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4話-1 旅立ちの日

3話おまけはしばしお待ちを……

 夜闇の空の覆う頃には、機械の街といえど暗いものだ。大聖堂の裏手口、四角いガラス張りの自販機の前にオーダシューは居た。彼女は周囲をキョロキョロと見渡し、機械で作られた木の上を睨みつけた。そこには、蜂の巣のような形のカメラが仕掛けてある。


「やはり、監視が増えてるな」


 オーダシューはクオリアギアを使い、金属のタンクを取り寄せ、自販機にセットする。未来オレンジル・オレンジアヴニールと書かれたその自販機からは、透明な液体がタンクの注がれてゆく。


 5リットルは入っただろうか。オーダシューはこれを軽々持ち上げ、そそくさと大聖堂に戻った。


 真ん中の吹き抜けから簡易的な手すりがつけられたのみの板状の魔力エレベーターを使い、中心の塔9階まで登ると、そこにはファンティのために作られた部屋がある。他のファンタスクはこの下の階に部屋があるので、この階層を使用できるのはファンティと、枢機卿と近しいような、お偉いさん方のみ。


 その円形の片隅にあるファンティの部屋の前に来るも、そこに護衛はいない。この聖堂自体に守衛がついており、万が一の時は下の階からヴェルヌ騎士団が緊急出動すればいい。そもそも、ファンタスク自体も、一般的な機械生命に比べたら、十分強い部類だから、こんなにも手薄なのだ。


 しかし、手薄なのはオーダシューにとって有り難かった。オーダシューは彼女の部屋をノックする。


「ファンティ、ファンティ」


 扉を押してみると、無防備にもあっさりと侵入できた。部屋は絢爛とはしておらず片付いていて、わりと質素な作り。しかし、ファンティの趣味か、ファンシーな動物の人形がたくさん戸棚に並べられていて、そこだけはごちゃごちゃしていた。


「なぁに?」


 目のライトを照らし直したファンティから察するに、もうスリープモードに入るつもりだったのだろう。こする足にはいまだに傷が残り、黒く変色している。


「傷の具合は大丈夫か? 未来オレンジル・オレンジアヴニールを持ってきた。よかったら飲んでくれ」

「わぁ〜、ありがと〜。うん、これはまだ残ってるけどだいぶ良くなった〜」


 手渡されたその金属タンクをファンティは大事そうに受け取ると、彼女の首はシャッターが開くように穴が空き、さらにこのタンクをひっくり返してそこに取り付けた。すると、ゆっくりと液体の下降していく音が聞こえる。それみよがしに、オーダシューは足を畳んでカプセルのようなベッド横の椅子に座り込んだ。


「うん、おいしい〜」


「ファンティ、飲みながらでいい。聞いて欲しいんだ」


「なに〜?」


「今日の昼、黒い怪物を見ただろう。あれを倒すために、この国を出ないか?」


「ええー、なんで〜」


 ファンティも突然のことで驚きを隠せない。すかさず、オーダシューが概要を説明する。


「あの黒い怪物、調べてみた限りだとモルトファンタスクというらしい。あいつはこの国をめちゃくちゃにして、アタシたちから、アンドンターブルを奪った」


「うそ……反応がないとは思ってたけど……ほんとに……」


 ファンティは、悲しみ、人間で言う口元を抑えて泣く音声を出す。


「そこで、奴に恨みを晴らすため、退治の旅に行こうってことだ」


「枢機卿には、いわないの?」


「……あの方に申し上げたって、わかってくれやしないさ」


「でも〜、この国を離れるのって怖いと思うよ〜」


「本当にそうか?」


 これに対し、オーダシューの反応はしめたっ、というものだろう。あと一押しで相手の心を揺さぶることができる、そう考えて、あらかじめ持ってきていたとある本を開いてみせた。


「ちょうど図書館で借りてきたんだ。これは、世界各国の観光地を描いた本。見てみてよ、この広い砂漠! そこに住んでいる生物は暑く過酷な昼と寒く過酷な夜を過ごしているだって! 他にもこの遺跡! 苔むした石でできた巨大な神殿があるんだってさ! 他にも落差が凄すぎて消失してしまう滝まであるんだ!」


 ファンティはこの話に食い入るように聞く。彼女の世界への興味は、計り知れないだろう。


「こんな未知の世界が見れるなんて、夢のようだって思わない? けど、旅の途中で、どれか見れるかもしれない。そうでなくても、外の有機生物に溢れた光景は、それだけでも面白いと思う。どう、外に行ってみる気はしない?」


 オーダシューは最後に、ぐっと押すように前のめりになり、後ろ脚を浮かせる。しかし、こんなことせずとも、ファンティの腹は決まっていた。


「ファンティ、外の世界が見たい……! この国の中にいるんじゃ想像できないような、広い世界が見たいなって思うんだぁ。だから、この提案は飲みたいよ〜」


「よし、決まりだな!」


 オーダシューは足を大きく鳴らし、拳を握ってみせた。予想通りにことが進み、堪えきれなくなったのだろう。


「そうとなれば善は急げ……」

「でも倒すのはだめ〜」

「えっ」


 しかし、ファンティは手でバッテンを作り、彼女を諭す。この反応まではオーダシューにとって予想外だった。


「だって、こんなにファンティを痛めつけた相手だぞ! それにアンドンターブルだって……」


「けど、きっと対話でなんとかできると思うよぉ。前は話もせずに逃げ出してしまったから……」


「……」


「大事なのは、お話すること。どんな相手でも、話し合えば、実はそんなに煙たく思う相手ではないってなるはず。こうすれば、争いも、少しはましになるんじゃないかなぁ〜」


 呑気に語るファンティに相槌を打つも、無言から伝わるように内心オーダシューは呆れていた。どこまでも平和ボケした考え、黙示録の獣(ビースト)のように美しい世界に反してそこに住む有機生物の心は醜いと思っているオーダシューにとって、彼女のような清水が濁るような光景を予想すると、心が思いやられる。彼女はル・マランと違う本当の悪意を見ても、美しくいられるだろうか……。オーダシューは悩み続けた。


「とにかく、明日の深夜に国境付近、トリアルザ国際貿易輸送センターに集合だ」


Ouiウィ!」

ジャンボンガ「今日のカード紹介! 今日はこれだぜ?」

機械マシーネ神官エメポミス

チェイサー

光属性 種族 メカーニス

コスト2 攻撃力1 守備力2 速さ-1

速さが10以上になったプレイヤーは、そのラウンドの終わりに速さを0にする。

ジャンボンガ「マシーネテスプリのお偉いさんだな。まさにルールを付与する効果だ」

カトリーヌ「速さをあげすぎるとオーバーフローする、実に単純ながら厄介なスキルですよね。《アイスバーン》辺りと組み合わせると良いコンボが作れそうです」

ジャンボンガ「あんな大規模な破壊の後だ、商売もろくにできやしない。この国もどうなっちまうんだろうな」

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