第39話 一周年記念と報告と
すみません。放置してました。
下書きのはあったので、まずはこちらをアップします。
内容、すっかり忘れてました。
電動泡立て器で混ぜた生クリームをレンジくんに焼いてもらったスポンジに塗っていく。
間にはイチゴとキウイを挟んでみた。
ケーキの上にもイチゴを飾る。
「ご主人、気に入ってくれるといいね?」
「うーーん・・・それより、覚えてるかのほうが不安・・・」
「ダイジョーブ〜。ご主人はプ〜ちゅわんに関わることは絶対に忘れないから〜」
冷蔵庫くんはそう言うけど、私は忘れてると思うんだよね。
ザイがこっちにやってきた日。
私たちが初めて会った日。
一年が経ったなんて。
早いよな〜。
左手のブレスレットはあの花火の日から取れないけど、呪われてるとは思えないし、逆に安心する。
お料理のときに邪魔かな?と思ってたけど、存在感がないくらい全く気にならなかった。
あの日からザイもブレスレットを付けてるし。
お風呂の壁はずっとゆらゆらしてて洗えないけど。
でもまだザイの国、リュッセルシュルツに行こうとはザイも言わなかった。
言わないでいてくれた。
それも嬉しかった。
やっぱりザイツァルは優しい。
で、今は佐伯くんと葛城くんに呼ばれて出かけてたりする。
なんやかんやで仲良いよね、ほんと。
その鬼のいぬ間に・・・じゃないけど、一周年記念のケーキを焼いたり、チキンをソテーしたりしてるわけです。
「ただいま〜」
あ、帰ってきた。
そういえばもう夕方だし。
「めっちゃいい匂いだな」
キッチンにやってきたと思ったら、後ろから抱きしめられた。
「咲希の匂いと、チキンの匂い。どっちも食べたい」
「もうちょっとだから、待ってんむぅ〜」
話してる途中でキスをしないでいただきたい。
ひとしきり私の唇を味わった後、ザイはケーキの存在に気付いた。
「あれ?なんでケーキ?」
「えっと、一周年記念だからよ?」
「一周年?って・・・俺がこっち来てから、か」
私を後ろから抱きしめながら、ザイは私の頭の上に顎を置いた。
「風呂場でお前を見たのが初めてだよな。はぁ〜、まさか《半身》だったなんてな」
「私だってびっくりしたんだから!壁からいきなり出てきて、ゴゴゴって変身しようとするし!あ、そう言えばザイのお父様、音もなくドラゴンになったよ?」
「ああ。リュッセルシュルツではそれが出来るんだよ。ああ〜、早く飛びてぇな」
ザイは大きく息を吐いた。
だよね。飛びたいよね。
ドラゴンになりたいよね。
私も見てみたいし。
「・・・行ったら、行ったきり、かな?」
「ん〜どうだろうな?兄貴に言ったら開けてくれるんじゃねぇか?」
「・・・じゃ、行く?」
「・・・え?」
ザイは私の向きをくるりと変えた。
向き合う形になる。
「帰って・・・良いのか?」
「卒論、頑張って早めに提出するから、冬休み中に行ってみる?帰れるなら一旦帰って卒業したいけど。その後はもう、ザイと一緒で良いよ」
「咲希!」
むぎゅうと抱きしめられた。
ザイの匂いとチキンの香ばしい匂い・・・って
「こーげーるー!」
「ジタバタすんな。柔らかさを堪能してるんだ」
「こーげーるーかーらー!お尻を揉むな〜!」
「このケツの肉を喰ったら美味そう」
私だって切り分けたいよ。
しばらくジタバタとしていたら、ザイは離してくれた。
チキンは皮目がパリッパリに仕上がって、結界オーライでした。
私は卒論という名のレポートを頑張り、それをしている間に親にも二人で会いに行った。
「冬休みの間に天野くんの実家に行ってくる」
「え?アメリカに?あんた、お金あるの?」
驚く母に、私と天野くんは悩んだ末に全てを打ち明けてみた。
リュッセルシュルツという国の第五皇子ザイツァルであること。
その世界はドラゴン族が治めていて、馬族やら長耳族やらトカゲ族なんかもいること。
私がザイツァルの《半身》で、運命の相手であること。
などなど。
それを聞いて父は驚いていたが、母はなんだかすっきりとした顔をしていた。
「どうも変だとは思ってたのよね、あなたたち。もしかして恋人同士じゃないのかしらとも思ったけど、そうじゃなかったみたいね。皇子様だったのね。ほんとにこんな娘でいいのかしら」
困ったわと言う母に、ザイツァルは頭を下げた。
「絶対に幸せにします!だから、咲希さんを俺にください。リュッセルシュルツに連れ帰る許可をください。お願いします」
「私からもお願いします」
私もザイツァルに習い頭を下げる。
両親は顔を見合わせ、何か考えているようだったけど、表情を和らげると頷いてくれた。
「こちらこそ。こんな娘を選んでくれてありがとう。天野くん・・・ザイなんとか君」
父親が頭を下げてくれた。
それを見て、私の目から涙が溢れていた。
「あらあら、咲希ったら。泣かないの!ってなんで貴方まで泣いてるの?」
お母さんは泣いているお父さんを見て、ギョッとしていた。
「だって、咲希が知らない国に〜」
「しょうがないでしょ!咲希は天野くんを選んだんだし。しかも皇子様なら言うことないでしょ?!」
「もう、会えない〜」
「会えるかもって言ってたでしょ?貴方、さっきの二人の話、聞いてなかったわね?あー、もう!」
何やら夫婦漫才が始まったようで、私の涙も自ずと引っ込んだ。
ザイは私を抱き寄せるとポンと頭に手を置いてくれた。
「許可は頂いたな。お姫様」
耳元で囁かれた声に、私は耳を赤らめた。