。鑑定結果もある」
「マジかよ……」
「ね、ラスター、あなたさえ良ければ、もう一度家族として……」
ラスターさんは、優しくお姫様を押しのけました。多分ですけど、ダードさんのことを気にしているんだと思います。ですが、家族の形はそれぞれです。
「ラッさん!」
「な、なんだよ?」
「アリエスさんは奥さんが5人もいるんです、父親が二人いるぐらいなんですか!」
ラスターさんは一瞬渋い顔をしましたが、その後穏やかに微笑みました。
「……だな。陛下、姫、俺を家族と認めてくれますか?」
王様も、お姫様も、嬉しそうにうなずきました。良かったですね、ラスターさん。
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「……ま、だからって何か変わるってわけじゃないけどな」
国民の皆さんにはまだ秘密なんですよね。混乱を招きますからね、それに本人たちが分かっていれば、それでいいと思います。
「別にいいけどな、王子なんてガラじゃねぇし」
「まったくです!」
でも何も変わらないわけじゃないですよ。ラスターさんの帰る家が、また一つ増えました。
「お前もありがとうな」
「いえ、いいんです! やっぱり家族は一緒じゃないと!」
「……そうだな、そうだよな」
急に遠い目をしました。どうしたんでしょう?
「俺も、ちゃんと向き合わないとな」
「何の話ですか?」
「……家族の、話だよ」
続く




