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私は軽薄な人間だった。
空から降る白い雪を見ながら、海は思った。
優しい、清らかな心を持った星が自分の元から去って行ったことも当然のように思えてくる。
私の心はとても醜いのだ。(……とても人様には、とくに仲の良い友達には、……星には、絶対に見せられないくらいに)
だけど、この森は美しい。
軽薄な私にも、きちんとその美しさを(惜しげもなく、自身の存在を誇ることもなく、文字通りに自然に)私の目に見せてくれた。
私の心を、魂を震えさせてくれた。
森にやってきて、海が一番最初に感じたことはこの場所が「とても綺麗なところだ」ということだった。
森の奥に進み、街の(あるいは人の)生きる痕跡がほとんど(道がある以上、全部は消せない。なにより海自身が人だった)なくなったころ、海の目の前にあらわれた美しい森の風景を見て、本当に海の心は、(あるいは魂は)感動で打ち震えた。
その証拠に海はその場でぼろぼろと泣いた。
声を出して、その場にしゃがみこんで、(とても、立っていられなかった)身を悶えるようにして、泣き続けた。
泣きながら、海は、ここが私の求めていた場所なんだと思った。
この森で暮らそう。
私の短い人生はこの美しい森の中で終わるのだと思った。
「緑色の夏の森も、枯葉の色に染まる秋の森も、すごく綺麗だったけど、やっぱり雪の降る冬の森も、……すごく綺麗だね」と海は言った。
「そうかな? 私には、すごく寒いな、くらいにしか思えないけどな」と身を縮こまさせて、渚は言った。
渚の言葉を聞いて、海はにっこりと笑った。
海はこの森の美しさに(思い出の中だけではなくて、もちろん、今でも)心底感心していた。こんなに美しい世界があったのかと本当に海は感動したのだ。美しさとは正しさである。心が美しいと感じるということは、その世界が(きっと)正しいということなのだ。
海が森で暮らす決心をしたのは、そんな理由も一つにあった。




