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「澄くん」

 星は嬉しくて泣きそうになった。なんだか澄くんが(建前や、門番の仕事としてではなくて)本当に自分のことを受け入れて、そして、なによりも、自分のことを認めてくれたような気がしたからだ。

「そうね。ありがとう、澄くん。私、ここは澄くんの言葉に甘えることにするわ」

 笑顔で星は言った。

 結局、最後は澄くんに甘えてしまうのか、と自分でも少し情けないと思ったが、これはこれでいいのだとも思った。

 私の心は澄くんを選んだ。

 ……なら、自分の気持ちに正直なのが一番よい。

 人間、素直が一番だ。

 矛盾している? ……やっぱり、友人関係って難しい。恋愛って、すごく難しい。(もっと勉強しないといけない)

 二人はそれからとても甘い時間(二人のことを覗いていた魚にはそう見えた)を過ごした。


 甘い夕食の時間のあとで、二人はレコードの音楽(今回はレクイエムではなくて、星という名前の曲だった)を聞いたあとで、地下の食堂をあとにして、地上の家に戻った。

 外は真っ暗で、月も星も見えなくて、まだ雪が降っていたが、その雪の降りかたは、とても弱いものになっていた。明日の朝には(星の願い通りに)雪は、やんでいるかもしれない。

 星は澄くんと別れて自分の部屋(左の部屋)に戻った。

 そこでお風呂に入って、シャワーを浴びて、歯を磨いて、(お泊りセットもバックの中に用意してあった。星はそれを事前に部屋に持ち込んでいたのだけど、バック本体は部屋の中にはない。

 星の真っ白なボストンバックは、隣に澄くんのリュックサックがあったから、その場所に置いたままになっていた)星は毛布の中に入った。

 ランプの消しかたを教えてもらっていたので、ランプは消した。

 部屋の中は暖炉の燃える火の明かりだけになった。

 それは、ずっとゆらゆらと、まるで生者の(あるいは死者の)魂のように揺れていた。


 星はその手に小さな箱を持っていた。

 その箱を見つけたことを星は澄くんに秘密にしていた。(それにはきちんと理由があった)

 その箱をどうするのかで、星は魚と喧嘩をしていた。

「……魚、さっきはごめん」星は言った。


『……別にいいよ。僕も悪かったと思っている』と闇の中から魚の声が聞こえてきた。(その声は、まるでゆらゆらと揺れる暖炉の火が、星に向けて話しているようだった)

 星はその不思議な箱を見つめながら、(しばらくして、自然と目を閉じるようにして)その日、ベットの中で就寝した。

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