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次の日の朝、雪は止んでいた。
でも、世界は真っ白なままだった。森には霧のように深い靄がかかっていた。大地の上には雪が積もり、空は曇ったままだった。
そんな世界の風景を朝早い時間に起きた星は、窓際からじっと見つめていた。
星はパジャマからいつもの服装(学院の黒色の制服と山吹色のコート姿)に着替えをした。洗濯をしたおかげで、一度泥だらけになったそれらはすっかりと綺麗になっていた。
毛布をたたんで、部屋の中を片付けて(ほとんど片付けることはなかったけど、一応)持ち込んだ荷物を持って、星は自分の部屋を出て大きな部屋に向かった。
(廊下を通る際に、星はちらっと黒い電話を見た。電話はずっと沈黙していた)
大きな部屋に入ると、そこには澄くんがいた。(澄くんは自分の深緑色の大きくて頑丈そうな布で作られたリュックサックに、なにか荷物を詰め込む作業をしていた)
澄くんは森で出会ったときの(黒色のパーカーと黒色のぶかぶかのズボンという)服装をしていた。首には青色のマフラーを巻いている。それから澄くんは新しく黒い手袋をしていて、腰のところには輪っかの形にまとめた頑丈なロープのようなものを下げていた。
「おはよう」と澄くんが言った。
「うん。おはよう」と星は答えた。
星は大きなテーブルのところにある椅子に腰を下ろした。
ついに(いろいろと時間がかかってしまったけど)森の奥に出発する時間がやってきたのだ。(ちょっとだけ、どきどきする)
「星、少し待ってて。ちょっと青猫の準備をしてくるから」
リュックサックの蓋を閉じた澄くんは、そう言って部屋から出て行こうとした。
「うん。わかった」
笑顔で星は答える。
(澄くんは青猫も一緒に連れて行くつもりなのだ。そのことについて、星は別に異論はない)
澄くんはドアを開けて一度、部屋から姿を消したが、すぐにまたドアが開いて、その顔を星に向ける。星は、なんだろう? といった顔を澄くんに向けた。
「準備している間にいなくなっちゃうってのは、無しだからね」と澄くんは星に言った。
「もう、わかってるわよ」
星は言う。
その答えを聞いて澄くんは笑い、そして、ドアは閉ざされた。
星は自分の森に出発するための準備を始める。
壁の向こうからは、青猫の鳴き声と、澄くんが(苦労しながら)青猫の出発の準備をしている音が、かすかに聞こえてくる。
その音を聞いて、星はくすっと小さく笑った。
とても穏やかな時間だと星は思った。




