エピローグ 希望の一滴
海の音がする。
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穏やかな波。
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優しい風。
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青い空。
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かつてブルーマーズから失われた景色。
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今では当たり前の景色だった。
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Water War終結から十年。
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世界は大きく変わった。
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水は再び共有資源となった。
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ウォーター口座は廃止された。
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人々は自由に水を飲める。
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子供達は雨の中を走り回る。
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誰も水不足を知らない。
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誰も水戦争を知らない。
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それでいい。
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アクアはそう思う。
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忘れられるということは。
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平和になったということだから。
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海辺の研究所。
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アクアは窓から海を眺めていた。
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今日も美しい。
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本当に。
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美しい。
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「また海を見てるの?」
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後ろから声がする。
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リアだった。
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以前より少し年を重ねた。
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だが相変わらず元気だ。
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「だって好きなんだもん」
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アクアが笑う。
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「誰かさんに似たのね」
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リアも笑った。
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誰かさん。
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もちろんジョウだ。
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今でも研究所にはジョウ博士の写真が飾られている。
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白衣姿で笑う男。
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世界を変えた研究者。
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だが。
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本人はきっと。
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そんな大層なことは思っていない。
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ただ。
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人が安心して水を飲める世界を作りたかっただけだ。
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その時だった。
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研究所の外から歓声が聞こえる。
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子供達だった。
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海辺ではしゃいでいる。
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波打ち際で遊んでいる。
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アクアはその光景を見つめた。
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そして。
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不意に思い出す。
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『飲める水は、金より価値がある』
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父の口癖。
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『水がなきゃ三日でお陀仏さ!』
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いつも笑いながら言っていた。
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「本当にそうだったね」
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アクアは小さく呟く。
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リアが隣へ来た。
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二人で海を見る。
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しばらく無言だった。
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だが不思議と心地よい。
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その時。
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研究所の壁に掛けられた額縁が風で揺れた。
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古い研究資料。
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Blue Mars Rebirth Project。
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その下に。
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一行だけ。
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ジョウの手書きの言葉が残されている。
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『人は水で生きる』
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『でも未来は希望で生きる』
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アクアは微笑んだ。
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きっと。
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父が本当に残したかったものは。
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浄水システムじゃない。
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海でもない。
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最後の一滴でもない。
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諦めない心。
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未来を信じる力。
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希望だったのだ。
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窓の外では波が輝いている。
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青い海。
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新しい世界。
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あの日。
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たった一滴から始まった奇跡。
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その一滴は海になった。
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そして。
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その希望は今も。
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世界中の人々の中で生き続けている。
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完




