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 二人は散歩を続けた。

 いつもと同じ散歩の時間。風景。心象。

 でも、途中でちょっと変わったことが一つあった。海がふと散歩のコースを変更したいと言い出したのだ。(それはとても珍しいことだった)

「ねえ、渚。あっちに行ってみない?」と海は言った。

「うん。別にいいよ」と渚は答えた。

 それから二人はいつもの散歩道とは違った道の上(と言っても相変わらずの森の中の道なき道の上だけど)を歩き始めた。

 いつもとは違う道を歩いているけれど、森の風景はほとんどなにも変わらなかった。違う道を歩きたいと思ったことは、海が今日の散歩をはじめたときから、そうしたいと思っていたことではなくて、(そんな予感もなかった)本当に直感のような、(あるいは偶然の出来事のような)突然の思いつきだった。

 二人は新しい散歩道の上を手探りで歩き続けた。


 世界とは幻想の上に成り立っているのである。なら、私の幻想で世界を構築してしまっても構わないだろう。私の幻想の世界の中で、あなたを蘇らせてしまっても構わないだろう。

 そんなことを真白な空を見ながら、海は思った。

(散歩をしながら、いろんな空想をするのが、海の楽しみ、あるいはちょっと変わった彼女の癖だった)

 空はどう? 雪が消えて、空を覆っているあの白い雲が消えて、青色の空と、美しい太陽の光が見える。(右目が見えないのが残念なくらいの、美しい太陽と美しい青空だ)その世界には誰もいない。余計なものはなに一つ置いていない。

 神様だって、きっと私たちのことを見て見ぬ振りをしてくれる。

 世界はどう? どうもしない。私たちの世界は綺麗まままで、どこにも、小さな傷一つ、ついていない。世界はいつだって完璧であり、私たちの心はちっとも壊れてなんかいない。赤い血にまみれたり、空が割れたり、大地が粉々に砕け散ったりはしていない。

 私たちは愛を守るために嘘をつく。(渚は嘘をつかない。でも私は今も嘘ばかりをついている)その嘘は清らかで美しい、正しい嘘だろうか? それとも汚れきってしまった、醜い、間違った嘘なのだろうか?

(……きっと、間違った嘘なのだろう、と海は思った)

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