プロローグ 最後の一滴
飲める水は、金より価値がある。
水がなきゃ三日でお陀仏さ。
そんな言葉が、冗談ではなくなった時代があった。
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ブルーマーズ。
かつて「青き惑星」と呼ばれた世界。
海があり、川があり、湖があり、雨が降ることが当たり前だった星。
しかし今、その青さは失われていた。
干上がった河川。
ひび割れた大地。
水を巡って争う人々。
そして――戦争。
人類は石油ではなく、水のために人を殺すようになった。
それが当たり前の時代だった。
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巨大企業オアシスコーポレーションは、水を支配していた。
彼らが発明した合成飲料水は、人類を滅亡から救った奇跡だった。
だが同時に、人類を水へ依存させた。
人々は働き、水を買う。
企業は水を売り、利益を得る。
水は通貨となり。
水は権力となり。
水は命そのものになった。
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それでも。
諦めなかった人がいた。
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清水ジョウ。
伝説の浄水研究者。
海水を飲み水へ変える夢の技術を追い続けた男。
誰もが不可能だと言った。
誰もが笑った。
それでも彼は研究を続けた。
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だが。
その夢が完成することはなかった。
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研究中の事故。
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それが公式発表だった。
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そして人々は言った。
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夢想家が死んだ。
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だが。
ジョウは何も残さなかったわけではない。
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小さな娘に。
一つのペンダントを残していた。
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「困った時に開けなさい」
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幼い娘は首を傾げる。
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「何が入ってるの?」
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ジョウは優しく笑った。
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「希望だよ」
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その意味を理解できるほど、娘はまだ大人ではなかった。
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そして二十年後。
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少女は研究者になった。
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父と同じ道を選び。
父と同じ夢を追い。
父と同じように世界に笑われていた。
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彼女の名前は――
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清水アクア。
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後にブルーマーズ最後の戦争を終わらせることになる、一人の研究者である。
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その時まだ誰も知らない。
世界中が探し求めることになる「最後の一滴」が。
ずっと彼女の胸元にあったことを。




